プロローグ 諦めきれない恋
「あああああっ!!!」
少女の叫び声をあげると同時に、机の上に乗っているものを地面へと落とす。
狂ったかのように机を叩き、泣き叫ぶ。
「私だって……大好きなのに……」
椅子に座り、顔を伏せる。
その間も少女はずっと泣いていた。
その少女の近くには、大好きな後輩の写真が置かれていた。
島原風峰という男子高校生は、クラスメイトの島原美咲という名の彼女と付き合っていた。
苗字が同じなので、周りからは、島原カップルと呼ばれていた。
彼女である美咲はとても優しい女の子だった。
しかし、父親から妹がいるという話をされたことにより、美咲が妹だということがわかった。
美咲のことが好きだった風峰は、美咲や周りの人に知られたら美咲が別れようとしてしまうのではないかと思い、そのことを隠すことにした。
その後、同じ島原の苗字である姉妹が転校してきた。
父親を問い詰めたところ、彼女たちも自分の妹であることが発覚する。
そして、その姉妹に兄妹だということがバレてしまう。
姉妹は風峰に甘えるようになった。
だが、甘えられているところを美咲に見られてしまい、浮気されたと勘違いされてしまう。
誤解を解くために風峰は美咲と話し合い、実は、既に風峰が兄だということを知っていた。
それにも関わらず、美咲は風峰と付き合っていたことがわかった。
それほど愛していたのだ。
そのため、美咲はかなり心に傷を負ってしまった。
しかし、彼女たちも美咲と同じ妹であり、ただ甘えていただけということを話した。
浮気していないということがわかり、ホッとした美咲は泣き崩れる。
そしてそれ以降四人は、学校では彼氏彼女、先輩後輩、四人だけの時は、血の繋がった兄妹として過ごすようになった。
そんな出来事から数ヶ月後。
角見千春という少女が、風峰に恋をした。
無理やり自分と付き合わせるために、風峰の彼女である美咲に嫌がらせをして、別れさせようとした。
美咲は病んでしまい、家に引きこもり、栄養失調で倒れ、病院へと運ばれた。
その後、美咲が引きこもった原因が千春だということを知る。
そして、風峰は千春を問い詰めた。
大好きである風峰を本気で怒らせてしまい、先輩の大切な彼女を追い込んでしまった千春は、罪悪感から飛び降り自殺をしようとした。
しかし、周りのみんなや追い詰められたのにも関わらず、心配に思った美咲により自殺は阻止された。
現在では今までの出来事がなかったかのように仲良くなり、楽しい学校生活を送っている。
そんな角見千春自殺未遂事件から四ヶ月が経過した。
「うぅ......寒くなってきたな......」
俺は手を息で温めながら一人で帰宅する。
空はすっかりと暗くなり、冷たい風が吹き抜ける。
今日は春花と秋葉の家で夕食をご馳走になり、適当に雑談をしていた。
あまりにも楽しかった為、気がつけば時刻は九時を回っていた。
それで、こんな寒い中を帰宅していたのだった。
「ん......? 家の前に人影が......?」
家が見えてくると、玄関前にしゃがんでいる人影が見えた。
隣には、キャリーケースが置いてある。
おそるおする近づいてみると、里奈先輩がしゃがんでいることがわかった。
「里奈先輩! どうしたんですか、こんな暗く寒い中にこんなところにいて!」
「あ、風峰くん......」
里奈先輩の手は白く、とても冷たそうだた。
「そんなに冷えて......! ほら、少しでも体が温まるように、俺のブレザー貸しますから羽織ってください!」
俺はブレザーを脱ぎ、里奈先輩に渡す。
無言でブレザーを羽織ると、里奈先輩は少しだけ微笑む。
「いい匂いだね......」
そんなような言葉が聞こえたような気がした。
「それで、里奈先輩はなんでこんな時間に俺の家の前にいるんですか?」
里奈先輩は無言で俯く。
そして、口を開いた。
「......風峰くん。お願い。私をここに住ませて......。」