解決
少し前の話。静かな教室で緊急会議を開いている。
メンバーは光と淳司と明の遥と由依の五人だ。
「あのさ、慎二が田中さんと付き合ってるっていう噂あるじゃん」と光が言う。
「うん」全員が頷く。
「でさ、田中さんが少し落ち込んでいるなあって思った訳よ」
「うん」再び全員が頷く。
「だから落ち込んでいる理由を探って慰めてあげようって思ってるんだけど……ねえ、誰か調べてよ」
「私に任せて!」と遥が拳を胸に当てて言った。
数日後「情報入手したよ!」と遥が駆けつけた。
「何?」
「慎二くんって異性の人全員名字で呼ぶじゃん。だけど結月ちゃんだけ下の名前で呼んでるんだよ。もしかしたら、それが原因で噂ができたんじゃないかって思う」
「じゃあ、みんなで下の名前で呼べば噂無くなるんじゃないか」と明が提案した。
「そしたら結月ちゃん、気まずくならないね」
「確かに! それしゃあ、始めるか!」
──作戦開始。
「結月さん、これ落としたよ」
「……? あっ。ありがとう」
何故、光くんは名前呼びなんだろう。
「結月。貸してもらった本」
「? ありがとう」
明くんまで。
「結月さん。これどうやって解くんだ?」
「? これはこうやって、こうで、こう」
淳司くんも⁈
なぜみんな下の名前で呼ぶのか不思議に思った。毎日謎に思う。なぜ最近みんな下の名前で呼ぶのか。詳しく知りたいけれど聞きにくい。「何でみんな下の名前で呼んでるの?」と訊き「別に」と言われた時、とても気まずい。
気にしすぎなのかな。んー。聞いてみようかな。だけど「別に」と言われた時の気まずさ。
考えていると、後ろから足音が聞こえてきた。
この展開は慎二くん登場? と思った。
「結月ちゃん! おはよっ!」
振り返ると遥ちゃんだった。
「お、おはよう」
「驚かせてごめんね。ってか大丈夫? 落ち込んでる?」
遥ちゃんは私のテンションが低いことを見抜いた。
「いや、特に。何も」
「何か悩み事があるの? 話でも聞くよ!」
私は一呼吸置いて「実は、最近、みんな私の事を下の名前で呼ぶじゃん。だからなぜだろうって思って。……私、気にしすぎだよね。ごめんね。折角相談乗ってくれたのに」と言った。
遥ちゃんは明るく元気な声を抑え、静かに「私こそごめん」と言った。遥ちゃんの口から意外な言葉が出てきた。
「え?」
「本当は、結月ちゃんが楽しく生活できるようにやったんだ」
「……?」
「噂があったじゃん。慎二くんと結月ちゃんが付き合ってるっていう噂。それで原因が下の名前だったからみんなで下の名前で呼んで誤魔化そうとしたんだ。噂って不安じゃん。だから楽しく生活できるようにって実行したんだ。今まで黙っててごめんね」
そうだったのか。
「うんん。言ってくれてありがとう」
こうして謎の下の名前呼び事件は解決した。




