たとえあなたが蜂になっても
(猟師の息子 視点)
ボクはネスト。10歳の男の子だ。
田舎の小さな学校で成績が一番になれる程度の男の子。
突然だが、ボクは猟師に憧れている。
ボクのパパは町一番の猟師だ。猟犬を引き連れて森に入って、大きな熊やイノシシを狩って来るんだ。
5歳の時に連れていってもらった時、パパは5匹のイノシシの突進攻撃を綺麗に避けて一匹ずつ仕留めたんだ。あの時はカッコ良かったなぁ。
でも、ボクの運動神経はてんでダメ。銃も見当外れの方向に飛んでいく。得意な魔法も支援寄りでとても魔獣を狩れるとは思えない。
両親はボクの勉学の才能を見出して都会の学校に送る気でいる。ボクも理解してはいるが、なんだかなぁ……
ネスト「はぁ……せめて普通の運動神経があればなぁ……」
???『もしもしそこのあなた』
ネスト「えっ誰!?」きょろきょろ
女の人の綺麗な声が頭に響く。姿は見ない。
???『知ってますか?働き蜂はみんなメスなんですよ。』
ネスト「えっ?えぇと……」
???『オス蜂には戦闘能力がないんですよ。頑張っても強くなれないんですよ。』
ネスト「うっ……」
今の言葉は胸に刺さる。ちょっと泣きそう。
???『それは進化のアメ、貴方を少しだけ違った自分になれる不思議なアメです』
いつの間にか掌の中にアメ玉が?
???『蝶のように飛び回り、蜂のように刺す。そんな姿、憧れませんか?』
ネスト「……」ごくり
???『今日の夜、お父さんが帰ってきます。あなたの覚悟を見せるなら、その時しかないでしょう。』
ネスト「えっ!?」
???『それではごきげんよう~』
ネスト「まっ、待ってください!」
声は聞こえなくなった。ボクの覚悟か……こんな得体の知れないモノを口にするのは正直怖い。でも、やるなら今しかない!
ネスト「……えいっ!」ごくり
>少年ネストから『性別:男』を回収、『性別:女』を付与
>『種族:ミツビー』を付与
>『特性:女王蜂』を付与
…………
少年ネストは目の前が真っ暗になった。
次に目を覚ました時は何か違和感がしたが、喉の奥が少し熱いだけで特に異常は見当たらなかった。
ネスト「ボクはネスト、10歳の女の子だ」
…………
アオサ「という訳でネストくんは女の子になってしまいましたとさ。」
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クラムシティ ~潮風かおる港町~
コンクリート製の防波堤に波が打ち付ける。
船のエンジン音と漁師たちの歓声が波に吸い込まれていく。
潮風が肌にべったりと張り付くようで、ちょっと気持ち悪い。
先にマリリンちゃんの家に行ってもいいけど、まずは夕食にしよう。
小さな食堂に入る。男達で賑わっていた。……そっと食堂を出る。
やはりニンゲンのオスは苦手だ。人気の少ない場所へ行く。
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[港カフェ]
ここは比較的静かだ。あら煮定食にシーフードカレー……色々あるんだね。
マグロドン丼を注文する。
きたきた。アツアツご飯の上に新鮮なマグロ肉を乗せて特性タレがかかっている。
海鮮味噌汁もついて来た。アッサリーとカサカサゴの出汁が効いている。
ガツガツ ガツガツ
何杯でもいける!
……ふはぁ♪
午後7時。そろそろ行こう。代金を払い店を後にする。
マリリンちゃんをナデナデしながら歩く。
ところで蜂の寿命はおよそ一年だ(アオサ式魔改造蜂は除く)。30時間のナデナデでも、ニンゲン感覚だと100日間、不眠不休で全身をナデナデされ続けた感覚なのかもしれない。
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(猟師の妻 視点)
私はハリネ。マストンの妻で専業主婦をやってるわ。
今ごろ夫は冒険センターでワイドバーンを換金している頃かしら? 明日は好物の生姜焼きを作りましょう♪
ピンポーン
ハリネ「はーい」
こんな時間に誰かしら? ……妙な胸騒ぎがするわ。
少女「こんばんは、マストンさんの妻のハリネさんで間違いないでしょうか。」
ハリネ「はい、そうですが……」
青髪で目つきの悪い女がいる。
まさか!? ……緊張感が高まる。
「夫のマストンさんですが、残念ながら……」
「ッッ!?!?」
息が詰まる。お願いだからその先は言わないで!
少女「……蜂になっちゃいました~!」
ハリネ「へっ????」ぽかん
…………
少女「はい、この子がマストンさん改めマリリンちゃんです!」
理解が追いつかないわ。何なの! 何が起こってるの!?
少女は30センチの蜂を夫だと言う。
両手で受け取ると、蜂はちょこんと座ってじぃーっとこちらを見つめてくる。
ウチの夫がこんなにしおらしいはずがないわ! ……いやいや、もしかしたら蜂になって辛い目に遭ってきたのかも?
現実味がないまま思考を巡らせる。むむむ……?
少女「実は、ワイドバーンに倒されそうになってた所を悪い魔女に目を付けられてしまったのですよ。」
(いやいやその魔女アンタでしょ!)
少女「愛する者のキスでニンゲンに戻る呪いをかけておきました~」
目つきの悪い女は少しソワソワしている。
何がしたいか分からないわ。でも悪意はなさそう?
そうね、本当だったらここで引くわけにはいかないわ。
悪い子じゃなさそうだし、キスしたら満足して帰ってくれるかも。
ふぅ……
深く息を吐き出し、もう一度蜂を見つめる。
口は細長く尖っていて、2股に割れている。どうやってキスしましょう。
5分ほど二の足を踏んでいたが、意を決して口をつける!
ハリネ「はむっ……!」
蜂の口を咥えてみる。先端が舌に当たってくすぐったい。
ピカァァァァァァァァン!!!!!!!!
わっ、まぶしっ!
光が収まると……目の前には美少女がいた! そして私は少女の舌を咥えている!?
ハリネ「ふぐっ!?!?!?」
よく分からないけど、何だかいい匂いがする。
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(引き続きハリネ視点)
「「ぷはぁ」」
ようやく唇を離す。こんなに濃厚なキス、生まれて初めてかも。
「「…………」」ぽわぁ
まだ頭がスッキリしない。目の前の少女は18歳くらいで、茶髪に黒目。
ハリネ「えっと、マストン……なの?」
???「ますとん? わたしマリリンだよ?」
ハリネ「あっ、うん、そう……」
これは重傷ね。魔女さんは~……娘と話してる、というか何か囁いてる?
娘のネストがマリリン(?)にフラフラと近づいていく。頭をナデナデしてる!?
マリリンは気持ちよさそうに目を細める。
ネスト「パパ、とっても可愛いわよ!」
娘が囁くと、マリリンちゃんは恥ずかしそうに頬を赤く染める。
ちょっとネストちゃんそこ代わりなさいッ!
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「……って事があったの」
「アオサちゃ~~~ん!?!?」
「と言う事で、マリリンちゃんとネストちゃんをよろしくね!」
「もうしょうがない子ね。明日も頑張ってね!」
「はぁい、おやすみママ。」
「おやすみなさい。」
ピッ……
今回は時間かかりました。ノリと勢いに任せて書いた。後悔はしてない。