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異世界チート対策局  作者: BWG
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VS 全属性魔法使い

「ACOです! 木佐貫透さん、直ちにフィオルナ族への攻撃をやめてください」


 「#異世界チート対策局__ACO__#」現地調査官、マーガレット・ハンナは異世界コルタナに住む蛮族であるフィオルナ族を守るように前に出る。


 彼女の眼前には、圧倒的な力で蛮族たちを蹂躙する若い男。彼は日本からコルタナへの転生者だった。


「なぜだ? こいつらは武力で世界を征服しようって輩だぞ」


「チートによる過度な世界への干渉は違反だとお伝えしましたよね?」


「救える力があるなら使うべきだろう。俺のチートはこの世界を守るためにある!」


「チートによる世界への過干渉は禁止されています。やめる意思が見られない場合、実力行使させていただきます」


 マーガレットは毅然とした態度を崩さない。


「引かないっていうなら仕方がない。俺にも引けない理由があるからな」


 木佐貫は魔法を放つべく、右腕をマーガレットへと向ける。


 コルタナは、武技が発達した世界。その世界で、木佐貫は全属性魔法というチートを持って転生した。その時点でこの世界の人のほとんどは木佐貫には歯が立たず、木佐貫に対抗できる人間は数えるほどしかいなかった。


 つまり、彼はこの世界で最強格の人間。自分の力で世界に平和をもたらそうと思い上がるのも無理はなく、むしろ私利私欲のために行使しないだけマシだとも言える。


 しかし、


「ACOは、異世界すべての平和のための組織です! チートの過度な使用は、個人にも世界にも多大ない影響を与えます。私たちはその暴走を未然に防ぐのが役目です!」


 キッ、とマーガレットは木佐貫を睨むが、その目は涙目で、声も少し震えている。


 現地調査官である彼女のチート能力は戦闘向きではなく、木佐貫と戦闘になれば間違いなくやられる。過去にも、チーターと現地調査官の間のいざこざで殉職した数は数え切れない。


 ゴォォと唸りをあげ、木佐貫の手から特大の火球が放たれる。


 マーガレットは迫ってくる火球をただ見つめるのみ。その表情に色はない。


 対抗魔法を撃とうと構えていたのだが、相手の魔法の大きさに全てを諦めた。彼女の力ではどうすることもできなかった。


「すみません、私はここまでみたいです」


 誰に向けるでもなく、一人呟き、目を閉じた。


「まだだ」


「きゃっ!」


 突然、男の声が聞こえたかと思うと、マーガレットは身体が宙を浮く感覚に悲鳴を上げた。そして、そのままガッチリと抱えられ、ものすごいスピードでその場を離れる。


「大丈夫か?」


 マーガレットはそっと地面へと下ろされ、その場にへたり込んだ。


 彼女が見上げた先には、ACO本部の隊服を着た男。マーガレットは彼をじーっと見つめ、彼もマーガレットから目を離さなかった。


 そして、数秒後、彼女は彼が自分の返事を待っていることに気づき、慌てて口を開いた。


「すみません! 助けていただきありがとうございます」


 彼女の無事を確認した男は、


「遅くなって悪かった」


と謝った。


「いえ、本部からは遠いですし。むしろ早かったくらいです。あなたたちは何番隊の方ですか?」


「三番隊だ。申し遅れた。三番隊隊長一ノ瀬一だ」


その名前を聞いて、ハッとマーガレットの表情が変わる。


「あなたが……。お噂はかねがね伺っております。副長代理兼、副長助勤兼、三番隊隊長

一ノ瀬一さん。私はコルタナ現地調査官のマーガレット・ハンナです」


「長いから、一ノ瀬でいい」


一は短くそう告げ、副隊長のルリを呼んだ。


「マーガレットさんを安全な場所まで連れて行ってくれ」


「かしこまりました」


ルリはお辞儀をして、マーガレットに肩を貸す。


「お恥ずかしいかぎりです。緊張の糸が切れてしまったのか、力が入らず、ご迷惑をおかけしてすみません」


 マーガレットは無理矢理に笑みをつくる。


「何も恥ずかしいことではありません。あなたは職務を全うしてくれました。ここから先は、俺たちの仕事です」


 一は隊服を正し、全属性魔法のチーター木佐貫の元へと向かった。


「ぞろぞろと現れたところで、怪我人が増えるだけだぞ」


 木佐貫は、自分の前に二手に分かれて整列した三番隊の隊員たちを見て、うんざりとした。


「一応、訊くが、チートの行使をやめる気はないんだな?」


 隊員たちの間を通り、一は前に出る。


「くどい。俺は俺の信念のために力を使う」


 はぁぁぁぁぁ~、と一は長い長いため息をつく。


「お前、自分に酔いすぎだろ。チートが使えるからって神にでもなった気か? チートはお前の力ってわけじゃない」


「俺が使えるんだから俺の力だろう!」


「努力も苦労もせずに得た力がお前自身の力なわけがないだろ?」


「うるさい! 俺は選ばれた人間。だから、この世界に平和をもたらす義務がある!」


「話しても無駄ですよ、一さん」


 セオがやれやれと頭を振る。


「木佐貫透、チートの過度な使用、忠告を無視し、改善の余地なしということで、お前をBANする」


「やれるもんならやってみろ」


 木佐貫は身構え、臨戦態勢に入った。しかし、対峙している一は構える気配がなく、木佐貫を戸惑わせる。


「サクラ、サイモン、クリス!」


 一は新人三人の名前を挙げた。


「「「はい!」」」


 呼ばれた三人は、緊張した面持ちで一の前へと並んだ。


「訓練の成果を発揮する時だ。アイツの対処はお前達に任せる」


「「「了解しました」」」


 全属性魔法のチートは強力とはいえ、相手は一人。一は三ヶ月訓練を積んだ三人なら問題なく対処できるとそう考えた。


 木佐貫は、自分を舐めているとしか考えられない一の対応に、グッと拳を握りしめた。


「なめやがって! ぶっ飛ばしてやる!」


 両掌を前に突き出し、放ったのは極大の光属性魔法。衝撃波が一と三人を襲った。


「サクラ!」


 新人の一人サイモンが同じく新人の女性隊員サクラの名前を叫ぶ。一に対処を任せると言った以上、木佐貫の攻撃は自分たちで防ぐ必要がある。だが、彼とクリスの能力では遠距離攻撃を避けることはできても、防ぐことはできない。だから、この場で防げるのは彼女に頼るしかなかった。


「はっ!」


 サクラは、木佐貫の魔法を掌底で下からカチ上げ、軌道を真上へと捻じ曲げる。彼女の能力は波動。短い衝撃波を使って、攻撃と防御を行えるバランスのいい戦闘系の能力だ。


「ナイス!」


 魔法を防ぎ切ったのを確認してから、サイモンは、クリスをチラリと見る。クリスは懐からナイフを数本取り出し、頷いた。二人とも一気に決める腹である。サイモンの能力は、獣人化。クリスの能力は、ナイフトリックというナイフを使った変幻自在の攻撃。


 つまり、彼ら三人の能力は、長距離から攻撃はできない。したがって、木佐貫に距離を取られると、戦況は一気に厳しくなる。


 だからこそ、まだ近い位置にいる今勝負を決しようと、サイモンは突っ込み、クリスにはナイフでの援護を促したのだった。


 獣人化したサイモンは、疾風の如く、木佐貫へと距離を詰める。


 当然、近づかせたくない木佐貫はサイモンに向けて魔法を放とうとする。しかし、その前にナイフが彼目掛けて飛来し、それを撃ち落とすために魔法を発動することになった。


 その間、サイモンは前進を続け、攻撃可能距離まであと数メートルへと迫る。


 並の相手ならば、そこから逃れる術はない。だが、木佐貫は全属性魔法のチートを持つ。ナイフを撃ち落とした続け様、土属性の魔法で、サイモンの足元に地割れを発生。


 サイモンは足を取られそうになるが、獣人の身体能力を生かし、間一髪、地割れから脱してものの、その間に木佐貫に距離を取られることとなった。


「ふぅー、危なかった。なかなかやるなぁ」


 余裕の笑みを浮かべる木佐貫とは対照的に、新人三人の顔は苦々しい。これから三人は、全属性魔法のチートを持つ木佐貫の魔法を防ぎつつ、距離を詰めるという不利を強いられることとなった。

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