淫夢厨と化した幼馴染_mp.1
「おはよう」
「お○んこ〜。気さくな挨拶」
毎朝、俺が彼女に挨拶する度にこれだ。
家が隣同士ということもあり毎日この挨拶を交わすので最早慣れた。
彼女は所謂“ 淫夢厨”という奴で、主に某動画投稿サイトを中心としてインターネットで流行している、同性愛アダルトビデオの台詞で他者とコミュニケーションをとる人間なのだ。
因みに、彼女とは幼稚園からの付き合いである。
かれこれ十年近く、彼女と共に過ごしてきて少なからず恋心を抱いてしまっていたのだが、彼女の本性はこんなのだったなんてあんまりじゃないか。
「今日も一緒に学校行きますよー行く行く」
「ああ……うん。そうだね」
俺は力なく返事をする。
正直に言ってしまえば、こんないつ下ネタが飛び出しかねないのと一緒に歩くなんて御免だが、相手が相手なので無碍にすることも出来ない。
惚れた弱みという奴だ。
「昨日『料亭平野24時』見てたんだけどさぁ〜!店長がやっぱり若過ぎ〜。しかももち肌そうだし」
そんなことを言いながら並んで歩いていく。
彼女が口に出しているものは当然、男同士のアレコレを撮った映像作品の事であり、彼女はそれをコメント付きで視聴するのが趣味らしい。
そしてその感想を逐一俺に伝えてくるのだ。
全く理解できない。
所謂“腐女子”というのならまだ分かる。けど、彼女はそういう行為に興味はなくて、ただ出演者の演技とか、脚本の面白おかしい所を楽しんでいるらしい。
「厨房で盛り合うとか衛生観念ガバガバ過ぎ〜。こんなんじゃ商品になんないよー」
そう言いつつ、彼女は笑い声をあげる。
何度でも言うが、本当に意味不明だ。
聞いてるこっちが恥ずかしい。
それでも不思議なのは、彼女が学校で他の友達と話している時はこんな風ではないのだ。普通に一般的な話題で会話をしているし、授業中にも先生に指名されればふざけることなく答えている。
これは憶測だが、多分俺の前でしかこういう一面を見せていないんだと思う。
心を開いてくれてるってことなら嬉しいけど、こんな特別は嬉しくない。
「おい、冬矢。お前、さっきポッチャマが話してた時、無視してただろぉ」
一人称がポッチャマって聞いた時は何の冗談かと思った。あのペンギンポケモンとアダルトビデオに何の関係があるのだ。
「いや、ちゃんと聞いてるって」
「嘘つけ。絶対聞いてないぞ」
「ごめんって」
「もう許さねぇからなぁ」
「すいません許してください何でもしますから」
彼女の絡みが怠くなってくると、俺は毎回こう言って切り抜けることにしていた。
これを言うと彼女は必ず機嫌をよくして『ん? 今なんでもするって? 』と言ってくる。
勿論、ただの戯れにすぎないので、何かを要求されるわけではない。彼女に合わせた、ただの定型句のやり取りである。
「じゃあ今日の放課後、遊ぼう? まずうちさぁ……。なんちゃって」
一瞬、ドキっとする。しかし、慌ててはいけない。
自宅へのお誘い。これもあくまで定型句のやり取りである。彼女は別に俺を招いているわけではない。しっかりと、定型句で返すだけだ。
「あー。いいっすね」
果たしてこれで合っていただろうか。