夜明けの晩
夜明けの晩を告げる放送が流れ、プレイヤーはみんな例の会場に集まった。
全員集まったことを確認して、ブザーが流れる。
「親愛なるプレイヤーの皆さま。これより名前を呼ばれた方は、出口奥の面談室に向かって下さい。
ビリア様、面談室一へ。リリー様、面談室二へ。ミラムス様、面談室三へ…」
そんな感じで六人の名前が挙げられると、放送は終わった。
私含め、呼ばれた六人は割り当てられた面談室へ向かう。
カードと紙の受け渡しは一人ずつ個室で行われるのだ。
面談室二に入り、仮面の男と対峙する。
「リリー。希望のカードはあるかい?」
自分のカードを選べる。これも偵察員の特権だろう。
「捕食者がいい。そういえば『仲間』も指定できるっけ…?」
「直前の指定は無理だ。誰か組みたいプレイヤーがいるのか?」
「カサブランカというプレイヤーなんだけど。
ちょっと距離が縮まったし、深堀りしたいの。」
まぁこっちが一方的に仲良く感じているだろうけどね。
「あー…、悪いね。今回の君の『仲間』はその人じゃない。次のフェーズの『仲間』をそのカサブランカという人にしておくよ。」
その後事務的な会話を終わらせ、カードと紙を貰う。
確認すると、カードは指定通り捕食者で…『仲間』の紙にはカリスと書かれていた。
ホテルの横にはそこそこ大きな公園がある。
紙では、この公園でカリスと落ち合うことになっている。
噴水を囲むように配置されたベンチに腰かけて、野原を駆け巡るダイヤちゃんを見ていた。
「あの…」
後ろから声を掛けられて振り向くと、木の横に人形みたいに可愛らしい女の子が立っていた。
肌は白く、透き通った青い目からは爽やかな雰囲気が醸し出されている。
「リリーさんで間違いないかな…?」
「えぇ、リリーです。あなたはカリス?」
微笑んで頷く彼女を見て安心した。
彼女は隣に腰かけてきて、自分のカードを見せてくる。
「私は梟。あなたは?」
「捕食者。他言しないでね。」
赤い線が引かれたカードを見て、彼女の肩に力が入るのを感じた。
「そう固くならないで。ルールにもある通り、いくら梟といえど『仲間』であるあなたは襲わないわ。」
静かなそよ風が広場の花々を撫でまわす。
戻ってきたダイヤちゃんを膝に乗せた。
「ウ、ウサギのぬいぐるみ!?」
「この子は私のペットのダイヤちゃん。見た目通りぬいぐるみなの。」
ダイヤちゃんはボタンの目をくるくる回しながら辺りを見渡していた。
「なんでぬいぐるみ…?」
当然な質問が飛んできて…私自身も回答に困った。
「実は、私、過去の記憶がないの。」
隠すこともないし正直に打ち明けよう。
「え…?」
「いうて小学生くらいの頃までは記憶あるんだけど…それ以前の記憶が全くない。
一番古い記憶は、花畑で起きた時なの。そこでダイヤちゃんに会って、なぜか私はぬいぐるみが動いている現実を瞬時に受け入れることができた。それからは、ずっとこの子と暮らしてきたの。」
もっと言うと、このダイヤちゃんと一緒にホームレス生活していたところを
ゲームマスターに拾われた感じだ。
過去の記憶がないのは本当。森の奥の花畑で目が覚めてダイヤちゃんに会った。当時の私は、ウサギのぬいぐるみが動いてるのを見て何も思わなかった。
「不思議な経歴を持ってるんだね…。私は、そういうファンタジーな経験無いや。」
落ち葉を踏みしめる足先に視点を落とす。
そこで彼女は震える程小さな声で私に囁いた。
「まだ出会って数分しかたってないけど…もしよかったら、今後も私と仲良くしてほしいの。」
「え?」
「次の夜明けの晩が来て、もし次『仲間』になり合えなくても、友達であってほしいの。
あなたがまた捕食者になったとして、その時は私を殺しても構わない。」
「…どうして友達になりたいの?」
季節に合わない涼しい風が吹いて、彼女は顔を上げた。
そのうつろな目には青い空が反射している。
「生まれた時から病院生活だったんだけど、友達って存在に憧れてたんだ。
一緒に食事して、道ですれ違ったらハイタッチして、打ち解けてきたら恋バナとかして…。
…ご、ごめんね。いきなりこんな話、やっぱり気持ち悪いよね?」
また首を折ろうとする彼女を必死に止めた。
「ううん!友達になろう!逆に私からも、なってほしい!」
この私の返事に、優しさはないつもりだった。
ただ距離が縮まれば、情報を集めやすくなるだけ。そんな事務的な思考の元出た返事だった。
でも…
「本当!?嬉しい!」
ベンチから飛び跳ねて私の手を握るカリスの目は光で飽和していた。
声にならない悲鳴を上げながら、ダイヤちゃんのいる野原を駆けて行った。
逃げ回るダイヤちゃんを追いかけて、漫画でしか見たことないような喜び方をする彼女を見ていて、
なぜか私の心の中の何かが締め付けられた。
友達って、そんな大事な存在だろうか。
この隙にメモにカリスの情報を書こうと思ったが…何も、書けなかった。