嘘
派手に人が殺された。もちろん被害者の役職は梟。
「これはひどい…人間の所業じゃないぞ?」
デスゲーム運営の人間が言う言葉ではないが、正直私も賛同する。
殺されたのはペリドットという貴婦人だ。どうやら前線で常識革命を指揮した一人らしい。下瞼と眼球の隙間にビッシリ爪楊枝が詰められ、水玉模様に破られた服の穴からは血肉に包まれた骨が見える。首回りにかけられたロープは民家の二階から伸びていた。地面に広がる血だまりは徐々に面積を増していく。
こうしてゲームで人が殺された時、我々デスゲーム運営は他のプレイヤーを現場から離れさせる。そして運営陣だけ集まって犯行現場の調査をするのだ。
二階の窓から解析員の青年の美声が響く。
「二階ベッドが血塗れです!歯らしきものが大量に見つかりました。あとガラスの破片も。」
「じゃぁ犯人は二階で貴婦人を殺害し、そのまま死体を窓からぶら下げ逃走したのか…。」
「犯人の衣服らしきものが見つかりました!返り血で真っ赤です!クローゼットが荒れているので、着替えたのだと思われます!」
「他に何かヒントになりそうなものは、あるか!?」
「あァー…壁に『私はお前を見つけて殺してやる。次はお前だ!』と書かれています。」
事件現場に落ちていたガラスの破片。あれが凶器のヒントだろう。
破片を集めて修復員が繋ぎ合わせると『Tipsy and Love』という文字が刻まれた酒瓶ができたらしい。
Tipsy and Loveは世界的に有名な造酒・酒類販売メーカーの名前だ。
「貴婦人は酒瓶で殴られ殺された。その時ついた頭の傷が致命傷だろう。」
解析員の言っていたことが頭から離れない。
というのも、「人が死んでる」と連絡がくる三十分前に、酒瓶を抱いて道路の真ん中で倒れている女性がいたのだ。
多分私と同世代。黒髪で清楚な感じだったが、酔っ払って全てを台無しにしてたよ。
「人が殺されたらしいね。怖い怖い…。」
噴水の淵に座るカリスが肩を抱いて震える。
「今までが平和すぎたんだよ。デスゲームなんだから、こんな事よくあるって。」
「私も殺されるのかなー?」
そんな話をしていると、木の影に座り込んでいたアスが口を開いた。
「前の夜明けの晩の時に思ったけど、最初と比べて人数結構減ったよね。」
言われてみればそうだ。もうプレイヤーの数は、最初の三分の二に満たない。
デスゲーム。それは報酬の為に命を懸けるのだが、時として他者の命を脅かすために参加する者がいる。そう。復讐だ。
壁に書かれていた文字『次はお前だ!』。
きっと貴婦人を殺害した人は特定の人を恨んでいる。
「リリー?」
声を掛けられハッとした。
「あっァ…」
「ボーっとしてたよ?疲れてるんじゃない?」
心配そうに顔を覗きこんでくるカリスに笑みを返す。
「大丈夫。考え事してただけだよ。」
「それならいいんだけど…」
地を這うように風が吹く。
噴水エリアを囲む芝生エリアには木漏れ日が落ちていた。
全身で木漏れ日を受けてアスは心地よさそうに唸った。遠くではダイヤちゃんが宙を舞う葉を追いかけている。
…先のことを考えるのはやめよう。
「『ナハツェーラ』の居場所を知っていますか。」
「ナハツェーラって…常識革命の?」
深くフードを被った人はそっと頷いた。隙間からショートの黒髪が覗く。
「知らないなぁ…その人を探してるの?」
「そうです。」
フード人間はそっと背を向け歩き出した。
「知らないなら結構です。ありがとうございました。」
「あっ、もし見つけたら君に報告するよ。君、名前は何?」
フード人間は足を止め、沈黙の末囁いた。
「サルビア。それが、私の名前。」




