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クローバー

「仲間は僕になったよ。」

そう言ってアスが部屋に入ってきた。

先ほど夜明けの晩が行われたのだが、負傷している私は部屋で安静にしているよう指示が下りていた。

「僕の役職は梟。で、リリー。君は狩人だ。」

「ありがとう。」

そう言ってカードを受け取った。

「ところで質問なんだけど、リリーは明日の『お茶会』に参加するの?」

「一応車椅子で参加するつもりだよ。」

「僕が押そうか?」

「いや、一人で行く。」

カードを机に伏せて呟いた。アスがカーテンを開けてくれると、部屋に温かい朝日の匂いが充満した。

「ところでアス。」

「うん?」

「探していた楽譜は得られそう?」

そう訊くと彼は窓枠に手をかけて息を吐いた。

「さ。でも正直、楽譜はもう少しで手に入りそうなんだ。昨日ヒントを掴んだ。それより隣国の妹が心配だよ。」

遠い目で空を見上げる。

「今頃泣いてるのかな…ってよく想像してしまうんだ。彼女は弱い子だから。」

「生き延びて、顔を出してあげてね。」

慰めの言葉をかけたつもりだったが、どうやら彼の悩みを突いてしまったらしい。

「妹と再会することは、本当にいいことなのだろうか…って悩むんだ。」

「大好きなお兄ちゃんに会えるんだから、いいことだと思うよ。」

「彼女は…シオンは、火災で家族を失った。僕の存在は彼女の辛い記憶を目覚めさせてしまうんじゃないかって、不安になるんだ。」

「…というと?」

「いっそこのまま妹と永別して、僕の事を忘れてくれた方が…少しは気も楽なのかなって。」

そんなことない、と否定を入れるとアスは淡々と語り出した。

「実は最初のゲームの時、ペアになったカサブランカさんにも相談したんだ。」

「随分と前から悩んでたんだね。彼はどう言ってたの?」

「ただ『君の好きなようにやりなよ』って。

ここでの生活を通して…僕はたくさんの出会いをしてきた。リリーやカリス、カサブランカ。そこのウサギだって、僕の友達だよ。」

アスに近寄るダイヤちゃんは、不思議そうな顔でアスを見上げていた。

隙間風が部屋を横断する。カリスが飾ってくれた花瓶の花が左右に揺れる。

「もし死ぬなら、誰かのために死にたいって考えてるんだ。もし君やカリスに牙を向く奴がいたら…僕はデスゲームらしく、そいつを殺そう。」


『本日は皆様お集まりいただき誠にありがとうございます!』

整えられたスーツを着こなした仮面女がメガホン片手に叫んだ。

公園の木々には風船が結ばれ、ぶら下げられたピターニャはペガサスの形をしていた。ラメが散りばめられた草むらと、その上を駆ける小動物に向かってダイヤちゃんが姿を消す。

「…おはようリリー。」

説明会の中、私は群衆の後ろの方にいたのだが…車椅子のせいかカサブランカに声をかけられた。

「お、おはよう!カサブランカ。パーティー楽しんでね。」

早く逃げなければ。そう考えて車椅子を回転させたが、すぐ持ち手を掴まれる。

「もしよかったら、僕が君の車椅子を引こう。」

「え?いや一人でいけるよ。」

「車椅子デカいんだから、動いた拍子に人や物に当たるかもしれないだろう?別に、悪いようにはしない。」

「う…看病係はアスなの。だから、どの道カサブランカに引いてもらわなくても…」

そう言うと彼は私の耳に口元を寄せてきた。

「とりあえず僕と一緒に行動するんだ。何があっても離れるなよ。」


結局カサブランカに車椅子を押されることになった。最悪。

説明会が終わり、各々散っていったが、人込みの中のミモザと目が合った。

ミモザとカサブランカはグルで私を毒殺しようとしている。

しかしカサブランカに捕まった以上、私の回避劇は失敗に終わる可能性が高くなってしまった。周囲の視線がこちらに向いている。ずっと俯いていた…が、草を咥えたダイヤちゃんが私の膝に飛び乗ってきた。

「これは…?」

「四葉のクローバーじゃないか。懐かしいな…十年前まで、僕もよくこの公園で四葉のクローバーを探したものだよ。」

「え、昔この公園に来たことあるの?」

「あぁ。向こうに高いビルが見えるだろう?あそこの最上階が僕の実家だ。」

たっっっかい所に住んでたんだな…。ゆっくり数えたが、十二階?確かカサブランカの父親は香水ブランドの社長か何かだったな。金持ちだなぁ…。

「この時期になると、毎年こうやって街が飾り付けられるんだ。祭りの日だけは大人も仕事が休みになって、家族連れが公園に来るんだよ。サーカス団の芸を見ながら食事をして、夜はネオンにふける。あの頃が…楽しかったんだよな。」

舞い落ちる花びらを見つめながら、彼の話を聞いていた時。

「あっ、誰かと思えばリリーとカサブランカじゃん!」

寒気が背中を駆け抜ける。

振り向くと、ミモザがお盆を持ってこちらに寄ってきた。

お盆の上には数々のスイーツと…コーヒーカップが。

彼女はコーヒーカップを一つつまんで私に差し出してきた。

「これ、よかったら!」

「喉…乾いてないし、今はいいよ。」

「まぁまぁ。」

そう言って彼女は車椅子の私の膝上にカップを置いてきた。

こぼすまいとカップを掴んでしまう。

「これ、中身は何なの?」

「フルーツの味がするお水だよ!とっても美味しいから、飲んでごらん!」

あからさまな態度に狂気を感じる。もはや私に拒否権は存在しなかった。

このジュースの中には、きっと毒が盛られている。だからこそカップの底が見えることが怖かった。

毒が混ぜられた液体も、透き通っているのだ。

震える手を押さえて、カップを口元に近づける。

どうする私?

口にふくんだ後、隙を見て吐き捨てるか?いや…盛られている毒の量が分からない以上、口に含むだけでも危ないだろう。

カップの淵に唇が当たる。

傾けると、中の毒が私の口内に流れ込もうとした。

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