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『隣人』

大決算セール

作者: 鈴木

「在庫一掃セール?」

「ていう噂が円環列島のクェジトルの間で持ち切りなんだって」


 愉快犯ににこやかな表情(かお)で言われてしまうと、それだけで不穏に感じてしまうのは偏見が過ぎるか。

 場所が円環列島な点もそれを後押しする。

 これが辜負(こふ)族の領域の町中であれば、店のいずれかがそうした宣伝でもしているのだろうで済む話なのだが、辜負族の町があれども円環列島は禁域。


 辛うじて一般の辜負族ではなくクェジトルの間で、というのが噂の信憑性――いや無害性を幾らかなりと保証している気がしないでもない。

 何故か?―――彼らは円環列島および深淵との付き合い方をそれなりに心得ているからだ。

 つまり、カナンは在庫一掃セールをするのが深淵だと解釈した。クェジトル達は深淵がするものとして噂しているのだと。

 そう解釈した根拠は、これを話題に出してきたのがジョシュアだからだ。ただ、断じて信頼からではない、と言いたい(カナンとしては)。

 経験則だ。この愉快犯が、円環列島のとはいえ辜負族の町の辜負族の店で在庫一掃セールが行われると噂されたところでわざわざカナンに話を振って来ることはないだろう、という。

 そうなると在庫一掃セールをするのは深淵で、探索を無事に終えると獲得出来る報酬のことなのでは、という推測になった。


 また、噂が出鱈目である可能性を考慮しなかったのは、内容が他愛ない、深淵の実害になりそうにないものだったからではない。

 深淵に限らず、禁域は辜負族に利用されることを嫌うからだ。

 嘘であれば噂に踊らされているクェジトルからいずれ向けられるだろう苦情も鬱陶しいだろうが、それ以前に、最初に噂を流した者を利することを厭う筈。

 そうした深淵の禁忌をクェジトル達は知っている。

 故に意図的に深淵に絡む嘘を口にする者はいない。そもそもそうした者はクェジトルになれないか、なった後でも深淵によって排除される。


 故意にはそうでも、勢いや勘違いでうっかり口にしてしまう者もいるのではないか? そうした者達はどのような扱いになるのか?―――大前提として、聞かされた側がまず信用せず噂にならない。軽挙妄動な者は常日頃からその性質が現れているものだ。

 信用させる為に意固地になって主張し続ければ、もはや "故意" になる。やはり放置はされないだろう。




 カナンの苦り切った表情で彼女の察したことが容易く知れたのだろう、愉快犯は無邪気過ぎる笑顔を一層深めた。


「モノは稀少で高値間違いなしだけど呪詛もたっぷりなヤツを大決算大量放出ちょっとあっちもこっちも殺し合い(せんそう)し過ぎぃってことで」


 あ、もちろん、呪詛あり部分はないしょなー。


 溜息ものの現実に忌憚なくカナンは盛大に溜息をついた。


 戦争で使われた呪詛が(おり)と共に深淵に牽引されたか、常にない大量の澱が深淵内で呪詛となったか。

 クェジトルが持ち出し、その過程で浄化される量など高が知れているが、微量でも担わせずにいられないのは量の問題か多少でも意趣返しをしたいが為か。


「…………」


 代弁者を気取っているわけではないだろうが、愉快犯を見ていると深淵の切実さより毒みを感じてしまう。

 それも致し方ないことと思えど、やはり溜息は止まらない。









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