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「悲劇の子」

「奇跡の子だ!」

父はそう言って、幼い僕を抱き上げた。

今になって考えれば、あの時の両親の感動は僕が初めて自分の足で立った時くらい大きなものだっただろう。

雲のように白い髪。宝石の様な瞳。そして、病を治せる奇跡の旋律。


演奏する旋律によって治せる病気は異なる。

世界中から集まる楽譜は塵の如く部屋に積もっていった。

「全ては奇跡のために。」

今までは雑貨屋の古いフルートだったが、いつの日かそれは高級のルネサンスフルートに変わった。

今となっては年季の入ったオンボロ品だけど…職人が心を込めて作ったものだから、未だに音が色落ちしない。

「そして、愛する人のために。」

国が燃えたあの日さえ来なければ、きっと僕は単調な幸せを追求できたはずなんだ。

でも…三日に渡る革命で全てが燃えた。塵となり、土にかえる幼児の世界。

熱風に包まれながらも、僕は生き延びた。

なぜなら僕は、「奇跡の子」だから。


灰となった国を後にし、僕は隣国の文豪の養子になった。

そこの義理の妹は自分をシオンと名乗る。

奇跡の子?いいや、悲劇の子と言われた。

「あなたは、悲劇の子。」

僕は悲劇の犠牲者らしい。

ある晩コッソリ牛乳を飲もうと寝室から飛び出した。

光の漏れる父の書斎からは新しい父と母の声がする。

この家庭はもともと二人の子供を持っていた。シオンと、その兄。その兄は兵士で、隣国に遠征に行っていたらしいけれどタイミング悪く常識革命の被害にあってしまった。

僕は、その命を落とした兄の代わりだろう。

でも大丈夫。悲しんではならないよ。

なぜなら僕は「悲劇の子」だから。それを、認めたから。


使用人のミスで家が大火事に見舞われた。

「」

薄い悲鳴が炎から立ち上る。

消防隊が駆けつけた頃には家が燃えて崩れていた。




「それでそれで?」

「父と母は植物状態。僕は奇跡的に生きのびたんだけど、妹が一番悲惨でね。」

もう日も沈む頃。

私は食堂でカリスとアスの三人でご飯を食べていた。

今晩はオムレツだ。

アスの過去の話に一番興味を持っていたのはカリスだった。

机の下にメモを忍ばせ、彼の過去を記録する。

「シオンは燃える家から逃げる時、窓枠から逃げようとしたんだ。

でも乗り越える時に窓枠が落ちて片足が切断された。」

「ヒェッ」

「救急車の中ですぐ応急処置されたからなんとか義足で済むようになったけど、傷口から黴菌が入り込んで未知の病に侵されたんだ。」

「未知の病…。」

「それは医療技術で直せない病気と言う意味でもあるけど…僕の魔法でも直せないって意味でもあるんだ。」

「シオンさんも、さぞ悲しんだでしょう。」

「いっぱい泣いてたよ。でも僕がずっとそばにいた。お兄ちゃんだから。」

良い兄だこと。

話を聞いていると、アスはずっと悲劇に見舞われてきた。義理の父の「悲劇の子」と言う表現は的確だろう。

「でもそんなある日…祖国から一通の封筒が送られてきたんだ。」

…ゲームの招待状だろうか。

「そこには二枚の紙が入ってた。一枚はこのゲームの招待状。そして二枚目は…」

「二枚目は?」

「シオンの病を治す楽譜の切れ端だった。」

その瞬間鳥肌が立った。カリスも同じだったのか、目に見えて震えた。

ハッキリ言ってアスの魔法は現実から遊離した話だ。笛の音で病気を治すのは魔法以外の何でもないだろう。

しかしここのゲーム運営陣はその魔法の片鱗をも握っているということか?

私はただの偵察員だけれど、上層部に対して初めて恐怖を感じた。

「僕がこのゲームに参加した理由は、シオンの病を治せる楽譜を得るためだ。」

外は、雨だった。




「報告書」

【アス】

要求するもの:楽譜(特定)

〇奇跡の子

・笛の音で病気を治せる

〇三人家族

→常識革命で失う

・隣国の文豪の養子になる

→父、母、アス、妹(シオン)

〇使用人のミス、家事

・父と母植物状態

・妹(シオン)片足失う

→傷口から黴菌

→不治の病

・アス無事

〇悲劇の子

→妹(シオン)の病を治す楽譜探し

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