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エピローグ

 ハルダー王子の消失により、ローアンの戦いは完全に終結した。


 ラーズがハルダーと共に姿を消すと同時に、鉄人兵と鉄巨人も光に包まれて姿を消した。後には鉄人兵に気絶させられた兵士たちだけが残されていた。

 この戦いに参加した兵士六千のうち、ガレスの死者は二十五名。鉄人兵は相手を麻痺させる武器を使用していた為、戦った兵のほとんどが昏倒させられていた。その為、怪我人はともかく、死者は非常にに少ない数にとどまっていた。


 この後、ハルダーに代わり司令官を務める事となったフォイル将軍が、ソーンの司令官であるシモンと停戦の約定を結んだ。


「この戦いで自分に何かあった場合、フォイルに代行を頼む」と事前にハルダーが諸将に伝えていた為、このやり取りは円滑に進んだ。


「殿下はおそらく、ディー・オーンの介入があった時点で死ぬ覚悟を決めたに違いない」

 後にフォイルはそう語った。

「あの方は生きにくい程に誇り高いお方だ。このまま恥を晒して生き続けるより、華々しく死にたいと願ったのだ」

 ハルダーをよく知る者ほど、彼の言葉に同意した。


 戦いが終わってから数日後、ウェイナーは病から回復し、政務に復帰した。それから数ヶ月後、バリルや大臣達からの推薦を受けて、ウェイナーはガレス国王となった。

 ガレス王国三百年の歴史で、初めて天奏の秘術を継承しない王の誕生であった。彼に否定的な国民もいたが、後に彼は国を更に発展させた名君として讃えられる事となる。


 だがそれは、エルドレスを管理する役目を担ったラーズでさえ、まだ知るよしもない事だった。




 白い光が消え去ると、ラーズ一行は皆ほっとするような笑みを浮かべた。指定した通りの転送先、ルークス村の中央近く、ラーズの家の前に立っていた。

 夏の真っ盛りを迎えようとする時期だ。この間帰ってきた時に比べると、木々や田畑の青々した色がひときわ強くなっているように見える。頭上で輝く太陽と同様、生命の素晴らしさを全身で表現しているようだった。


「……帰ってきたんだ!」


 アーシェラが感極まったように言った。真っ先に走り出し、周囲の建物や木々の曲がり具合を、記憶と照らし合わせようとするように見て回っている。まるで興味を持ったものに駆け寄る小動物のようだ。


「おいおいアーシェラ、まずは父さん達に挨拶していこうぜ!」


 レオがやれやれと言いたげに駆け寄る。だがその顔からはアーシェラと同様、喜びを隠しきれていなかった。

 二人を見ながら、ラーズはほっと息をついた。アーシェラを助けて、必ず家に返す。ゴードとの約束を果たすことができた、安堵の息だった。


「良かったね、ラーズ」

 ラーズの気持ちを察したように、リンカが隣で微笑んだ。

「ああ。肩の荷が下りたよ。頑張ってきた甲斐があった」


「それで、これからどうするの?」

 リンカが尋ねた。

「うん……どうしようか。正直、先のことは全然考えてないんだ」


 成り行きとはいえ、大神の代理人を引き受けた以上、村で今までと同じ生活を送るわけにはいかなかった。アイーシャ達をこのまま放っておくわけにもいかないし、大体それはアイーシャ達が許さないだろう。

 最早ラーズは、一介の狩人として暮らしていくことはできない。それ以上の事を知り、関わってしまった。


「まさかこのまま村にこもるつもりはないでしょ?」

 ラーズの気持ちを読んだか、リンカは軽く肩をすくめながら言った。

「そんな事してたら、アイーシャさん達が総出で、ラーズの家に押しかけに来るかもね」

 その光景を想像して、ラーズは苦笑した。果たしてゴードはどう反応する事だろう。


「そうだな。とりあえず、いろんな所を旅してまわりたいよ。エルドレスを管理しろっていうなら、エルドレスの事をもっと知らないといけないし」

 ラーズはふと気になって、リンカに尋ねた。


「リンカはどうするんだ? 家に帰るのか」

「うん。とりあえずはそうなるのかな……。お父様も心配してるだろうしね。この間は全然話せなかったし、もっと色々、落ち着いて話したいし」

「……なあ、もしよかったら、なんだけど。家に帰った後でまた……一緒に旅、しないか」


 リンカが目を丸くした。言ってから妙に恥ずかしくなって、ラーズは目をそらした。不思議と頬が熱くなっていた。


「あたし? それあたしに言ったの?」

「君に言わなきゃ、誰に言うんだよ。リンカと会ってから結構経つし、一緒にいろんな事してきたけどさ。君と一緒にいるのが……その、楽しかったから。もっとずっと、一緒にいたい、と思って」


 そう言った時のリンカがどんな表情を見せたか、しっかり顔を見ておけばよかった。ラーズは後々、何度もそう思い返すのだった。


 リンカの体が、ぶるりと震えるのが見えた。ラーズが顔を上げると、リンカは顔を両手で隠すように覆っていた。


「……リンカ?」

「ちょ、ちょっと……。こんなとこで、いきなりそういう事言わないでよ……」

「なんか俺、変な事言った? 嫌だった?」

「そうじゃなくて、もう……」


 やがてリンカが両手を外すと、少し頬が緩んでいる以外はいつもの顔になっていた。

「リンカ?」

「……いいよ。またずっと旅しようよ。一緒に」


 ぼそり、とリンカは恥ずかしそうに言った。

 ラーズ達を呼ぶアーシェラの声がして、ラーズ達はそちらを向いた。外の声に気付いたゴードが扉を開け、家から出てくるところだった。


「……とりあえず、先の事はまた今度考えようか」

 ラーズの提案にリンカは頷き、二人は家に向かって歩き出した。

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