『ゲーム』
モニター越しに名簿を持って、説明会場にいる人数をチェックする。
うん、問題はなさそう。
今日をもってデスゲームが開催される。
ゲーム会場はこの街全域。
睡眠や食事等はこのホテル『フェルマータ』で行い、プレイヤー一人につき一つの個室が用意されている。
今、最後のプレイヤーが説明会場に入ってきた。
名簿欄の全てにチェックをつけて、それを背後の事務員の人に渡す。
事務員の人は礼をして、私に告げる。
「いってらっしゃいませ。リリー様。」
「んー。」
私がモニター室から出ていこうとすると、ぬいぐるみのウサギが私の肩に飛び乗ってきた。
この子はダイヤちゃん。私の相棒だよ。え、なんでぬいぐるみが動いているのかだって?
…しーッ!
説明会場に入り、プレイヤーの群れに紛れる。
私が説明会場に入ったのをカメラが確認したのかブザーが鳴り響いた。
学校の体育館ほどある説明会場でギッシリ詰まった人々は肩を震わせる。
ブザーがピタリと止むと、巨大なスクリーンに、
それぞれ違う絵の描かれた三枚のカードが映し出された。
あまりの急展開に会場がさざめいたが、その沈黙を打ち破るように機械音声が流れた。
「これよりルール説明を行います。準備はよろしいでしょうか?」
いきなり本題に切り出す機械音声。
我が運営の『余計な話はするな』スタイルをしみじみ感じる。
言われたことを理解したのか、会場は少しずつ静かになっていった。
機械音声はまた告げた。
「三日に一度、夜明けの晩と呼ばれる時間が訪れます。
夜明けの晩の放送が流れたら、親愛なるプレイヤーの皆さんはこのホテル『フェルマータ』までお越しください。」
メモを取るプレイヤーもいた。怯えるプレイヤーもいた。
でもそんな中、平然とそこに立っている少年が目立った。
学生帽を深く被った銀髪の少年。彼の名前は確か…
「夜明けの晩では、カードと紙を一枚ずつお渡しします。カードは今スクリーンに映し出されている三種類あり、内どれか一枚をランダムで渡されるものとします。自分が渡されたカードは他者に共有していいものとします。
カードは役職を意味し、一枚目の『梟』は逃避者を意味します。
このカード自体に特別な役割はありません。」
スクリーンは切り替わり、真ん中の赤いカードがアップで映し出された。
「二枚目の『捕食者』は狩人を意味します。
このカードを受け取った者の目標は『梟』を殺害することです。手段は問いません。
カードを受け取ってから次の夜明けの晩まで、殺せる最大人数は一人です。
役職の共有を迫られた時の対策として、梟のカードも同時にお渡しします。」
またスクリーンは切り替わる。バイオリンのようなイラスト。果たしてこれを一発でバイオリンと見抜けるプレイヤーはいるだろうか?
「最後の『楽団』は守護者を意味します。
このカードを受け取った者は他のプレイヤー全員の役職を知れます。
しかしそれは絶対他者に共有しないでください。後に説明する『仲間』にも共有してはなりません。
『楽団』は、捕食者から梟を守ってください。」
これでカードの役職の説明は終わり。
次は、カードと一緒に配られる紙の説明だ。
「カードと一緒に配られる紙には、ランダムで一名のプレイヤーの名前が書かれています。
そのプレイヤーがあなたの『仲間』です。
『仲間』には必ず自分の本当の役職を共有してください。
楽団と捕食者が『仲間』になることはありません。
梟と捕食者が『仲間』になることはあります。
その場合、梟は『仲間』が捕食者であることを他言してはなりません。
一方捕食者は、『仲間』の梟を殺害してはなりません。」
そろそろ頭を抱えるプレイヤーが見受けられた。
やっぱり難しいか…。
「質問はございますか。」
淡々と訊く機械音声に誰も挙手しない。
それを確認して、私はマニュアル通り挙手する。
「どうぞ。」
「捕食者は楽団を殺害できるのですか?」
「可能ですが、状況によってはルール違反となります。
捕食者から梟を守るために盾となって楽団が殺害された場合、それは捕食者の『一人しか殺害できない』と言うルールがあってもノーカン扱いになります。
しかし対象が楽団だということを認知した上で意図的に殺害したらルール違反として相応のペナルティが課せられます。」
相応のペナルティ…。そこでやっと、他のプレイヤーが手を挙げた。
さっきの学生帽の少年だ。
「どうぞ。」
「そのペナルティというのは、どういうものですか?」
「我々運営による射殺です。」
味の濃い返事が返ってきて、冷静だった少年も少し動揺を見せた。
しかし数秒の沈黙の末、鼻を鳴らして「ご回答感謝します。」と律儀に礼を言った。
そして最後に機械音声が告げる。
「初めの夜明けの晩は明日行います。今日はホテル内の自室を確認してお休みください。」