第43話 格闘ゲーム大会に挑戦するギャル
私は最近、オタクがタイムリープした時特有のある弊害に悩まされていた。それは何かというと、「新しいコンテンツに触れることが出来ない」という弊害である。
例えば私の場合はエロゲオタクだが、私にとっての“新作エロゲ”が発売されるのは、2025年まで待たなければいけない。つまりあと10年以上は、既にグランドルートのオチまで知っているエロゲを繰り返しプレイするしかないのだ。
アニメとか漫画とかラノベとかも、大体知っているものばかり。もちろん全ての作品を知っている全知全能のオタクという訳ではないので、今まで触れてこなかった作品を見てみることも出来るが、私の人生に多大な影響を与えたような作品には、もう出会い直すことは出来ないのだ。記憶をなくして車輪の国とかG線とかすばひびとかやりたい。
葵と好きな時に好きなことを話せる“今”は大好きだけど、この問題だけがネックだった。常に新しい情報を摂取したいオタクにとっては、結構きつい。なんならこのままだと、オタクっぽい趣味から離れてしまいそうだ。
だから葵と一緒に格ゲーの店舗大会が行われるゲーセンの前に立った時は、久しぶりにワクワクした。一周目の世界でも、格ゲーの大会に参加したことなんてなかったからだ。これは全く新しい刺激だった。
「みーちゃん、もしかして緊張してる?」
「え? 全然全然! ちょー余裕ですけど?」
めちゃくちゃ緊張していた。こんなに緊張するのは、前の世界での入社面接以来だ。アラサーの心にも、まだこんな感情が残っていたんだな。私は心の中でニヒルに笑って、葵と戦場に歩みを進めるのだった。
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ゲームセンター「レタス菫ヶ丘」。私たちの学校の最寄り駅である菫ヶ丘駅から、徒歩5分くらいのところにある、二階建ての小さなゲームセンターだ。UFOキャッチャーなどが設置されている一階を抜けて階段を登ると、二階のアーケードゲームコーナーに出る。そこが本日の、私たちの戦場だった。
この時代はまだ分煙化も進んでいないので、店内はかなり煙草の匂いが充満している。ゲームセンター自体はどちらかといえば好きな方だけど、衣服に煙草の匂いがこびりつくのはあまり好きじゃなかった。
今日私たちが出場する大会は、スーパーストリートファイターIV…… とよく似た格闘ゲーム「ファイティングストライカーズ4」の大会。一周目の世界では聞いたことのないタイトルの格闘ゲームだ。1から3があったことすら知らない。略してファイストかぁ、と思った。
「もしかして大会への参加を希望される方ですか?」
そのファイスト4の筐体の周りに人が集まっていたので、葵と一緒に行くと、店員さんが話しかけてくれた。意外、って言ったらあれだけど、女性の店員だった。歳は大学生くらいだろうか。
「あ、そうです! 私とこの子の2名で参加したくて!」
私が葵と一緒に大会に参加したい旨を伝えると、
「わかりました! ではリングネームを教えてください。特に無いようでしたら、適当に今考えたやつでも大丈夫なので」
リングネーム。格闘ゲームにそういう文化があるのは知っていた。でもこういう店舗レベルの小さい大会でも、マストで考えなきゃいけないようなものだとは知らなかった。新鮮な体験だ。
しかしリングネームか。うーん……。私の名前の源美樹から適当に取って、美樹、みき……。
「じゃあミッキーでお願いします」
「ダメです」
ダメか……。
「ではミキティで」
「…… わかりました。ミキティさんですね」
ギリOK、といった感じで了承して貰えた。続いて葵のリングネームは、
「あの、あお汁で……」
「あお汁…… あ! もしかしてフェイフェイ使いのあお汁さんですか? 家庭用の熱帯(ネット対戦)で謎の上位ランカーとして話題になってる」
「あ、いや、それほどでも……。えへへ……」
葵、結構有名プレイヤーなのか。このゲームのプレイヤー人口がどれくらいなのかはわからないけど。ちなみに「フェイフェイ」とは葵の使用キャラで、どの格闘ゲームにも何故か一人はいる中華娘枠のキャラクターだ。
ともかく、こうして私たちは参加登録を終えて、晴れて大会デビューすることとなった。
しかし、と周りを見る。予想していたことではあるが、驚きの男性率の高さだ。というかこの空間に女性は、私と葵、そして先ほどの店員さんしかいない。これが初めての格ゲーの大会ということもあって、とてもアウェイな場所にいる気分になってしまった。
筐体の周りにいる人たちは十数名くらいしかおらず、お世辞にも大きい大会とは言えない。だけどやっぱり私はこのアウェイな雰囲気も相まって、珍しいくらいに緊張していたのだった。
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『えー、それではそろそろ定期大会の方を、今月もやっていきたいと思います。はい拍手!』
おもむろにさっきの女性店員さんがマイクを持って、思っていたよりぬるっと大会が始まった。本日の参加者は16名。2on2のトーナメント戦なので、3回勝てば優勝ということになる。
令和のeスポーツ大会では、ウィナーズとかルーザーズとかがあったり、三先(BO3)だったり五先(BO5)だったり、なるべく運の勝負にしないための色々なルールがある。しかしこの頃の格闘ゲームの大会は、敗者復活戦無しの一先(BO1)で全てが決まる大会がほとんどだった。葵が最終目標にしている闘劇もそうだ。
だから例えば他の県とかにはるばる“遠征”をして大会に参加しても、一先で負けてしまえば大会終了ということになる。2010年はそれが当たり前だったけど、令和の常識で考えたらすごい話だ。
『本日は初参加の方もいるので説明しますと、私の目の前にある一番壁側の筐体が対戦台となりますので、リングネームを呼ばれたらまず先鋒の方から座ってください』
店員さんが、大会進行のための簡単な説明をする。対戦台のゲーム画面は録画されており、後日ニコニコ動画などにアップされること。一時退店や棄権の場合は、店員のお姉さんに一言かけること。練習台は交代で使うこと、などなど。
他の参加者は適当に聞き流してる感じだったが、私はめちゃくちゃ真剣に聞いていた。すると隣で葵が、
「大丈夫だよみーちゃん。とにかく楽しんで。あ、あと対戦台はフリープレイだから、お金入れなくていいからね」
なんだろう、今日の葵はめちゃくちゃ頼れる感じだ。正直「参加者16名しかいないのに2on2なんだ」とは思ったけど、2on2のチーム戦で本当に良かったとも思っている。というかシングルだったら、そもそも参加していなかっただろう。
『では一戦目の方。青じるさん&ミキティさんチーム。AT限定さん&生肉さんチーム。対戦台に座って準備をお願いします』
ついにきた。というかよりにもよって大会一戦目って……。
今更になってビビっていると、葵が私の背中を軽く叩いて先を歩いてくれた。吊り橋効果とかなんとかかんとかで惚れてしまいそうだ。葵についていく形で対戦台に座ると、
「まず普通にキャラクターを選んで、ボタンチェックを行ってください」
店員のお姉さんが、マイクを外して対戦の流れの説明をしてくれる。ところで格ゲー大会初参加あるあるかもしれないけど、このボタンチェックの時間、何していいかわからなくない?
私は取り敢えず全てのボタンを順番に押して、「よし、大丈夫だな」って顔をしておいた。本当はコマンド技とかもやっておくべきなのかもしれないけど、それで出なかったら舐められそうなのでやめておいた。ボタンチェックが終わると、
『それでは定例ランバト2on2、いってみましょおおおおおおお!!!』
お姉さんが急にテンションを上げて大会開始を宣言した。独特な雰囲気に飲まれそうになりながら、私は再度自分の使用キャラクターを選択する。
私の使用キャラクターは、「リョウ」と呼ばれる主人公キャラ。飛び道具や対空技など、基本的な技が揃ったスタンダードキャラ…… にしようとしたが、調整ミスでセットプレイでハメ殺すキャラになってしまったようなキャラクターだ。
具体的には敵を画面端に追い詰め、ガード困難な連携をループさせて敵を倒し切るキャラ。立ち回りが未熟でもセットプレイさえ覚えればワンチャンあるという理由で、葵におすすめされてこのキャラを選んだ。
『1P側は本日初参加のミキティ選手。対する2P側は“対空の生肉”との異名を持つ生肉選手。一体どういう戦いになるのでしょうか!』
なるほど。どうやら相手はジャンプした相手を落とす“対空”が得意なプレイヤーのようだ。その情報、今聞いちゃってよかったのだろうか。
ともかく、ついに私の大会デビュー戦が始まる。葵に頼まれて数合わせ的に参加した大会だけど、私は本気で勝ちたかった。だって葵にいいとこを見せたい! また2on2の大会に参加する時は、次も私に声をかけてほしいから。
それに葵が真剣な格ゲーに、私も真剣になりたかった。




