第97話〜パフォーマンス〜
かなう視点です
ミーミー__
化ける前の夜猫冥神は、小さな群れをつくり
愛依ちゃんを取り囲むように動き回っている。
攻撃してこないのを不思議に思っているのか、
愛依ちゃんはそこから1歩も動かない。
普通こういう時は、焦って下手に動き回りがちになる。
しかし、彼女は今冷静に状況判断をしている。
この数秒の行動で、彼女が対人戦での立ち回りも
上手いということが証明された。
「へぇ……やるね。」
まゆりと互角ぐらいか?
いや、でもまだ技を見ていないし
何より固有スキルを持っていない。
って……変に比べるのは良くないな。
私は一呼吸し、頭の中をリセットさせた。
「愛依ちゃん、キミはそこからどう動く?」
夜猫冥神は簡単に倒れるヤワな魔物ではない。
そのまま動かないなら、それはそれで
小ダメージの攻撃はされるだろう。
これが仮に、相手が人であれば、
どちらかが倒れるまで、戦いの時間は永遠に続く。
戦闘はスピードが命だ。
1歩遅れるだけで大惨事に至ることもある。
いかに速く、いかに効率よく……
そしていかに勝利の思考を導き出せるか。
思考が遅れれば身体も遅れる。
だからこそ、深く考えすぎる癖が身についてるうつつは
雛子にコテンパにやられてたのだろう。
部屋から出ていくうつつと、
それを追いかける雛子を眺めて私は思った。
「……ふぅ。」
きっと、雛子の指導なら大丈夫。
彼女もまたうつつと同じ道を辿った努力家。
私が教えられないことも沢山教えてくれるはず。
「風船我夢……!!」
丸くて艶のあるカラフルな風船ガムのようなものを
手に取り出した愛依ちゃん。
両手の指と指の間に挟んだ8個のガムを
ジャグリングのように華麗に宙へ回しながら狙いを定め、
夜猫冥神達へ向かって投げ飛ばした。
「面白いことをするね……。」
流石、道化師。
変わった戦闘スタイルというか……
パフォーマンスのように魅せる動きをしている。
ボンッ__ボンッ__
愛依ちゃんが飛ばしたガムが
夜猫冥神へ当たり、爆発する。
普通なら、ここで傷ついた夜猫冥神は
本来の姿へと変身する。
そう、 霧を纏った三頭の化け猫に。
しかし今、目の前で起きている光景は異常。
彼女の攻撃を受けてもなお、合体する気配がない。
ミキューミキューッ!!
「……へぇ。そういうことか」
中々面白いことをする。
爆発した煙の隙から姿を現す夜猫冥神。
合体しきれずに、個体が拘束されているようにくっつき
ボール状の塊になっている。
「数が多いので、魔物を8箇所に固めてみました。」
愛依ちゃんは、ボール状になった夜猫冥神の上に乗り、
玉乗りピエロのようにコロコロと転がした。
いやいや、この子器用すぎるて……。
「風船ガムって膨らんで破裂したあと、口の周りに
くっつくじゃないですか。それと原理同じです。」
爆発後にガムから粘着のある液体が飛び出し、
元の姿へ戻ろうとした夜猫冥神達へと付着したおかげで
今のボールのような塊になっていると言う。
合体によって姿が変わる夜猫冥神の性質だからこそ
上手く機能した技とも言える。
「しかし、欠点と言えば……。」
私、パワー無いんですよね。と
愛依ちゃんは悲しそうに言った。
「こういう細かい芸は出来るのですが、
完全にサポート型で、魔物を倒せるほどの
攻撃技術は私には無いんですよ。」
魔物を仕留める時も必ず最後は、
姉の舞依ちゃんが倒していたのだと。
「なので……ブルーベリー!!」
愛依ちゃんは、ブルーベリーと叫んだ。
どうやらそれが彼女の好物らしい。
「了解。あとは任せて。」
キミはよく頑張ってるよと私は愛依ちゃんの頭を撫でた。
正直、ここまで夜猫冥神を追い詰める力が
彼女にあるとは思っていなかった。
固有スキルへのヒントは見つけられなかったが
収穫のある良い訓練にはなっただろう。
「ここまでしてくれたら、私も楽勝だよ。」
私は、大剣を手に持ち構えた。
本来の姿へ戻る前に倒すには、
デカい一撃よりも、いかに早く100以上もの個体を
切り捌けるかが大事になってくる。
「韋駄天ッ!!!」
剣ではなく、足元にジリジリと生み出される雷。
静電気のようにパチンッと一瞬の弾きで私の足が動いた。
「一瞬だからよく見ててね。」
私は韋駄天の効果でバフがかかった足を使い、
8個のボール状になった夜猫冥神を
星を描くように剣で斬り刻んだ。
ミ……
弱々しく鳴く夜猫冥神。
小さく丸っこい姿は、さらに小さく刻まれたことで
ボロボロと崩れ消えていく。
まぁ、こんな風に全部斬り刻まなくても
核1匹を見つけて倒せばいいんだけどね……。
何せ100以上の中から、
ピンポイントで探し当てるのは難しい。
今回は愛依ちゃんがボール状にまとめてくれたおかげで
全ての個体を斬る策もやりやすかった。
本来なら、傷をつけた段階で巨大霧化してしまうからね。
「美味しいところ貰っちゃったね。」
「そんな。私一人では倒せませんので……。」
謙虚かよ……まぁ、事実でもあるのだろう。
そうなると……ギルド対抗戦で単独行動させるのは
少々、不安ではあるか。
攻撃を問われる場面で攻撃が出来ないとなると
致命的だな。
同じく、攻撃特化ではないうつつもまた不安要素。
[うつつと愛依→ペアにしない]と私はメモを書く。
「さぁ、次はなんの魔物で鍛えようか?」
私は休憩している愛依ちゃんに声をかけた。
夜猫冥神以外にも、クエストで戦える魔物のデータが
ここには揃っている。
対抗戦へ向けた訓練は、必ずみんなの力になるはず。
私も後で魔物と遊ぼうなんて思いながら
訓練を再開させた。




