ラストリゾート
すみません遅くなってしまいました……明日からは5時以降の投稿になりますが、何卒よろしゅうお願いします
リリーと二人きりの朝食を終えて、僕はカサブランカのいる休憩所に向かった。
「カサブランカ。この手紙を前回と同じくドアの隙間から中に入れてきてほしい。」
「誰の部屋か言えよ。」
「サルビアだ。」
一瞬彼の顔に曇りが覗く。
「本気で言ってる?」
「どうせ部屋から出てこないよ。僕は別の用事があるから手紙を届けに行けない。君に頼んでもいい?」
「…ここ最近は配達の依頼が多いな。ふふ。」
そう言って彼は手紙を受け取った。どこか嬉しそうな顔だ。
きっと配達員時代の楽しい思い出があるのだろう。
「頼むよ。」
「ああ。」
彼は手紙をポケットに丁寧に突っ込み、席を立った。
彼を見送り、休憩所を出ると…。
「アス。」
そこには画家のリューコ・コリネがいた。
「あぁ、コリネさん。悪いねいきなり呼び出して。」
「それで、話って?」
計画は全て順調だ。
今、コリネさんを人通りの少ない幼稚園横の路地裏に呼び出している。
手紙に書かれた場所を辿ってサルビアを路地裏に誘導できたら計画は成功。
いや…正確には、その後コリネさんが殺されなきゃいけない。
『楽団のアス』として殺害されて、初めてルール違反となる。
僕は最低限の食料とお金を持ってホテル横の物置きにあった空の宝箱に隠れた。
人一人入れるくらいの宝箱。ここならバレないだろう。ランプを置くと、程よく周囲が明るくなった。
なんとか座り込んでフルートを取り出す。
幼少期を共にしたフルート。ここから発せられる音で僕は何人の命を救ったのだろうか。
楽譜を開き、外に漏れない程度の音量で演奏をしてみる。
その旋律はアンスリューム作曲『花と暮らす子供達』と少し似ていた。
『花と暮らす子供達』…。あれは、シオンが一番好きな音楽だ。
百年以上前の曲なのに、現代を生きる僕や彼女にここまで刺激を与えたアンスリュームは僕の憧れの人物である。
蓄音機で一晩中曲を流すこともあった。僕が毎晩コードを選んで針を置くのだ。
シオンが入院してからはそんな生活も終わったが、毎晩彼女の隣で鼻歌を歌ってやったよ。そしたら彼女、すぐ眠るんだ。病人とは思えないくらい綺麗な顔して眠るんだ。
もう少しで…シオンが助かる。何も言わずに姿を消したから、きっと心配しているはずだ。泣いているかもしれない。でも大丈夫。僕は…このゲームで最後の『悲劇』を迎えたら、そっちに帰るよ。ここで『悲劇』を終わらせよう。だって本来僕は、『奇跡』の子なんだから。
今朝アスと一緒に食事をとった時、「僕はここに隠れる。サルビアが処刑されたら報告にだけ来てほしいんだ。それを聞いたら『家』に帰るから。」と言われて紙を渡された。
紙には『フェルマータ横倉庫の中の宝箱!』と拙い字で書かれている。
アス…。計画は上手くいっているだろうか。報告することは何もないが、会いに行くだけ会いに行ってみるか?いや、計画が終わっていない以上無暗に行動するのはやめよう。少なくとも私はアスの味方であるつもりだ。計画の成功を優先に考えよう。
テレビをつける。推理ドラマが流れていた。主演は当然推しのコリック。正直ドラマの内容なんてどうでもよかった。コリックを見るためだけにこのドラマを点けている。
≪犯人はこの中にいる!≫
タバコをふかしてコリックが名言を解き放った。
本来なら視聴者は「うぉぉお!」となるのだろうが、ドラマの内容を見ていない私は、そもそも事件の内容すら理解していなかった。
紙カップのお茶を飲みながらドラマ…いいや、コリックを見ているとダイヤちゃんが腕の間から顔を出してきた。
「ん~。飲む?あ、ぬいぐるみだから飲めないか。へっ。」
煽るように飲み干す。不満げに鳴くダイヤちゃんを笑いながら撫でた。
「そう怒らないでよ。ほら、コリック映ってるよ。イケメンっていうのはああいう人のことだよ。」
「…」
ダイヤちゃんは私の腕から抜け出してベッドの下に潜り込んだ。
自分がイケメンって言われなくて拗ねたのかな。っていうか今更だけどダイヤちゃんって性別どっちなんだろ。ちゃん付けだし、女の子?
『ダイヤちゃん』。実はその名前は私が付けたわけじゃない。
花畑でダイヤちゃんと初めて会った時、『ダイヤちゃん』と刻まれた首輪があったのだ。
その数日後ここのゲームマスターに拾われ、私の名前が『リリー・ダイヤモンド』であったことを明かされる。
名前のダイヤモンド繋がりに奇跡を感じた私はダイヤちゃんを相棒として受け入れたのだ。
ベッドの下の影から除くダイヤちゃんのボタン目を、ジッと見つめていた。




