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蒼子のおそうじ日記  作者: 地野千塩


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第2話 自分を責める事を捨てる

 今日から掃除をはじめる事にした。


『蒼子、まずは明らかにゴミを袋に入れましょう』


 蒼子の肩にピー子がのる。この体制のまま、アドバイスを受けながら掃除をしていた。


 ちなみにピー子によると、夜中に掃除をするのは良くないという事で、昼間にそうする事にした。確かに夜中に掃除をするのは、テスト前やメンタルが不安の時も多かった。そんな時に掃除をしても、すぐに元通りになった事を思い出す。


 ピー子のアドバイスの元、明らかにゴミと思われるペットボトルやお菓子の空箱、チラシやダイレクトメールなどをゴミ袋へ突っ込んでいく。


 ここまでは、単純作業で楽だった。足の踏み場もなかった子共部屋が、だんだんと輪郭が見えてきた。ベッド、机、窓、クローゼット。毎日ゴミに埋もれ、無視していた存在がくっきりしてきた。


 思えば、全く部屋も物も大切にしていなかったと思う。この部屋だって自分の実力で得たものではないのに、好き放題に散らかしていた。


「うう、自分ってダメなやつ。最低だ」

『何いってるの? 自分を責めるのは、部屋が汚くなる一因よ。やめなさい!』


 ピー子は呆れ、一階のリビングの方へ飛んでいってしまった。


 驚いた事にピー子は父や母の前でも会話してみせていた。年老いた両親は、腰を抜かした。特に母は驚きで熱も出てしまったので病院へ行っている。両親にもピー子の正体がこう見える。どうやら蒼子の思い違いではなかったようだ。


 そんな事を思い出しつつ、手を動かすが、再び自分を責めるモードが戻ってくる。


 何でに綺麗にできないんだろう。他の人はもっと綺麗な部屋に住んでいるだろうに。自分ってダメダメだ。掃除をしながら、自分を責める言葉がいっぱい頭に浮かぶ。掃除と一言で言っても、ロボットのようにできない。自分を責めてしまう。


 その上、前職を辞める時、貰ったコスメも出てきた。中学生向けの安っぽいコスメブランドのセット品だ。明らかに嫌味としてプレントしたものだろう。当時のパワハラ、いじめもような空気も思い出し、思わず涙もこぼれる。


「どうせ私なんて、仕事も何もできませんよ。わあああん」


 自分責めから悲劇のヒロインモードにも入ってしまい、単なるゴミを捨てるだけの行為で、メンタルはボロボロになっていく。ピー子が夜に掃除をするなと言った理由が身に染みる。掃除は想像以上にメンタルをえぐる行為で、全く楽しくない。自分の悪い心や現実を見つめる行為だ。ずっとこれを先延ばし、汚部屋化していた理由もよくわかってしまい、大声で泣き叫びたくなった。


 そんな中でも、どうにか前職で貰ったコスメを丸ごとゴミ袋へ入れる。とても辛い行為だったが、どうにか捨て去る事はできた。


 まだまだ部屋は散らかったままだけど。


『偉いわ。ゴミだけ捨てられたら、上出来!』


 いつの間にかピー子が戻り、目の前で飛んでいた。


「これでいいの?」

『良いのよ。まずは、捨てられた自分を褒めてあげなさい。もう自分を責める気持ちも、ゴミ袋へ入れよう』


 ピー子の明るい声を聞きながら、心にある重いものも、消えていくようだ。


「捨てていいの?」

『蒼子は悲劇のヒロインになりたいの? 違うでしょ。強くていい女になりたいんでしょ? 幸せになりたいんでしょ?』


 蒼子は涙を拭き、ゴミ袋の口を閉じた。明日はゴミ収集の日だから、これを纏めてもっていこいう。


 こうしてゴミが消えた部屋で机に向かい、ノートを開く。


 ・とりあえずゴミは捨てられた

 ・前職のコスメも捨てられた

 ・あとはゴミ袋を収集所に持っていくだけ


 こう書いた後、少し考えてからこうも書いた。


 ・悲劇のヒロイン思考も捨てる

 ・自分を責める事も捨てる

 ・いい女になる。

 ・強く、強気になる


 子供の頃は、悲劇のヒロインが幸せなるようなストーリーが好きだった。


 でも現実は、そんな泣いて卑屈になっているだけでは幸せにはなれない。


 そうだとしても高確率で女を見下すようなモラハラ男を引き寄せるだろう。それは蒼子の理想でも夢でも無かった。


 次の日、このゴミ袋を収集所に全部持って行った。


 そして最寄りの駅に行く。駅前の近くにあるカフェに入り、少し高価なモーニングセットを頼んでみた。


 トースト、コーヒーだけでなく、ゆで卵とカットメロンもついていた。メロンがあるだけで高級感のあるモーニングだが、これで六百円。コスパは悪くないだろう。


 朝のカフェだったが、客層は落ち着いていて読書中の老人なども多い。ゆっくりと美味しいコーヒーを楽しみながら、再びノートを開く。


 ・自分なりに今で頑張ってきた。

 ・それぐらいは自分で認めてあげよう。


 そう書き、赤ペンで大きな花丸も書いた。少し恥ずかしくはなったが、汚い部屋で悲劇のヒロインをやっているよりはマシだ。


「うん、もう自分を責めるのは、やめた」


 蒼子はそう呟き、甘いメロンを食べる。じゅわっと口に甘みが広がる。心も前向きになってきた。


 幸せになれるかはわからないが、もう不幸には慣れたくない。


 過去や不幸ではなく、幸せの方を見よう。


 蒼子は、心にそう決めた。


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