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新学期

「えーとこれがこうで……」

「いや、これがこうで……違うか」

「これが……」と慎二くんは粘り強く考えたが、諦め「分からない。結月、これ分かるか?」と私に問題を回した。

今は英語を勉強中だ。英語は一番得意な教科だ。

「これがこうでこれがこうじゃないかな?」

意外と簡単だった。

「すご……」


「すーがくはいやだー」と私は嫌な顔をして言った。

「分かるー。難しいよね」と遥ちゃんが共感してくれた。

「でもやらないと大変な事になっちゃうよね」

「そうだね」

大変な事になるのは知っているが、やる気がでない。

「やる気が出ないよ」と私は深いため息を吐きながら言った。

すると、慎二くんが私の耳元で、「結月。頑張れ」と囁いてくれた。

私はすぐに顔が紅くなり「頑張るう」と語尾を上げながら言った。

 数分後「できたあ」と再び語尾を上げて言った。

慎二くんが丸つけをしてくれた。全問正解だった。

「五十点だったのに全問正解なんて……」とみんなは驚いたので、私はにやりとしながら「やる気の問題」と言った。


勉強会は幕を閉じた。


「あれ? もう三月? 私たちも三年になるじゃん」

ふと気がつく。

「確かに。同じクラスになれるといいね」

「うん!」

私はにこにこしながら言った。「同じクラスになれるといいね」と言ってくれたのは何年ぶりなのだろうか。久々すぎて私は泣きそうになった。そう言ってくれる人がいてくれて嬉しかったのだ。


(特にないので三月飛ばします)


 始業式──

「もう三年かー」と遥ちゃんがため息混じりで言う。

気がつくと三月。あと一年経つとみんなとお別れだ。そう思うと悲しくなる。

また、卒業したら私はどうなるのだろうと毎回思う。ずっと二次元(この世界)で暮らすのか、何らかの方法で三次元(元の世界)に帰るのか。

──まだ先のことだから、気にせず生きよう

私は目を瞑り、手を合わせた。

「何してるの?」と遥ちゃんと由依ちゃんに訊かれたので「同じクラスになりたい人がいるから祈ってる」と私は名前を伏せて言った。

その人は慎二くんだと二人は察しただろう。

 結果、全員同じクラスだった。

早速、新しいクラスに行き、着席した。


「今日は自己紹介をしてもらいます」

次は私の番だ。

「田中結月です。趣味はピアノです。最近は推し活にハマっています。よろしくお願いします」

推し活を付け足ししてしまった。推しはここにいるのに。まあ、いいか。


「これで自己紹介は終わりです。みんな仲良くしましょう!」

「はい!」


 早く秋にならないかな、と思ったが、今は五月の終わりだった。

「今日は修学旅行の班決めをやります。班は自由ですが、人数は五人から八人です」

私には「自由班決め」は苦い思い出しかない。


「〇〇ちゃんー! 一緒に組もー!」

これは、小学校中学年の時の、校外学習の班決めだ。班は自由。私以外全員は既に分かれている。

すると、一人、私に気がつき「結月ちゃんはどうする?」と言った。

もしかしたらあの班に入れてもらえる! と思った。自分から「入れて」とは言えない。いつも一人ぼっちだからだ。

こんなぼっちに話かけられても不快でしかないだろう。

私に気がついた同じ班の子が「え? あの子って一人好きじゃん。一人でよくない?」と言った。

やっぱりそうだ。みんな嫌いなんだろう。だけど一人は好きじゃない。なぜ勝手に決めつけるのだろう。本当はみんなと仲良くなりたかった。だけど孤独だった。いつも、いつも。私の〈嬉しい〉〈楽しい〉という気持ちは深い、深い暗闇の底に封印されたままだった。もう、二度とその蓋が開くことはないだろうと思った。

「確かに」と私に気がついた子がくすっと笑いながら言った。

矢が飛んできた。その矢が私の胸的に当たった。


「結月さんが余ったね。じゃあこの班でいいかな?」

嫌だった。先生が提案した班は、私の悪口を言った奴らだったから。先生、分かっていないのだろうか。味方ではないのか。

「先生。嫌です。向こうの班でいいでしょ」「こっちだって嫌だよ」

そんな声ばかり聞こえる。

矢が私の的胸に刺さる。

そのうちの一本が的の中心に刺さった。私の的硝子ガラスの心がばりっと壊れた。

もう、限界だ。

「先生。みんな、私を嫌うので私、一人でいいです」と私は静かに言った。

「結月さん、それは駄目」と先生は怒った口調で言った。

 もう的硝子の心は粉々だ。完全に直るのはいつだろう。完全に直った時には死んでいるかもしれない。自力で直せない。時間が経たないといけない程だ。それもかなりの時間で。

はあ、また一人か、とうつむきながら心の中で呟く。

すると「結月、一緒にやろう」と声がした。

顔を上げると慎二くんがいて、手を出してきた。

「うんっ!」

私は手を握った。

少しだけ硝子の心は修復された……気がした。

最後こだわった

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