奇遇だね、
「お待たせ!」
私はみんなが来る前に私はこっそりクッキーを作っていた。
「うわぁ! 美味しそう!」と遥ちゃんと由依ちゃんが言う。
「これ結月が作ったのか?」
私は「うん。ちょっと下手だけど」と形が歪なクッキーたちを見て、はははと笑いながら言った。
遥ちゃんと由依ちゃんと話しているとぼりぼりと何かを食べているような音が聞こえた。
音が聞こえた方を見てみると、慎二くんが私が作った歪なクッキーを抱えて食べていた。
「ふごふごふご」と食べながら何かを言っている。多分「美味しい」と言っているのだろう。
「食べてからにしてよ」と笑いながら言った。
それから黙って勉強した。
「じゃあまた明日!」
私は見えなくなるまで手を振り続けた。
私は部屋に戻った。
急に人数が減り、賑やかだった私の部屋がしんと静まりかえった。みんながいた時は温かく、柔らかい空気が漂っていたが、今は冷たく鋭い空気が漂っている。
なぜか悲しく、胸が締め付けられるようなさびしさを感じた。
自分の部屋から出ようと思ったが、体が動かなかった。おまけに思考も停止した。
すると「結月ー。ご飯だよー」と母の声が聞こえた。
私は母の声で現実に戻された。
「はーい」と弾むように私は言った。
何もしていないのに心がなんだか軽くなった感じがした。
今日は由依ちゃんと遥ちゃんとランチに行く。
色々話してたら目的地に到着した。
席に座り、どれにしようか迷ってメニューを見ていると「いらっしゃいませ」という店員の声と共に、お客さんが入ってきた。
私はお客さんがいる方を無意識に振り返って見た。
そこには慎二くんと光くん、淳司くんと明くんらしき人がいた。
多分似ている人なんだろうな、と思い、メニューを再び見た。
「結月ちゃんは決まった?」と由依ちゃんが言う。
「えーっとね。これが──」と言いかけた瞬間「結月⁈」と慎二くんが大きな声で言った。
店員さんや、お客さんが一斉にこちらを見る。
「え⁈」私もパニックになった。
「俺、光と淳司と明の四人でランチに行こうと思って、美味しいからここにしたんだ」
「私も。奇遇だね」
「うん」
またあの七人グループになった。何を話せばいいのか未だに分からない。
すると「みんなって好きな人っているー?」と予想外の質問が来た。
みんな戸惑っていると「おい」と淳司くんのつっこみが入った。
パターンが二種類ある。
パターンその一
「いるよ」
「え? 誰?」
パターンその二
「いるよ」
他の人たちは何も答えず、自分だけが答えてしまった。
流石に嫌なので、誰かが答えるのを待つことにした。
「うーん。いないかな」
よし、遥ちゃんが言った。
「私も。多分だけど」
「俺もいないかな」
「俺も」
と次々と言ってくる。よし、これでパターン二は回避だ。
「俺はちょっと気になる人はいるけど……結月さんと慎二は?」
「え」
私と慎二くんは戸惑った。
「え、じゃなくて」
「そんなに聞かなくてもいいじゃないか」と淳司くんは言った。
「えー。だって……」
私は勇気を出して「いる」と言った。慎二くんもつられて「俺も」と言った。
「おおっ! 何かあったら聞くよ! 恋バナとか……?」と光くんはにやにやしながら私と慎二くんを交互に見た。
「誰だか知りたいだけだろ」
あ、そうだ。と遥ちゃんと由依ちゃんが思い出し、「私達行きたい店があるからまた後で」と席を立った。
「また」と私達は手を振った。
「じゃあ私達もそろそろ帰る?」
「そうだな」
「じゃーな」と光くんと淳司くんは手を振りながら言った。
「また」「またな」「またね」と三人同時で言った。
男子二人女子一人。本当に気まずい。どうしよう、と思った時「いきなり好きな人いるか聞かれて驚いたよな」と明くんが私たちを救った。
「そうだね」と言う。
「ってか結月や慎二にも好きな人いたんだな」意外だな、と明くんが言った。
「まあ」慎二くんは何も言わずに目を逸らした。
「あ、もうここか。じゃあな」と明くんが手を振る。
「じゃあね」
私と慎二くんは手を振った。
なぜだろう。みんなから下の名前で呼ばれている気がする。私は心の中でそう思った。




