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後悔のないように

「…え?」

庭園に到着した頃には、中々カオスな状況が広がっていた。

目を見開いて倒れ込むカサブランカと、座り込んで泣き崩れるカリスがいた。そして…カリスの足元にはナイフが。

「カリス!」

彼女のそばに駆け寄り背中をさする。

「カサブランカ!あんた何したの!」

「違う!僕は何もしていない!」

「ごめ、リリ、ちが…!」

言葉にならない言葉を発しながらただ涙を流すカリスの背中をさすり続けた。

「カサブランカに何されたの?」

「ぁああァ…!」

カリスは震える足を押えながら立ち上がり、フラフラとした足取りでカサブランカに近寄った。

「カリス!」

しかし…彼女はカサブランカを抱きしめた。傍から見てもかなりの力のハグだ。

「ちょ、カリス…本当に何があったんだ。」

「…はぁ」

ため息をついて地面のナイフを取り上げた。

「…!?」

文字が彫られている。

「どうしたんだいリリー。」

カサブランカはカリスに抵抗するでもなく、ただ彼女の背中をぽんぽんしていた。

まさか…いや、そんな訳…。いや、可能性はあるのか?

そうだ、彼女の復讐は終わっていなかったのだ。

「ねぇ見て、これ。」

カリスに見せると余計荒れると思ったので、カサブランカにのみ見える角度でナイフを見せた。

「僕はあんま目が良くないんだ。もっと近付け…ぇ?」

『サルビア』

「きっと彼女のナイフだわ。」

「私…ッ…サルビアにっ、カサブランカを…殺すように…ッ言われで…!」

「…なんてこと。」

「でも私…ッできながっだ…ッ…。でも…!」

「もういい、君は泣くだけ泣けばいい。」

泣き続けるカリスを見て、湧いてきたのは怒りだった。どうして関係ないカリスを巻き込む?

ミモザ…。本格的に彼女を潰さねば。

「はぁ…これも僕のせい…か。」

「これに関してはサルビアが悪いって。まぁ元を辿ればカサブランカになるのかもしれないけど…こんな無垢な少女に復讐代行は酷すぎる。」

サルビアの酒瓶を一つ飲んでみた。やっぱり酒じゃない。りんごジュースだ。

ちょっと待ってて。

私は庭園を抜け出して自動販売機のそばまで駆け寄ると、支給端末を取り出して連絡を始めた。

『ホテル フェルマータ横の駐輪場にプレイヤーのサルビア待機。至急どかして。』

少々乱暴な文章だが伝わるだろう。周りを確認する。誰もいなかった。

そんな事をしている内に既読がついた。

「…よし。」

庭園に戻ろう。サルビアは他の職員が適当な場所に連行するだろうから、カリスは駐輪場を通ってホテルまで運べばいい。

「人って…怖いな…。」

そんな事を考えながら庭園に向かって重い足を運んだ。


「大丈夫大丈夫、カサブランカも気にしてないって。」

カリスの部屋。

ベッドに横になったカリスの横で私は看病していた。二の腕とくるぶしに擦り傷。大した怪我じゃないが、看病と称してカリスのそばにいたかった。

「だいぶ落ち着いてきた?」

「…うん。」

温かい飲み物を一口飲んで一息つく。

「カリスの部屋、ぬいぐるみでいっぱいだね。」

「裁縫が趣味で、全部自分で縫ったやつなの。」

「え!?これ全部自分で!?凄いね…才能じゃん。」

「鏡の横にダイヤちゃんを模したやつがあるはず。」

…あ、本当だ。ダイヤちゃんが鏡の横に置いてある。元々ダイヤちゃんがぬいぐるみだからか、ずっと本物だと思って放置していた。そういえば本物のダイヤちゃんは部屋の留守番させてるんだった…。

「今度うちのダイヤちゃんに見せようよ。きっと驚くよ。」

「…うん。」

随分と憔悴しきった声だ。相当怖かったのだろう。

「リリー。」

「ん?」

両手で大事に掴んでいるカップを見つめながらカリスは囁いた。

「もし私があのままカサブランカを殺してたら…私、どうなったんだろう。」

「どうって…。私はずっとカリスの友達だよ?そう約束したじゃん。」

「…そうね。そうだよね…リリーは…友達、だよね。」

きっと私に嫌われると思ったのだろう。大丈夫、カサブランカなんかよりあなたが大事よ!…なーんて。でも本当に、カリスを嫌いになんてなったりしないわ。

「もしよかったらさ…明日もこの部屋に来てよ。今日はもう夜遅いし。」

「そうだね。明日も来るよ。」

でもどうだろう。明日は夜明けの晩で忙しくなるかもしれない。来るとしても夕方とかだ。

まぁ…それは大きな問題ではない。

「じゃあねリリー。」

「うん、おやすみカリス。いい夢を。」

部屋の照明を消して私は部屋を出た。


「どうだった。」

「多分寝た。」

「はぁ…もう部屋に戻って寝よう。そろそろ完全就寝時刻だ。」

廊下を二人で歩きながら話していた。

「でもあなたは、これからも起きるんでしょう?」

「いや、今日は大人しく寝るよ。夜中の二時に屋上で夜風を当たりに行くのが日課になってるのはサルビアも知ってるんだ。彼女がまだ僕に敵意がある以上、立ち回りを少し変える。」

「うん。それでいいと思う。」

薄暗い廊下に二人の足音が響く。

こんな短い会話も、しっかり耳に残しておこう…。

いつか訪れる()()()()に、後悔しないように。

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