夜が明ける、その時に。
夜明けの晩による招集が済み、面談室へ案内された。
その時、タイミングがカリスと被ったのか廊下で会った。
「あぁ、おはようカリス。」
「おはようリリー。」
疲れは取れただろうか?
「ねぇリリー」
ん?と首を傾げると、彼女はそっと耳打ちした。
「明日の午前四時くらいに、早起きして公園の噴水前に来て。時間も時間だから、バレずにコッソリ…ね!」
面談室に入ると毎度ながら仮面人間がいる。
完全に扉を閉めたことを確認して、席に座った。
「さ、カードは?」
「狩人。もう言わなくても分かるでしょう?」
鼻で笑って仮面男は狩人のカードを私に引き渡す。
「仲間はアス!二回連続だね。」
「集合場所は?」
「ホテル横の駐輪場。」
「あーい。」
適当な会話で終わる。ココ最近の夜明けの晩はずっとこんなテンションだ。
「あっ、リリー!こっちこっち!」
広い駐輪場の隅で、無邪気に手を振るアスがいた。
足早に向かうが、そんな私より速くダイヤちゃんがアスに向かって駆けて行った。
ダイヤちゃんはアスの胸に飛び込み、彼も満更でも無さそうだ。
「ダイヤちゃんは本当にアスが好きだね。」
「僕は二番手だよ。ダイヤちゃんが本当に好きなのはカリスだ。」
「あれ、飼い主の私は?」
「殿堂入りじゃない?」
そう彼は笑うと、何かを思い出したように顔を伏せた。そして気まずそうに呟く。
「カリスの件、本人からちょっと聞いたよ。」
「え?本人が言いふらしてるの?」
言いふらすという表現はよくないか?一応私とカサブランカは、今回の事件は内密にする約束をしたものの…カリス本人が事件の詳細を他者に語るとは思わなかった。
「あ、いや、言いふらすというか…僕個人にだけ教えてくれたんだ。友達だから…って。」
「なるほど…」
「カサブランカさん、殺されなくてよかったよ。」
「うん。ほんとスレスレの所まで刺されかけたらしい。」
自虐ネタみたいなテンションで話したが、アスの顔は真剣だった。
「リリー今回の役職は?」
「狩人だけど。」
「僕も同じなんだ。そこでなんだけど…」
まさか。アスに限って血腥いことは言わないだろうと思っていたが…案外そうじゃなかった。
「サルビアに、痛い目を見てもらおうよ。」
「…殺害…ってこと?」
「いいや。いうて彼女の殺人も未遂だから、そこまではしないよ。
デスゲームといえど無駄な殺しはしたくないんだ。」
未遂…?一応ナハツェーラの疑いのある人が何人か殺害されてるけど…ノーカン、か。可哀想な被害者だこと。
「まぁ今すぐじゃない。また今度、気が向いた時に考えよう。」
あっという間に時は過ぎ、カリスとの約束の時間が来た。
「あ、リリー!」
噴水前に、小声で叫ぶカリスを見つけた。
「ごめんごめん、ちょっと遅れちゃった!」
「いいえ、ついてきて。」
そう言って彼女は私に背を向けてゆっくり歩き出した。
「こんな時間にどうしたの?」
「あなたと、二人きりで話したいの。別に悪いようにはしないわ。」
茂みを抜けて、細い花道を歩く。あれ、この道のりって…。
「アスの秘密基地?」
着いたのはアスの秘密基地だった。地面に張った薄い水の膜は満月を綺麗に反射している。
カリスがそこに足を踏み入れると、彼女を中心に静かな波紋が生まれた。
「私ね、普通の女の子に憧れてたの。学校に通って、友達と遊んで、恋人とキスをして。
全て本の向こうの世界として生きてきた私にとって、このゲームでの生活は私が追い求めてきた理想郷そのものだった。まぁさっき言った具体例とはズレた生活だけど…でも、友達についてはもう、満足。死んでしまっても悔いは無い。」
不穏な空気が漂い始める中、彼女は水の上で優雅に踊り始めた。
あちこちで生まれる小さな波紋は、やがて湖全体に響き渡る。
軽快なステップと、くるくる回転した時に靡く彼女の髪は…遠くから見ても十分美しいものだった。
きっとこの時のために練習したのだろう。
一歩も間違えることなく彼女は舞う。
したし私は、この場に漂う殺気に気付いていた。でも居場所が分からない。
「ねぇリリー。私さ、カサブランカを殺しそびれた。私にとってそれは幸せだけど…それを喜ばない人が一人いるの、分かる?」
ミモザだ。カサブランカを最後まで恨んでいた彼女。しかし彼女が今なんの関係がある?
「サルビアはね、復讐の恐ろしさをよく理解してる。だからこそ、殺人代行を頼んでおきながら失敗した今、彼女は私からの復讐を恐れているはず。」
段々と殺気が輪郭を帯びてきた。空気が、重くなる。
「サルビアは強い女だわ。だから、彼女は『殺される前に殺す』ことを念頭に生きてきた。」
「サルビアがカリスを殺すってこと?そんなの…」
「今朝、サルビアから殺害予告が送られてきた。」
寒気が全身を駆け抜ける。
「『いつか私はあなたを消す。今晩あなたが外出したら、楽に殺してあげる。短い時間だったけど、あなたは私の友達だった。だから、苦しまずに死ぬ機会をあげる』って。」
「…カリス!今すぐ帰ろう!」
「もう、運命は決まってるの!」
カリスは踊りを止めなかった。
ただベールのように静かに波打つ水面には、カリスと同じように揺れて踊る月がいた。
「時間が無いから言いたいことだけ言うね。」
「カリス!」
薄い水の膜のステージに一歩足を踏み入れる。
「もう、分かってるの。ここでサルビアに消されること。そのうえで伝えたいことだけ伝えるね。リリー。あなたは私の最高の『友達』だった。幸せに、なってね。」
「…ねぇ、やだよ私。一緒に帰ろう?二人ならサルビアなんて怖くないよ。」
「もう…遅いんだよ。」
カリスと目が合う。
その瞳には、物寂しさと…でもどこか、嬉しそうで楽しそうな気持ちを感じた。
東の空が明るくなり始めている。もうすぐ夜明けだ。
「このゲームの中で、夜明けの晩って言葉が出てくるじゃない?」
「…ねぇ、」
振付けが段々と大きくなる。彼女は踊るのをまだ止めない。
「夜明けの晩なんて、存在しないんだよ。だって…」
彼女はやっと足を止めた。こちらを向いて…腕を後ろに組む。
そして、満面の笑みを浮かべてこう言った。
「明けない夜は、ないんだから。」
一瞬にして陽光が街を覆った。
銃声が一つ響いた。




