2人は幸せな○○をして終了
日常は誰にも忖度しない。もちろん、俺も例外ではない。だから、隣に住む幼馴染の女の子が、突然俺のことを好きになっているわけはない。
「おはよう」
「お、おはよう」
今日は朝から淫語が飛んでこない。それは日常の悪戯とかではなくて、きっと寒さのせいだ。多分。
昨日より一段と冷えこんでいて、今にも雪が降りそうな天気だった。
「今日寒いね」
「おっ、そ……」
ヤエカは慌てて口を塞ぐ。
「どうかした? 」
「何でもない……です」
何か気まずくなったので、俺は黙ることにした。
沈黙が続く。
いつもは向こうから機銃掃射みたいな卑猥トークが繰り出されるのだけど、今はそれがなくて、俺達は二人揃って無言のまま通学路を歩いていた。
ヤエカの饒舌も、こんな寒空で冷えてしまったんだ。そうに違いない。
決して、昨日、俺が変なことを聞いてしまったせいだとは思いたくない。
「あの……さ」
不意に、ヤエカが話しかけてきた。そこにいつものような勢いは無くて、どこか気弱げな雰囲気があった。
「何?」
「その……」
そんな言葉の詰まった、今までの汚さを忘れてしまったような話し方はやめてほしい。勘違いを起こしそうになる。
「言いたいことがあるから、放課後付き合ってもらってもいいかな」
今じゃだめなのか。そう聞こうとして、やめた。彼女にもそう決めた理由があるのだろう。
「分かったよ」
それだけ言って、再び歩き出す。また会話は途切れてしまった。
✳︎
その日は一日中、集中できなかった。授業中は先生に当てられても答えられなかったし、休み時間はぼーっと窓の外を眺めていた。
正直に言ってしまえば、期待が半分くらいあったし、もう半分は不安だった。
でも、放課後になって教室を出ると、彼女は既に待っていた。いつもなら、俺の方が待ってもらう側なので、少しだけ新鮮味を感じたのと同時に、申し訳なさも感じた。
「ごめん、待たせた」
「ううん。大丈夫だっ……よ」
不自然な言葉の切れ方をした。肉を前にした獣が本能に抗う。そんな感じ。
「それで、どこ行くの? 」
「私の部屋」
「ん? 」
「また私の家に来て欲しい」
このままじゃまずいなと思う。千年に一度とまではいかないけど、千日に一度くらいの奇跡的な確率で俺の目の前に姿を現した綺麗な彼女から、そんな誘いを受けたらきっと何かを間違えてしまいそう。
「分かった」
要は、俺が自分を制御すれば良い話じゃないか。大丈夫だと、自分に言い聞かせる。
それに長年の恋心を、伝えてしまうチャンスのようにも思えた。今、伝えなかったら、もう一度は来ないかもしれない。
「行こっか」
「そうだね」
二人で並んで歩く。彼女の歩幅は小さくて、一歩ずつゆっくりと歩いている。俺はそれに合わせて、ゆっくり歩いた。
並んで帰ってくる俺達みたいに、家も隣同士だ。
「一昨日ぶりだね……」
ヤエカが呟く。
「あぁ、うん……」
「入って……ください」
「お邪魔します」
ヤエカの部屋は、特に変わりない。まぁ、最後に見たのは一昨日だから、当然と言えば当然だが。
「そこに座って……」
指差された場所に座ると、ヤエカもすぐ横に腰掛けた。
「あ、あの……」
彼女が何かを言いかける。
「昨日の……その……」
「ヤエカ」
口籠る彼女の言葉を遮って名前を呼ぶ。
「えっ!?な、なに……かな?」
自分から行って玉砕した方が、後悔なんてないだろう。
「ずっと前から好きです。俺と付き合ってくれませんか」
ヤエカの顔が見る間に赤くなっていく。
「あの……その……ポッ……私も、お前の、じゃなくて冬矢のことが好き……です」
俺達は見つめ合う。長年の恋心が叶った喜びでいっぱいだった。
「こんな、ホモビデオの切り抜いた動画を見てる汚い女だけど、それでも、いい?」
「うん」
俺達は互いに抱き合った。俺はこれからも、彼女の全てを受け入れるつもりだ。
書いているうちに淫夢要素が少なくなってきてしまったので初打ち切りです。ここまで読んで頂きありがとうございました。