雨上がりの荒れ模様
かぎかっこの前に:を入れてみました。
ぶーん ぶーん ぶーん♪
蜂が飛ぶ。
蜂と言っても全部シオサだ。
スラスラスター(シオサ命名)全域を飛び回り、空から地上を観察しているのだ。
雨粒スライムの豪雨により、プリンの大地に水溜りが出現。
流れて削れて川ができ、大きな湖になる。
緑があれば良い景色になりそうだ。
シオサ:「そうですね。せっかくだから草を生やしましょう」
しゃがんでプリンに両手を突っ込む。
シオサ:「では、プリンのまま【草の性質】を付与しましょう」
ザザッ!
プリンの存在が歪む!
プリンの地表がうごめき、黄緑色の草を形取る。
カヤ、ブタクサ、ヨモギ、タンポポ、様々な雑草に姿を似せる。
シオサ:「すごいですね。食感はプリンなのに味と匂いは草なんですね」ムシャムシャ
風が吹くと雑草が揺れ、ざわめきと香りが生命力を感じさせる。
シェード:「これは……心臓が喜んでます。ママの好みならもっと自然豊かにしましょう。」
川に両手を突っ込む。
スライムの存在が歪む!
スライムはサラサラの水となり、川の流れは加速する。
シオサ:「次は動物ですね」
再びプリンに両手を突っ込む。
プリンの存在が歪む!
プリンは虫になり、鳥になり、獣になり、魚になる。
シオサ:「そうだ、折角だから……」
猪スライムは『ウボア』
熊スライムは『ゲキジョグマ』
鰯スライムは『イワシラン』
飛竜スライムは『ワイドバーン』
魔獣の名を冠するスライムは、大地を駆け、空を飛び、海を行く。
シオサ「いい感じですね。心臓がドキドキしますよ」
頬は赤く、目はキラキラ。
次は何を作ろうか──
げしげしげしげし げしげしげしげし!!!
シオサ「おや、どうしたのでしょう?」
▼▼▼▼▼▼▼▼
げしげしげしげし
シェード:「なによ、なによ、何なのよ!」
プリンの大地を踏む。
シェード:「おかしいの。何もかもまともじゃないの!」
その瞳には嫉妬の紫が揺れる。
シェード:「シオサ、シオサ!」
シオサ:「はいはい。荒れてますね」
シェード:「そうなのよ。何なのよあの、あの、おかしいのよ!」
シオサ:「まあまあ、イチゴジャムパンでも食べてください」
シェード:「いただくの」
もぐもぐもぐもぐ もぐもぐもぐもぐ
リスのようにジャムパンをパクつく。
シェード:「ふう、落ち着いたの」
シオサ:「深呼吸でもしましょう」
両手を広げて、吸って、吐いて。
シェード:「シオサ、知ってる事を教えるの」
シオサ:「了解です」
心臓から毛細血管が伸びて、互いの心臓が繫る。
シオサ:「(これで女神さまに聞かれないはずです。まずは今の状況)」
シェード:「(そう、女神さまと会ってからおかしいの)」
口では普通に愚痴りながら、心臓で会話をする。
シオサ:「(女神さまの想像力が周囲を歪めていると推測します)」
シェード:「(やっぱりクソ女神なの)」
シオサ:「(そもそも、ステータスを調べている時に、謎の線を発見しまして)」
シェード:「(謎の線?)」
シオサ:「(私たちのステータスは、存在そのものと密接にリンクしています。『肉体』『心』『魂』『時間軸』これらの要素をある種のパワーが覆っているのです)」
シェード:「(?)」
シオサ:「(これらの要素から、細い線が伸びているのですよ。謎の場所へ向かって)」
シェード:「(なんなのよそのホラー)」
シオサ:「(謎の場所が何処かと独自に調査したところ)」
シェード:「(まさか)」
シオサ:「(そう、女神さまの心臓と繋がっていたのです。)」
シェード:「(うわぁ)」
血の気の引いたようなげっそり顔で心臓を押さえる。
シオサ:「(そこからパワーが流れている事から、残念ながら、ステータスとは女神パワーの事のようです)」
シェード:「(ええ……)」
シオサ:「(女神パワーと一緒に女神の感情も流れて来るようでして)」
シェード:「(そうなのね、違和感の正体が分かったの)」
シオサ:「(抑える手段はありますよ。)」
シェード「(ちゃんと方法はあるのね)」
シオサ曰く、
肉体全体に付いている謎の線を押さえる。
心全体に付いている謎の線を押さえる。
魂全体に付いている謎の線を押さえる。
時間軸全体に付いている謎の線を押さえる。
シェード:「肉体全体から意味不明なの!」
シオサ:「連続体ですからね。ω_1本だけ謎の線があるんですよ。」
シェード:「謎の線って何なのよ! 何も見えないの!」
シオサ:「気合で頑張ってください。」
こうして謎の線を見る修行が始まった。
そして日が暮れる頃──
シェード:「ちょっと、この辺太陽ないじゃない!」
シオサ:「そうですね、作りましょう」
太陽スライムを作って公転させる。
これでようやく日が暮れた。
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白い船の小さな部屋のベッドに妊婦が2人。
ジヒナ:「なあユイキリ」
ユイキリ:「なあに?」
ジヒナ:「全身がだるいんだけど」
お腹をさする。
ユイキリ:「あらあら〜妊婦ってそんなものなのよ〜」
ジヒナ:「そ、そうなのか」
お腹の形が歪む。アオサが足を伸ばしたようだ。
ジヒナ:「なあユイキリ」
ユイキリ:「なあに?」
ジヒナ:「食欲出ないんだが」
むかむかして食事が喉を通らないようだ。
ユイキリ:「あらあら〜、ハチミツレモンを飲むといいわよ〜」
ジヒナ:「そうなのか?」
時空をねじ曲げハチミツレモンのペットボトルを取り出す。
ごくごくごく
ジヒナ:「ふぅ、酸味が欲しくなるんだなー」
ユイキリ:「そうよ〜」
ベッドにもたれて上の空。しばらく目を閉じる。
ジヒナ:「……」
ユイキリ:「……」
ジヒナ:「なあユイキリ」
ユイキリ:「なあに?」
ジヒナ:「私がママになるの嫌だったんじゃないのか?」
ユイキリ:「うふふふふ、貴方が産むのはスライムの方よ〜。さっさと名前考えときなさい」
少し威圧感が強くなる。
ジヒナ:「あ、ああ。」
ユイキリ:「うふふふ〜」
ジヒナ:「なあユイキリ」
ユイキリ:「なあに?」
ジヒナ:「もし、両方からアオサが産まれたら、アオサが2人産まれたら」
ユイキリ:「!!!!!」ピシッ
その可能性に思い至り、空気が凍りつく。
ジヒナ:「あ、ご、ごめん」
ユイキリ:「……」
笑顔が凍りついたままだ。
ユイキリ:「う、うふふー仕方ないわねーアオサちゃんがそう望むなら受け入れるわー」
ジヒナ:「お、おう」
そこから会話は途切れた。
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シオサ:「ご飯ですよー!」
ジヒナ:「はーい」
ユイキリ:「今いくわ〜」
テーブルには、ご飯、梅干し、味噌汁、白身魚の素揚げ、きゅうりの酢の物。
尚、全て元はプリンとスライムだ。
「「「「いただきまーす」」」」
……
……
淡々と食事が進む。
皿と食器の音が虚しく響く。
まるで嵐の前の静けさだと、シオサは感じたのだった。
そろそろカオスが加速します。ご注意ください。