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第22話 親友とコスパ最高の昼飯

「ねぇ結愛ゆあ、お昼ご飯どうしよっか?」

「んー」


 クーラーの効いた私の部屋で、結愛はやたら長い脚をベッドから放り出しながら、これ以上ないくらいに「今あたしだらけてますよ」って感じでだらけていた。そして私はそんな結愛を放っておいて、一人でアニメを見ていた。


 まさに虚無。しかしそんな虚無を続けていると、さすがに脳にちょっとでも刺激が欲しくなってくる。だから私はだらける結愛を引きずるようにして、せめてお昼は外で食べることにした。


「外あっつ……」


 ダウナーギャルを超えて虚無ギャルになりつつある結愛に、私は、


「で、お昼ご飯どんなの食べたいの?」

「安くてうまくて量があって夏にぴったりな安いやつ」


 注文多いな。サイゼでいいか。結愛も私も普通にサイゼで喜ぶタイプの女だ。


 しかしそこまで考えて、結愛の恐らく脊髄から出たであろう要求を、全て叶えられる場所があることに気付いた。安くて、美味しくて、量があって、夏にぴったりな料理を食べられるところだ。ここからも近い。


 だから私は、真夏の日差しで溶けそうになっている結愛に、


「じゃあさ、すぐそこの大学の学食で食べようか」


 そう提案するのだった。


…………

……


 大学の学食。コスパという面においては、これ以上の選択肢はそうそう無いだろう。


 なんとなく部外者は立ち入り禁止のイメージがある大学だが、学食を一般に解放している大学も少なくない。もちろん学校にもよるが、通ってもいない大学の学食でお昼ご飯を済ませるという選択肢は、実は普通に存在するのだ。さらに言えば高校生の私たちには、「学校見学のため」という大義名分もある。


 だから結愛が「本当にこんなことしていいんか?」みたいな目で見てくるが、いいんだ。私は結愛を連れて、まるで何年も通っている在学生のようなスムーズな足取りで、学食へと向かっていく。


 というか、タイムリープする前の一周目の世界で、私と結愛が通っていた大学だ。単純に家から近いからという理由で、私たちは高校卒業後、この大学に進学したのだった。


 学食に入ると、この二周目の世界で初めて高校の教室に入った時のような、強烈な懐かしさを覚えた。すっかりテンションが上がった私は、


「ほら見て結愛様! この夏にぴったりなカレー定食! それにめちゃくちゃコスパ良くない!?」

「あたしラーメンにするわ」

「いやカレーじゃないんかーい! 結愛様カレーじゃないんかーい!」

「ウザ……」


 なんかこんな感じのやり取りを、前の世界でもやった気がした。以前から私は、結愛をちょっと困らせるのが好きだった。


 ほどなくして、料理を自分たちで席に持ってきて、向かい合って座る。休日だけどお昼時なこともあって、学食内はそこそこ他の学生で賑わっていた。ちなみにこの大学の夏休みは8月上旬からなので、7月の終わりの今はまだ普通に授業が行われているのだった。


 結局私が頼んだのは、在学時もお気に入りだったカレー定食。でっかいナンと、本格的なインドカレー3種を自分で選べて、さらにサラダとラッシーも付いてくる。これでなんと400円。


 そして結愛が持ってきたラーメンは、こちらも何故かサラダが付いてきて、そしてデザートのゼリーもセットになっている。お値段は300円。もしこれが一般的なお店なら、価格破壊ってレベルじゃない値段設定だった。


 二人で「いただきます」をして、さっそく食べていく。と言っても私にとっては何回も食べてきたカレーなので、美味しさよりも懐かしいという感情の方が勝った。


「結愛様どうでしょうか?」

「ん? まぁ普通に美味しい」


 なによりだ。学食にとって「普通に美味しい」は最大級の褒め言葉だろう。多分。


 その後は特に会話もなく、黙々と自分たちのお昼ご飯を食べていった。なんだかこうしていると、結愛との大学生活に戻ったような気分だった。いや今の私は高校生なんだから、戻ったではなく進んだ? わかんないけど、今日に限らず結愛と二人きりでいると、たまにそういう錯覚に陥る。


 高校を卒業しても、結愛はずっとこのままだ。それは成長をしていないということではなく、根本の部分が変わらないという意味で。いつもどこかダルそうで、でも実は正義感が強くて、寛容で、美人で、音楽オタクで、たまに私を叱ってくれて。


 だから高校時代にタイムスリープした今でも、結愛とだけはあまり高校生として接していない自分がいた。むしろ結愛だけが本当に高校生であるという事実の方が、私にとっては違和感を覚えるほどだった。


…………

……


 学食を食べ終えて、ついでに大学構内を見て回っていると、サークル棟の方からバンドの演奏が聞こえてきた。


「ねぇ結愛、なんか軽音サークルが定例ライブをやってるっぽいよ? 見ていく?」

「ほう? どれどれ……」


 今は試験期間のはずなのに、この時期に定例ライブとか強気過ぎる軽音サークルだなぁと思った。ただ高校と違って、試験期間中はサークル活動禁止みたいな決まりも無いので、たまにこういう様子がおかしいサークルも出てくるのだった。


 この大学のサークル棟には、通称「青部屋」と呼ばれる練習ホールがあり、よくダンスサークルや軽音サークルの定例ライブなどで使われている。全然青くないし、正直なんで「青部屋」って呼ばれているのか結局わからないまま卒業したけど、とにかくその練習ホールでライブをしているようだ。


 廊下でたむろしている、恐らく軽音サークルの人たちをすり抜けるようにしてライブ部屋に入ると、ちょうどガールズバンドが演奏をしているところだった。


 その爆音のなかで、結愛の耳元に顔を近づけて「どう?」と聞くと、


「クソ下手」


 さすがに他の人には聞こえていないと思うけど、あまりに正直すぎる評価に、思わず周囲をきょろきょろしてしまう。ただその辛口評価と裏腹に、結愛はじっとステージを見つめていた。もしかしたら演奏に聞き入っているというよりは、自分がこのステージに立つことを想像しているのかもしれない。


 結局1バンドだけ聞いて私と結愛は外に出ると、廊下で女性のサークル員と思われる人が、


「あの、ひょっとして新入生の方ですか? もしかしてバンドに興味があったりとか」


 勧誘だった。私も結愛も高校生のわりには大人っぽく見られがちな見た目をしているので、この大学の1年生だと思われたようだ。


「そうなんですよ! あ、でもちょっと今色々と忙しくて、サークル入ろうとかそういうのじゃないんですけど……」


 私がやんわりと断ると、


「そうなんだ。あ、でもそっちの方とかギターボーカル似合いそう」

「いや、あたしベースやってるんで」

「経験者! 今じゃなくてもいいから、ちょっと考えてみてくれない?」

「考えておきます」


 色々な意味で大嘘だった。まず私たちはそもそも大学生じゃないし、さらに結愛は大学に入ってもサークルには所属せずに、外でバンドを続けることになる。


 サークル棟を後にして、結愛と一緒に自宅に帰る途中。一応私は、


「ねぇ結愛、本当にサークルに入るの?」


 と聞いてみた。


「入るわけないじゃん。これでもあたしプロ目指してるんだよ」

「それもそうだよね」


 聞く必要も無かったけど、私の知っている結愛から変わっていないことに安心した。すると結愛が、


「まぁでも今って大学は試験期間中なんでしょ? その時期にライブやるのはロックだと思ったよ」

「あはは、それはく」


 あっぶな。今ナチュラルに「草」って言いそうになった。令和ではギャルも使っている言葉だけど、2010年現在では「草」だけは使ってはいけない。色々とセンシティブな話題なので深くは触れないけど、「草」だけはダメなんだ!


 どうやら結愛と大学に来て、すっかり心が令和に戻ってしまったのかもしれなかった。大人になっても、アラサーになっても、ずっと結愛は私のそばにいた。この二周目の世界でも、それだけは変わらないで欲しいなと思った。

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