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第41話 携帯電話の時代の情報の速度

 お風呂から上がって自室でラノベを読んでいると、委員長からメールが来た。



【Date】2010/10/1 22:01

【From】実咲ちゃん

【Sub】来週お暇ですか?ヽ(*´∀`)ノ

─────────────────────

次の週のお休みの日に、みなさんでどこかに遊

びにいきませんか?(絵文字)


葵さんや結愛さんも誘って(^▽^)o

─────────────────────



 ふむ。私はOKだ。承諾の旨を伝えて、他の2人を手分けして誘うことになった。委員長が結愛ゆあにメールして、あおいには私がメールをする。しばらくして、葵からメールが返ってきた。



【Date】2010/10/1 22:06

【From】あおい

【Sub】Re:来週ひま~?

─────────────────────

おけ

─────────────────────



 葵もOKのようだ。詳細な予定などはまだ決まっていないことを葵に連絡して、委員長にも葵が遊びに参加出来ることを伝える。先にメールが来たのは、



【Date】2010/10/1 22:13

【From】あおい

【Sub】Re:Re:Re:来週ひま~?

─────────────────────

了解!


ところで明日は暇ですか?

─────────────────────



 お、葵からデートのお誘いだ。今日は金曜日で、明日は土曜日。明日は…… 15時までバイトだ。でもその後だったら遊べる。そんなことを考えていると、



【Date】2010/10/1 22:16

【From】実咲ちゃん

【Sub】Re:Re:Re:Re:Re:Re:来週お暇で

─────────────────────

葵さんへの連絡ありがとうございます!(絵文字)

こちらも結愛さんOKでした!(絵文字)


詳細は学校でお話ししましょう!(*^ー゜)b

─────────────────────



 なるほど結愛もOKだったか。じゃあ日程に関してはほぼ確定ってことでよさそうだ。バイト入れないようにしなきゃ。委員長に承知した旨と、ついでにおやすみの挨拶を送る。


 という訳で約15分くらいかけて、やっと来週の休日に4人で遊びに行こうってことがざっくり決まった。これでも結構早い方だ。具体的に何処に行くかとかは、メールで話し合うのは困難なので、委員長が言うように後日学校で直接会って話した方が早い


 グループLINEとかで決めればいいだろって? LINEなんてものはまだ存在しない。それどころかスマホの普及率も大体4%くらいだ。実際に私、葵、結愛、委員長の中で、スマホを持っているのは私だけだった。


 電話は携帯料金がもったいない。私のプランの場合、21時以降の通話は、同じキャリアであってもかけ放題にならない。


 これが2010年の平均的な通信速度。まだ情報が瞬時には伝わらず、制限もある世界で、私たちはなんとか生きていた。あ、そういえば葵への返信がまだだったな……。


…………

……


 翌日、バイトを終えた私は、そのまま葵と駅前で合流する。何をするかノープランだったので、取り敢えず2人でマックに入った。


 今日の葵の服装は、パーカーにジーパンというスタイルだ。これが葵の秋服だった。


 以前私は葵の私服をダサいと思ったが、最近は「そんなことないかもしれない」と思い始めている。例えば私の今日の私服は、花柄のワンピースにダンガリーシャツという、いかにも2010年の流行のファッションといったスタイルだ。しかしもし令和の時代で、今の私と葵の服装を比べたら、ひょっとしたら葵の方が違和感がないかもしれない。


 つまり葵の私服はめちゃくちゃシンプルが故に、時代を選ばない普遍性があるのだ。それになんだか最近は、葵のめちゃくちゃシンプルなTシャツやパーカー姿が可愛く見えてきたというのもある。


「あ、委員長からメール来た」

「わたしもだ」


 葵と会話している最中に、委員長からのメールを受信する。開いてみると、画像がいくつか添付されてあった。委員長が撮影したと思われる、体育祭の写真だった。


「葵のも見せて見せて!」


 葵のメールには、私に送られてきたものとは別の写真が添付されていたようだった。私の写真は私がメインで写っている写真で、葵は葵メインのやつだ。もしかして結愛にも送っているのだろうか。まさかクラス全員分ってことは……。いやさすがにマメな委員長でも、そこまではやらないか。


 ともかく、これが2010年の一般的な写真共有方法だ。メールで送ったりすることがメインなので、携帯電話で撮影される写真全般を「写メ」と呼んだ。別にメールで送らなくても、「写メ撮ろー!」って言う。こうして写真は、基本的に仲間内だけで回される。


 一応mixiなどのSNSにアップロード出来たりもするが、一般人は顔写真をネットに上げたりはそんなにしない。ギャルがプリで撮った画像を前略プロフィールに投稿したりするくらいだろうか。


「ねぇみーちゃん…… あの、みーちゃんの写真もちょっと欲しいかも」

「ん? いいよ」


 委員長から送られてきた画像を、そのままメールで目の前の葵に送った。ガラケー同士だったら赤外線通信でも送れるが、私はスマホなのでメールで送るしかなかった。


 交換で、葵にも写真を送ってもらった。SNSにアップとかする訳でもないけど、自分のスマホの画像ファイルに葵の写真が追加されていくのは、それだけで嬉しかった。


「そういえばみーちゃん、今期のアニメの話なんだけど」

「お、何か面白そうなのある?」


 2010年秋アニメは、アニメ史に残るレベルの豊作の年だった。「荒川アンダー ザ ブリッジ」や「とある魔術の禁書目録」といった、人気シリーズの二期。他にもイカ娘、俺妹、神のみ、海月姫、それ町、バクマン、カッコカワイイ宣言など、後世まで語り継がれるような作品が一斉に放映された。個人的にはパンティ&ストッキングwithガーターベルトが好きだった。


「見たいアニメが多すぎて全部見れない!」


 葵が頭を抱えるようにして言う。もうこの頃から、オタクでもアニメを全部追うのは困難なほど、1クールごとの作品が膨大になっていた。でもアニオタに優しい救済措置もあって、


「まぁ最近はニコ動でもアニメが見れるから助かってるけど」

「そうなんだ」


 2000年代後半から、やっとニコニコ動画で“公式が”アニメを公開するようになった。ニコ動とアニメの歴史は、色々ある。違法アップロードの無法地帯の時代とか、MADとか、権利者削除とか不死鳥動画とか、色々あった。


 ともかく色々あって、ついに堂々とニコニコ動画でアニメを見られるようになったのが、ゼロ年代後半から2010年にかけて。葵もしっかりその恩恵を受けているようだった。


「それでもさすがに絞らないとダメかなぁ。このミルキィホームズってアニメとか、あまり面白くなさそう」


 葵はそんなことを言うけど、その作品、この群雄割拠の2010年秋アニメで覇権を取ることになるんだぞ。ニコ動での配信の恩恵を一身に受けたのが、「探偵オペラ ミルキィホームズ」というアニメだった。色々な意味で、ニコ動向きの作品だったのだ。


 多分葵も見ることになるだろう。でもそれはミルキィホームズが放送されて、ニコ動で配信されて、少しずつ話題になって、ランキングの上位に入ってからになるかもしれない。まだTwitterにトレンド機能も無い時代なので、流行や盛り上がりが個人に届くまでは若干のタイムラグがあった。


…………

……


 バイトをして、葵と遊んで、家に帰ってご飯を食べて、お風呂に入って、一日が終わる。今日も充実した一日だった。


 ベッドに寝っ転がって、なんとなく画像フォルダの中の葵の写真を眺める。写真の中の葵は体操服姿で、頑張って走っていたり、少し照れたようにピースしたりしていた。フィルターで盛ったりしてる訳でもないのに、とても可愛い。委員長、写真撮るの上手だなと思った。


 画像フォルダに葵の写真があるのは、自分のスマホの中にいつでも会える葵がいるようで、それがなんか良かった。タイムリープでこの時代に戻ってくるまで、長らく忘れていた感覚だ。それくらいこの時代の“写真”は、ローカルでプライベートなものだった。


 葵の写真を眺めて満たされていると、スマホにメールがきた。



【Date】2010/10/2 23:32

【From】あおい

【Sub】Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:

─────────────────────

もう寝ちゃった?(絵文字)

スカイプ繋いで今からアニメ見るのとかどうで

すか?

─────────────────────



 不便ではあるけど、メールにはメールならではの情報量がある。例えば【From】の横に「あおい」って文字列があったら、それだけで嬉しくなったり。葵はいつも返信で新規メールを作成するから、「Re:」の数が大量になったり。珍しく絵文字を使っていたり。「一緒に」って言葉を使うのは恥ずかしかったんだなって思ったり。


 実は通信の発達と情報量は、そこまで比例しないのかもしれない。だって手紙の情報量とかすごい。テキストだけじゃなくて、その人の部屋の匂いとか、字を消した跡とかも添付されている。4Dのメッセージだ。


 私は葵に返信をして、自室の小さいブラウン管テレビと、机の上のノートパソコンの電源を入れる。ヘッドセットを付けてSkypeを立ち上げると、


『ごめんねみーちゃん、夜遅くに……』

『全然いいって! それよりなんのアニメ見るの?』


 この時代に友達と通話を繋ぎながら深夜アニメを見るのは、なんだか特別感があった。ネットの通話サービスの音質や、ヘッドセットの性能などがまだまだ発展途上で、せっかくの葵の声もあまり綺麗には聞こえない。テレビも小さい。だからこその特別感というか。


 なんか懐古主義だと思われるかもしれないな……。実際そうではあるけど、令和も令和で好きなところもあった。葵とビデオ通話繋げて寝落ちもちもちとかやってみたい。そうだ。私はスマホを取って、ちょっと令和みたいなことをやってみることにした。


『ねぇ葵、ちょっとメール見て』

『ん? んー。え! えぇ!?』


 葵にメールで自撮りを送ってみた。LINEも存在しないこの時代では、あまり浸透していない文化だ。きわっきわのバカップルがやったりやらなかったりするくらいだろうか。


『これ貰っちゃっていいの? ほんとに?』

『友達に自撮り写メ送るのなんて、結構普通のことじゃない?』

『そうなんだ…… 知らなかった』 

 

 洗脳を成功させるには、「情報の遮断」が重要らしい。そして平成のインターネットには、最近のギャルの事情みたいな情報はほとんど無かった。まだネットはオタクのものだったからだ。つまり平成の情報量の中では、葵に「自撮りは普通」と思い込ませることも出来そうだった。いや冗談だけど、多分。


 ちなみに送ったのはエロ自撮りではない。まだ微妙な画質のスマホのカメラで、ライティングとカメラアングルだけで頑張って盛った、普通の自撮りだ。


 葵の自撮りもちょっと期待したけど、多分そういうことをやるのは苦手そうだと思ったから、要求しなかった。でも姿は見えなくても、葵が今どんな格好で、どんな風に座っているのか想像しながら通話をしているだけで、私は十分ワクワクした。


 やっぱり懐古主義になっちゃうけど、私にはこれくらいの情報量がちょうど良かった。

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