表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート11月〜5回目

ヤダと言いたい

作者: たかさば

『ヤダ』という言葉を、口に出したい。


 頼まれたら、断れない。

 自分の素直な気持ちを、通せない。

 嫌われるかもと考えたら、「イイよ」としか言えない。


 ……できれば、『ヤダ』を、積極的に口に出したい。


『ヤダ』と言えるようになるため、頑張ることにした。

『ヤダ』と口にする瞬間を求めて、人付き合いを考えてみることにした。


 何気ないこと、些細なこと、目についたこと…。

 ふとした触れ合い、他人とのやり取り、日常のワンシーン…。


『ヤダ』と言いたい気持ちはあるというのに。

『ヤダ』という言葉が出てきてくれない。


 レジの店員が卵を落として謝ったから、イイよって言った。

 歩きスマホのサラリーマンがぶつかってきて、ごめんなさいって言った。

 警察官に高圧的に指導されて、スミマセンって頭を下げた。

 突然お年寄りに怒鳴られて、泣きながら謝り続けた。

 旦那がイライラしながら帰ってきたから、気をつかう言葉をかけた。

 姑に晩ごはんのおかずがマズいってゴミ箱に捨てられたから、ごめんなさいと謝った。

 遠くで暮らす息子から電話がかかってきて、母さんは大丈夫だからと返した。

 生ごみを撒き散らしていった誰かのフォローをしながら、ゴミ収集の人にごめんなさいねと謝った。

 選挙で○○さんに入れてねとお願いされて、わかりましたと言って投票してきた。


 ……『ヤダ』と、言いたい。

 私は、『ヤダ』と言いたいの。


 言いたいのに言えない、自分の弱さに…腹が立つ。


 自分の気持ちが二の次になってしまうのは、地獄そのものだから。


 常に、自分以外の誰かのために心を捻じ曲げている、現実。

 自分だけが相手に合わせ続けている、偽りの世の中。

 私が気持ちのいい返事をするものだと決めつけて、自分勝手な言い分を押し付けて平然としている人だらけ。


 ごく普通に生きているだけなのに、不平不満がたまっていく。


 自分の都合を押し付けることができる人が、うらやましい。

 自分の事しか考えないで生きていくのって、どんな感じなんだろう。


 『ヤダ』と言えない私は、わがままな人がいなければ…何もできない人間なのかも?


 誰かのために生きることが、私の生き方なのかも知れない。

 自分の気持ちを通すことは、私にはできない事なのかもしれない。


『ヤダ』と言いたいのに、言うことができない、現実。


「勝子さん、あたしゃ煮物はヤダっていただろう?」

「俺、こういう柄のネクタイ嫌いなんだよ」

「私役員やりたくないから、勝子さんやって!」

「ええ…僕イヤです、絶対やりません」

「すみません、品切れなんで別のやつでもいいですか?」

「ごめんなさい、ちょっと汚れちゃって…」

「一つ足りないんですけど、これで納品させてもらってもいいですかね?」

「ごめんなさい、予約が重複してまして、もう1人の方が絶対に譲れないとおっしゃってて…」

「無理です、お受けいたしかねます」

「お取り寄せは難しくて、今回は我慢していただくというわけには…?」

「すんませーん、落としたけどコレでもいいっすか?」


 気軽に『ヤダ』を口にしている人を見るたびに、感心してしまう。

 口癖のように『ヤダ』を連発する人に出会うと、尊敬のまなざしを向けてしまう。


 ……私も、『ヤダ』って、言えばいいのに。


「すみませんでした、作り直しますね」

「じゃあ、将太に送るわね」

「私でよければ、やりますね」

「嫌々やってもらうのも、ね。じゃあ今回だけ、引き受けるわ」

「品切れなら仕方ないですね、いいですよ」

「どうせすぐ汚れるもの、いいわよ」

「次の納品の時におまけしてくれると嬉しいわ?」

「私が折れて丸く収まるなら…いいですよ」

「そうですか…わかりました」

「じゃあ、次回に期待しておきますね」

「食べものじゃないし、ちょっと凹んだくらいだから平気よ」


 口から出てくるのは、『ヤダ』とはかけ離れた言葉ばかり…。


 私は、私は……。


 ヤダと…言いたい、言ってみたいの……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
……(´;ω;`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ