悶々少年.mp4
ブラックホールみたいに全てを吸い込んでベッドの中へ沈みこんでいく。
「はぁ……」
憂鬱な気分が身体中を支配する。
結局、昨日のあの後はそれ以上関係の進展なんてものは無く、ただただ、男優の嬌声を聞かされただけだった。
何故、好きな女の子の目の前でゲイポルノを観ないといけないんだ。そういう趣味は無いのだから、少しはゾーニングをしてほしい。
しかし、憂鬱の原因はこれでだけではない。
時間は今日の昼休みに遡る。
ヤエカが他の男子と2人きりで話しているのを見た。それだけ。
彼女は明るいし、可愛いので、誰からも好かれるような存在だから、別に俺以外の誰かと話すのは不思議でもなんでもないのだが、やっぱり気に食わないものは気に食わなかった。
昨日の今日なので、少しは関係も進展したんじゃないかと自負していたが、きっと今のままだと他の誰かに取られてしまうかもしれない。
取られる? 別に、俺のものでもないのに何を考えているのだろうか。
……まぁ、とにかく、俺は焦っていた。
帰り道で、そんな俺の気を知らないヤエカは今日も一緒に帰ろうと言う。
そして焦りのままに俺は聞いてしまった。
「ヤエカって、告白とかされたことある?」
「ありま……。え、今日の、もしかして見てたの!?」
『いや、その、たまたま通りかかっただけでさ』俺は嘘をついた。本当はずっと見ていた。
「あれは……違うんだよ。確かに、告白はされたけどさ。でも、私的にはナシかな。って思って断ったよ。やっぱり、『糞喰漢』を無修正で見れる人じゃないとな〜」
「何それ」
「知らないの?『糞喰漢』だよ淫夢の中で最も汚な……」
そこから先は覚えていない。気がついたら、1人で家の前に立っていた。
確か、途中でヤエカが逃げるように走って行った気がする。
「はぁ……」
溜め息が出る。もう嫌になるくらいに自己嫌悪に陥っていた。
多分、ヤエカは俺のことだって好きじゃないと思う。
それでも、少しでも彼女に近づきたくて、スマホで『糞喰漢』を検索する。
やたら露出度の高い衣装を着た、刺青の男が、ワイシャツ姿の男達に糞を塗りつける光景が映し出される。
「うっ、おぇっ」
画面の中の男のようにえずく。気持ち悪い。修正ありでこれなら、無修正はもっとキツい。
世の中には、こういうのもあるのかと思いながら動画を閉じた。
こんなんじゃ、きっと彼女と結ばれるのは無理だろう。