スターゲイザー
「リリーぶっ殺し作戦練るよ!」
そう言いながら夜の屋上に姿を現したのはサルビアだった。
「君みたいな見かけ清楚な子が『ぶっ殺し』とか言うんじゃないよ。」
「別にいいじゃない。カサブランカだって、そんな貴族みたいな服着て口悪いじゃん。」
「ふん。」
しょっちゅう鼻を鳴らすから、たまに鼻ブランカとか馬鹿言われていたけれど、やめろと言ってからは一度も言われなくなった。
一応聞き訳はいいやつなのだろうが…『リリーぶっ殺し作戦』とやらにはどうも賛同できない。
「サルビア。リリー殺すの先延ばしにしないかい?」
「なんでよダーリン。」
鼻ブランカの次はダーリンか。
「何度も言ってるけど、リリーがナハツェーラである決定的な証拠はどこにもない。」
「…正直に言うとね、私自身ちゃんとした証拠の元ナハツェーラを見つけ出すことは不可能だと思ってるの。」
「…はぁ?」
「だから『ナハツェーラの疑い』がある人を片っ端から潰す。それで私が、復讐した気になれば満足できるの。」
「君の復讐の定義があんまりだ。怪しい奴をみんな潰すより、確実に犯人なやつを一人潰せばいい。」
「だからそれは不可能なの!プレイヤーが何人いると思ってるの?」
「もう十分減っただろ。二人で探せば見つかる量だ。」
「でもそれじゃあ既に死んでるかもしれないじゃない!直接始末した気持ちになりたいの。」
クソ頭固いなコイツ。でも、復讐に縛られた人間の頭なんてこうなるさ。そう。こうなるのがオチなんだ。
「…サルビア。」
「何。」
「復讐なんて何も生まないよ。残念だけど僕は経験者だ。」
そう言うとサルビアは僕の胸ぐらに掴みかかってきた。きっと地雷を踏み抜いてしまったのだろう。でもこれが地雷ということは…復讐と言う行為そのものに葛藤を抱いていたということだ。
「私は人生の全てをナハツェーラに奪われたの。」
「恨む相手が違うんじゃないか?確かに革命を起こしたのはナハツェーラだけど、その元凶は国王だ。」
「なら私は亡き国王を恨んで生き続けなければならないの!?」
「復讐は命に関わることだろ。だからこそ、敵は見誤るな。」
はね飛ばされる。薄闇の中でも、彼女が息を切らして肩を震わせているのが分かる。
「富や名声なんてものは、負のエネルギーから生まれないのと同じさ。嫌いな奴殺して君はどうする?」
「…どういうこと?」
「仮にナハツェーラを無事殺害できたとしよう。その後君はどう生きる?何を杖にして生きていく?」
「…ッ」
「言葉に詰まるだろう?それは、君が今復讐の為だけに生きているからだ。それで本当に復讐して、君は果たして幸せを手に入れられる?」
「うるさい!」
まさか僕にこんなに言われるとは思っていなかったのだろう。
ナイフも何も持っていないから、彼女はただ叫ぶしかなかった。
「あなたは、もう私の言う事にだけ従ってくれたらいいの!」
「君はそれで、幸せを手に入れられるのかい。」
「…ええ。」
頷く彼女を尻目に、僕はため息をこぼした。
視線を夜空に移す。今日は星が綺麗だ。
「言う事聞いてくれてありがとね、ダーリン。強引な意見の押し付けだけど、このために私生きてるの。ちょっと頭に血ィ上っちゃった…。」
そう言って彼女は後ろから僕を抱きしめる。
よほど本気だったのだろう。彼女の汗を肌で感じた。
「サルビア。」
「ん?」
「これだけ君を否定したんだ。まだ僕を仲間として歓迎する理由は何だい。」
「あなたを信じているからよ。」
彼女は少し背伸びする。耳と耳がこすれ合う。
「さっき経験者って言ってたけど…ダーリンも復讐したことあるの?」
「あぁ…でも深くは語りたくない。」
「えぇ、無理して話さなくていいわ。吐き出したいときに吐き出せばいい。」
「もし僕が君を裏切ったらどうする?」
「殺す」
一切迷いのない返答。ある意味サルビアらしかった。
「もし知性で僕の方が上回ってたら?」
「別の要素で勝ってみせる。人間らしいでしょう?」
今まで会ってきた人たちの中で、ある意味サルビアが一番人間らしさを持っていた。
それは復讐に盲目になる点の影響が大きいというのもあるが…良くも悪くも己の正義に揺るぎがない。
ずっと自分を貫いているのだ。
人としてのこの強さは、過去の大きな経験が絡まないと生まれない。
まぁ、皮肉にもその経験と言うのは常識革命による家族の損失なのだが。
「ダーリン、愛してるわ。あなたは?」
「愛してない。」
ただ、星を見ていた。そして、初恋の人のアスチルベを思い出していた。




