マニアックな彼女_mp.3
「入って、どうぞ」
「お邪魔します……」
不本意ながらも、某ビデオの冒頭部の再現をさせられてしまう。
というか、『遊ぶ』って別に家じゃなくても良いだろう。高校生らしく、カラオケとかゲーセンとか、いくらでも遊ぶ場所はあるだろうに。
「私の部屋はこっこっ」
2階へと続く階段を登ってすぐの部屋が、彼女の自室らしい。
彼女の家にご無沙汰するのは8年ぶりくらいなので、家の変わりように驚く。
「今日、私しかいないからさぁ、遠慮なく入ってくれよな〜」
ピンク色のカーテンやベッドカバーなど、いかにも女の子っぽいといった感じである。まぁ、俺は女子の部屋に上がったことはほとんどないので、よく分からないが。
部屋の隅にはぬいぐるみが数個飾られており、机の上にはデスクトップPCが置かれていた。
「喉乾いた、喉乾かない?」
「お構いな……」
彼女は俺の返事を聞くことなく、冷蔵庫の方へ駆けていった。
仕方ないので、絨毯の上に座って待つ。
しばらくして、彼女がコップ2つとペットボトルを抱えて戻ってくる。
「お待たせ。アイスティー、無かったけどいいかな?」
無いのかよ。そこは、某ビデオに被せてアイスティーを出すところだろ。と脳内でツッコミを入れるのを知りもしない彼女は、コップに炭酸を2人分注いでいく。
「ありがと」
俺は彼女に礼を言いつつ、差し出されたそれを受け取る。
シナリオ通りなら、これには睡眠薬なり、催淫剤なりが入っているはずなのだが、多分、そんなことは無いだろう。
仮にあったとしても、俺的には……。
「どうしたの?」
「ああ、ごめん、ぼーっとしてた」
「ふぅん」
彼女は俺の様子を一蹴すると、俺の隣に座ってくる。
「でね、早速なんだけど、一緒に動画見よ?」
そうなるのは予想通りだった。思春期男女が二人きりですることが、ゲイポルノ鑑賞だなんて、誰が想像しただろうか。
「えっと……、俺は構わないけど」
本当は全然良くないのだが、彼女があまりにも楽しそうにしているものだから断れなかった。
「やったぜ」
彼女はスマホを操作し、俺の方に画面を向ける。自然と距離が近くなってしまうことに俺は内心、ドキっとしていた。
「今日は、怪文書シリーズが良いかな。最近流行ってるんだよね〜」
それは、俺が想像していた、裸の男達が乳繰り合う映像では無く、サングラスをかけた褐色の男を背景に、ひたすら文字が流れていくだけの動画だった。
「草生える」
内容としては、ブログっぽい語りでジムに行った男がトイレで2人組に掘られるというものだった。
描写がいちいち生々しいのは、実体験だからだろうか。
状況的には、エロ漫画だったらこの後、いやらしい雰囲気になって……みたいなのが期待出来るのだが、鑑賞しているモノがモノだけに、全くそういう気にならない。
「ねぇ、面白い?」
隣にいる彼女は、俺の方を向きながら尋ねてくる。
「う、うん」
「当たり前だよなぁ〜」
彼女の方は、俺とは正反対にノリノリだった。
彼女の方は今の状況を意識したりしていないのだろうか。
きっと、意識してないのだろう。そうでなければこんな暴挙には出ない。
「あのさぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだけれど」
「何?」
彼女は俺の顔を見つめた。俺は、彼女の目を見ることが出来なかった。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
「最近、私のこと名前で呼んでくれなくなったよね?」
「えっ」
不意に、綺麗な方の彼女が出てきて、ドキッとする。
「前は『ヤエちゃん』って呼んでくれたじゃん」
「そうだっけ」
「そうだよ。どうして?」
理由なんて無い。ただ、自然とそうなってしまった。思春期特有の恥じらいというか、異性への意識の変化というか、そういう複雑な心情からそうなってしまった。
「ごめん、なんとなく……呼びづらくなっちゃって……」
「…………何でもする?」
「はい?」
「謝ったということは、自分に非があると認めたんだろぉ?」
「うん」
「よし、じゃあ、これからはポッチャマのこと名前で呼んでくれよな〜」
「分かったよ」
俺の言葉にヤエカは満足げに微笑む。それがどうしようもなく、可愛らしい。
やっぱり俺はこの人のことを好きだと思った。