毒電波
「もう夜明けの晩?早くない?」
そんなざわめきが会場を埋め尽くす。
つい三十分前だ。いきなり運営による臨時招集が行われた。
説明会場に訪れたプレイヤーの大半が不安げな顔を浮かべている。あまり実感がなかったが、こうして見ると本当にプレイヤー数が減った。
そんなことを考えていると後ろから肩を叩かれる。
「何だろうね、こんな急に。」
カリスだった。正直言うと、私自身もなぜ集められたのか分かってない。
緊急事態?いや、でも職員の支給端末にも連絡は来ていない。夜明けの晩だとしても、時期的にまだ早い。
「…ぁ。」
そっとカリスの影に隠れた。
人影の中にミモザの姿が見えたのだ。彼女は私に目もくれず…ん?
カサブランカの方まで行って腕を組んだぞ。
彼も少し嫌そうな素振りは見せたが、すぐ落ち着いた。ただのカップルじゃないか。
「ご来場の皆さま、本日は急な集合をかけてしまい誠に申し訳ありません。」
放送が流れる。
「夜明けの晩は予定通り明日執り行います。本日は全体連絡のためにお集まりいただきました。」
は?わざわざ車椅子動かしてここまで来たのに全体連絡だけ?くっ…。帰りの車椅子は、カリスに押してもらおう。
「明後日、デスゲーム運営公認で『お茶会』イベントを行います。」
「お茶会イベント?」
カリスが繰り返すように呟く。私も初耳だ。
「ホテル『フェルマータ』に隣接している公園にて、小規模なパーティーを開催します。このパーティーでは殺人を禁止し、プレイヤー間での良好な関係構築のために行います。」
そんなもの本当に必要だろうか。
「参加は任意ですか。」
誰かが質問する。
「全員強制参加です。」
わずかに絶望を感じた。
全員強制参加…。じゃぁあのミモザと絶対に顔を合わせなければならないじゃないか。
戦略かは知らないが、カサブランカもミモザと親しそうだし…。味方として信頼できるのはカリスとアスだけか。なんだか心細かった。
「概要は食堂前の掲示板に掲示しておりますので、そちらの方をご覧ください。」
解散されてから三十分後に、やっと職員内での連絡が来た。
どうやらこの『お茶会』は、この国でかつて行われていた恒例行事を模したものらしい。
まぁ見る限り運営側の深い意図はなかった。純粋な「息抜き」として開催される雰囲気だ。
ベッドにもたれかかって天井を見つめる。
気付けば眠っていた。
「…ん…」
真夜中に目が覚めた。
時計を見ると、短針は夜中の二時を指している。
ここ最近変な時間によく目が覚めてしまうのだ。きっと疲れてる。そう、きっと疲れているだけなのだ。
この体の包帯はいつ取れるだろうか。
「…あ。」
思い出したことが一つある。盗聴器だ。
苦い思い出の方が先走ってしまうが、私はミモザと初めて会った時、彼女の服のポケットにコッソリと盗聴器を忍ばせていた。すっかり忘れてた。
一応あの盗聴器、二時間分の音声は保存してくれるし、ちょっとデータ確認してみるか。
そう考えて私はパソコンのモニターを点ける。
ファイル名『美味しいパン屋』を開く。
その中の『アンパン』をクリックして接続を待てば…よし!
なんとかミモザの盗聴器と繋がった。
この盗聴器は音を認識した時に勝手に録音を始めてくれる。
…しかし見返す限り有益な録音データはなかった。
布のこすれる音を察知して録音された二秒くらいのデータが立ち並んでいた。
「ん~…やっぱりいいデータは…ん?」
マウスカーソルを回したら、『録音中 5:32』という項目が出てきた。
一秒経つと『録音中 5:33』に。
こんな時間に?五分半の音声?
…好奇心でダブルクリック。
小さな音声が聞こえると思っていたが…聞こえたのはちゃんとした会話だった。
「このチャンスを逃すわけにはいかないわ!」
ミモザの声。しかし次に聞こえてきたのは…カサブランカの声だった。
「君の勝手にしなよ。僕は手伝わんぞ。」
「全員強制参加だから、リリーも参加する。そうだ、毒を盛ろう!彼女の飲み物に毒を盛るの!」
…もしかして私を殺す計画を練っている?ミモザのことだ。瞬時に理解できた。
しかし不思議なのはこの場にカサブランカがいること。彼も私を殺害しようとしているの?
「カサブランカ。悪いけど、この程度のことなら私にできる。あなたに手伝ってもらうことは何もないわ。」
「じゃぁわざわざここに来るなよ。明日の朝は早いんだから、さっさと帰って寝るんだ。」
「相変わらず冷たいわね、ダーリン。」
「ダーリンじゃない。」
「鼻ブランカ。」
「ふん」
それからはずっと風の音がする。やがて自動録音は切れた。
フォルダに『録音済 6:03』の項目が追加される。
「どうして…」
急に不安に襲われる。『お茶会』で私は飲み物に毒を盛られる!
…ん?でも知ってるなら回避すればいい。
そうだ、私に出された毒入りの飲み物をミモザのとすり替えよう。
ミモザには悪いけど、私に牙を向けたらどうなるか教えてやらなくちゃ。でも殺人禁止のパーティーで毒を盛ろうとしているだなんて…。もし遂行されたら、ルール違反でミモザは射殺の刑だ。
それくらい彼女はナハツェーラを恨んでいる。
…申し訳ないけど、お茶会は単独行動しよう。カリスやアスを巻き込むわけにはいかない。
外を見ると、孤独な月が雲の影に隠れようとしていた。




