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赤色灯の思い出

「…ふん。」

私の顔を見て、彼は鼻で笑う。朝日に照らされる窓枠に腕を乗せ、こちらを凝視する彼の目。

それは獲物を狩る強者の目だ。

「あの後どうなったんだい。」

「巡視員に叱られて部屋に返されたわ。代わりにダイヤちゃんを探してもらって…今朝見つかった。」

きっとこの発言すら半分疑われている。

今、カサブランカからの信頼はゼロだ。いや…マイナスだろう。

「まぁいい。ずっと君を待っていたんだ。早く朝食をとろう。」

そう言って彼は見向きもせず、食堂に入って行った。


いつの間にか、カサブランカは普通に給食を食べる様になっていた。

それを見ながら、私は湯気が立ち上るスープにパンを落とす。少し混ぜて、千切って食べるのが至福なのだ。

「そういえば…」

彼の耳元に口を近づけて囁いた、

「カサブランカって、捕食者だよね?梟を誰か殺害しないの?」

「ゲームルールに従えば無闇に殺すのが望ましいのだろうけど…自分の手は汚したくない。前も話しただろう。」

「でもそれじゃぁ生き残れないよ。自分から行動しなきゃ。」

「頭のいい奴は、自ら行動しなくても間接的に人を殺せるのだよ。」

温かいスープを飲んでいるはずなのに、それを聞いて冷気が背筋を駆け巡った。

いつか私は彼に利用されるのだろうか。

そんなことを考えながら、水面に映る蛍光灯を眺めているといきなり肩を叩かれた。

「わっ!」

「おはよ!」

カリスだ。一瞬カサブランカと目が合って気まずそうに会釈する。

彼は頭を下げることなく、そっと瞳を閉じてコーヒーカップに口を付けた。

「この方は?」

「カサブランカさんっていうんだけど、きっと大金持ちよ!どうやって落とそうか考えてるの!」

彼に聞こえる程度に小声で言うと、想定通り舌打ちが飛んできた。

「もう恋愛なんてしないさ。ましてやリリー…僕が君を好きになるとでも思うかい?」

「えー、いっぱい恋しようよ!まだまだ若いでしょ!?」

カリスは上手く会話に入り込んだらしい。タイミングを見計らって私の隣に座る。

「カサブランカさん…であってる?さっき、もう恋愛なんてしないって言ってたけど『もう』って何?前までは恋してたって事だよね?初恋の話聞かせてよ。」

「鬱陶しい女だな!」

乱暴にコーヒーカップが机に叩きつけられる。

…ん?

もしかして今から、カサブランカの初恋の話が始まる?

ってことは彼の過去が知れるって事だよね。…アーッ!

「私も気になるな、カサブランカの初恋。」

机の下にそっとメモを忍ばせる。

しかし…その返答は、良くも悪くも彼らしいものだった。

「馬鹿らしい。」

そう吐き捨てて彼は席を立った。

一方私達も無理して追いかけない。

「どっか行っちゃった…。」

「カリスのせいじゃないよ。恋バナが嫌いな人もいるんだからさ。」

そう慰める一方でカサブランカが過去に恋をしていた事に驚きを感じていた。

あの毒舌の彼が?あの性格の悪い彼が?…世界は広いものだ。


カリスと雑談しながら朝食をとっていた。

当然話題は初恋だった。カリスの担当医のイケメンエピソードを四つくらい聞いたよ。結局朝食をとり終えた後も私たちはずっと話をしながらホテル内をブラブラしていたのだが…

「あっ。」

廊下でまたカサブランカと会った。

彼は窓を少し開け、その隙間から外を眺めている。

「カサブランカさん!」

「ん…ん、あ…お前。」

「カリスですっ!」

さっきぶり!と言わんばかりの勢いでカサブランカの背中を叩くカリスを見ていて、なんだか微笑ましく感じた。

「何見てるの?」

「そこの公園のベンチに、笛を吹いている子供がいるだろう?あいつの演奏を聞いていたんだよ。」

笛吹き…?まさかまさかと思いながら私も窓の外の下界を見下ろす。

予想通り、公園のベンチに腰かけていたのはあの笛吹きだった。

「…リリー。あの人ってもしかして…私の担当医が憧れてた笛吹きの医師じゃない…?」

「カサブランカ。」

一旦カリスのいう事を側に置いておいて私は彼に声をかけた。

「ん?」

「あの笛吹きを知ってるの?」

「あぁ。彼とは最初のゲームで『仲間』になったんだ。名前は…確かアス。」

それを聞いてカリスが一歩後ずさる。

アス…。笛の音で病気を治す医者だ。

「彼は、その演奏で他者の病気を治せるんだとさ。とんだファンタジーだ。」

「私、彼に会ってくる!」

そう叫んでカリスは爆速で階段を下りて行った。

その後ろ姿を見届けて、彼は私に問う。

「彼女、あの笛吹きとどんな関係なんだい?」

「カリスは人探しのためにこのゲームに参加してるんだけど、その探してる人が笛吹きの医者に興味があったらしくてね。

手がかりが得られると思って話しかけに行ったのかも。」

「人探し…か。」

そう呟くカサブランカの声は疲れ切っていた。

「リリー。さっきの初恋の話…少しだけ話してやろう。」

「…教えて教えて!」

さすがに目の前でメモ帳を取り出して記録するわけにはいかない。

彼の言う事を一言一句聞き逃すまいと、全神経を耳に集中させた。

「僕の初恋の人は、死んだ。ずっと昔にね。」

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