桜が散るよりも速く新しい花びらを生やせばいい!
戦いが終わった翌日……
どこまでも透き通る海のような空。
ぽやぽやとした風に舞い散る花びら。
リーブタウン、アオサ宅は今日も平和だ。
ユイキリ「アオサちゃ〜ん、起きなさい。今日は花見に行くわよ〜」
アオサ「んあ〜?」ごろごろ
シェード「むにゃむにゃなの」
シオサ「ママ、起きてください」
ユイキリ「仕方ないわね」
グリグリグリグリ
バリバリバリバリィ!
アオサ「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
今日も平和だ。
ジヒナ「おはようアオサ」
アオサ「おはようパパー」
シェード「おはようなの」
ジヒナ「今日は5人で花見の予定だよ。ほら、お弁当も作ったんだ」ドン
重箱が8段×8重の合計64箱もある。よく見ると蜂が描かれている。
まずは朝食のハチミツマラサダとパインヨーグルトを食べよう。
シェードとシオサもリスのように口を動かしている。
食べたら皿を洗って荷物をリュックに詰めて、出発だー!
ユイキリ「あらあら〜寝癖ついてるわよ」ワシャワシャ
アオサ「んー……」
ユイキリ「災害用キットは持ったわね〜?」
アオサ「はーい」
ユイキリ「シェードちゃんとシオサちゃんはバッチリね!」
シェード「はいなのー」
シオサ「バッチリです」
ジヒナ「キャンプセットも持ったぞー」
大きな物は体内に収納して身軽だ。
ユイキリ「よーし行くわよー♪」
ビュン!
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[リグラシティ]
今日の花見スポットはリグラシティ。
そう、あの勇者たちの総本山だった街だ。
自宅からおよそ20000キロ、飛行機で丸1日かかるらしいけど、無限のスピードなら0秒だ。
シュタッ!
機械の残骸と草ぼうぼうのアスファルト道。
かつてのニンゲンの栄華は見る影もない。
そして中央の高いタワーはまるごと無くなって、巨大な桜が生えていた。
突然、土から人が生えてくる。
にょきっ にょきにょきにょき!!!
イワビト「ようこそおいでくださいましたアオサ様」
クサビト「今日はゆっくりしていってください」
そうそう、人と自然を融合させた結果、樹木もアスファルトも女の子になったのさ。
【イワビト】ちゃんは黒灰色の肌、【クサビト】ちゃんは黄緑の肌だよ。
ユイキリ「あらあら〜今日はよろしくね」
アオサ「1日失礼するね〜」
イワビト「こちらこそよろしくお願いします」ぽっ
クサビト「ええ、こちらこそアオサ様方のお顔を拝見……」ぽっ
ほーん? まさか私に惚れるとは。ちょっとイタズラしようかな?
ニコッ
イワビト「はうぅ♪」ズキューン♪
クサビト「キャー♪」ズキューン♪
わーお。
ユイキリ「こらアオサ」ぺちん
怒られちゃった。
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草花が覗くアスファルトの街道。
今日は人口密度が高い。そして種族もカオスだ。
【ミズビト】や【ヤミビト】、【エアビト】、【ツチビト】。
種多様な【ケモビト】に【ウオビト】、【ハチビト】なんかも押しかけて来ている。
言うまでもないけどみんな女の子。男は絶滅させたよ。
左右にはお祭りの屋台。
たこ焼きや焼きそば、ハチミツバナナにハチミツマラサダ、ローヤルゼリースムージーなんかもある。
私は分裂して全ての飲食店へ行く。
私が近づくと、人々は道を開け、店員さんは顔を赤らめカチカチに緊張してしまった。
店員「い、いらっしゃいましぇッ!」
アオサ「こんにちは店員さん、ローヤルゼリー寒天ひとつください」
店員「は、はい。かしこまりましたぁ」
可愛い【ハチビト】の店員さんだ。お尻がふっくらしててナデナデしがいがありそうだ。
裏では猛スピードかつ丁寧な調理がはじまる。
角寒天をバキバキ割って煮込んで裏ごし。ハチミツとローヤルゼリーを混ぜていく。
店員「お待たせしました。ローヤルゼリー寒天になります!」
紙皿の上で白くて四角い寒天がプルプル震えている。
アオサ「いただきまーす」
プルっとした食感、ゆっくり広がるフワッとした甘味、口の中で溶けて、んふー!
アオサ「おいしい!」
緊張が解けて喜んでるね。店員さんも一般の人も黄色い声を響かせてるね。
アオサ「みんな頑張ったんだね、ヨシヨシ」
ナデナデ、ナデナデ
店員「!?!? は、はわわわぁ♪」
アオサ「ほら、みんなも」
ナデナデ、ナデナデ
店員「えへへ〜」
店員「ちょっと待っ…ふにゃん♪」
店員「ふわぁぁぁ……」
ナデナデ、ナデナデ
可愛い。やっぱり素直が一番だね。
アオサ「来年もよろしくね」
店員たち「「「「はい、アオサ様!!!」」」」
こういうやりとりを全部の飲食店でやって、お花見会場に向かう。
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屋台を見たら昼前だ。眼下には桜。強めの風に花びらが舞う。
シェード「綺麗なの」
シオサ「さすがママです」
ジヒナ「うんうん、いつ見ても桜は良いものだ」
ユイキリ「そうね、懐かしい気持ちになるわね」
中央のタワーがあった場所は大きなクレーターのようになっていた。
私が地下に囚われていた時、派手に花火ぶちまけたからね。
代わりに桜の樹が生えている。自作なんだけどね。
おや、先客がいる?
ルルリエ「アオサさーん!」
ルルリエだ! ママさんとアマ公もいるぞ!
アオサ「おーい!」
クレーターを滑り降りると桜特有の香りが鼻をくすぐる。
桜の元には丸テーブル。花びらは2人を避けて落ちていく。
さすがお嬢様。育ちが違いすぎるよ。
アオサ「よっと、久しぶり」
ルルリエ「昨日会ったばかりですよ?」
それもそうか。
ユイキリ「あらあらネルリさん、お久しぶりですね」
ネルリリーリゼ「こちらこそ、100年ぶりですわね」
シオサ「アマノウスさん、お久しぶりです」
アマノウス「お主、今度は何を企んでおる?」ビクッ
ジヒナ「あれ、さくらんぼが成ってるぞ?」
シェード「アオサ、食い意地張ってるのね」
つむじ風で花びらがくるくる回っている。
ジヒナは十分広いブルーシートをばさりと出して、四方に留め具をダダダダッと打ち込む。
裸足でブルーシートを踏むと、土と雑草の感触がして何とも言えないくすぐったさがする。
ユイキリ「ネルリさんたちも一緒にいかがですか?」
ネルリリーリゼ「まあ、それじゃあお言葉に甘えて」
2人のお嬢様はフワリと座る。やっぱり育ちが違うね。
さあお昼ごはんだ。少し早いけど、関係ないさ。
出汁巻き卵にハンバーグ、豚バラチャーハンにカレーマラサダ。私の好物が詰まってる!
アオサ「ママ、パパ、ありがとう!」
ぱくぱく ぱくぱく ぱくぱく ぱくぱく
私の胃袋は、無限を無限の彼方へ置き去りにした容量。
ぱくぱく ぱくぱく ぱくぱく ぱくぱく
この程度の量は、余裕である。
シェード「ちょっとアオサ、ペース考えなさい!」
シオサ「蜂とすり替えます」スッ
バリッ!
しまった、エビフライが蜂フライにすり替わってしまった。
この蜂は、シオサの一部なのか。うん、シオサの味がするね。
もしゃもしゃ バリバリィ
あれ? いつの間に人が増えてる?
クレーターに入らずに、縁からこちらを伺っている。
……
待って!
花見じゃない、私たちを見てるよ!
熱っぽい視線で、アイドルを見るように。
……まあ、関係ないね。
ぱくぱく ぱくぱく ぱくぱく ぱくぱく
アオサ「ごちそうさまでした〜」
ユイキリ「あらあら〜、よく食べたわね〜」
アオサ「やっぱりママの手料理が一番だよ」
ユイキリ「ところでアオサ、大切な話があるの」
ドクンッ!
……大切な、話。
怖いな。
旅立ちの前夜を思い出し、無意識に身構えてしまう。
……
私とママは桜の側に立つ。
ママは深呼吸をして、真剣な目になる。
そして静寂が周囲を支配する。
ユイキリ「アオサ……」
ドクンッ!
心臓が高鳴る。何が来る、いったい何なんだ?!
ユイキリ「アオサ、私は、今日からニンゲンを止めるわ!」
アオサ「……えっ?」
にょきにょき にょきにょき
ママに触角と翅が生えた!!
そしてお尻も蜂のように黄色く尖った形に!?
目は複眼で腰は昆虫のように異様なくびれ方だ。
アオサ「ママ!? 急にどうしたの!?!?!?」
ユイキリ「私は今まで『母として』貴女に接してきたわ。理性を保って出しゃばらないように」
アオサ「ママ……」
ユイキリ「でも、もう止めよ止め。貴女を見てたら自由に生きてみたくなったの」
ママ、知らない所で悩んでたんだね。
ユイキリ「そして、アオサが結界に囚われて、私の心は静かに荒れて、そして決意したわ!」
ママ? 顔が近いよ?
ユイキリ「アオサ、結婚するわよ! 私は貴女のお嫁さんになるの!」
アオサ「え?」
シェード「え!?」
一同「「「「「えぇぇぇぇぇぇえ!?!?!?」」」」」
シェード「ちょっと待つの! 嫁はあたしなの!」
ユイキリ「あらあら〜? 嫁が1人だけなんて誰が決めたのかしら〜?」
シェード「むむむ……」
まずい、ママが暴走してるよ!
シオサ「私は賛成です。ママさんなら信用できます」
ジヒナ「うーん、別にいいんじゃないかな?」
ルルリエ「えーと、母と娘が結婚するのは良い事だと思いますよ?」
ネルリリーリゼ「そうね、その通りよ」
シェード「ぐぬぬ、ダメよ、ダメなの! せっかくアオサを独占──」
ユイキリ「決めるのはアオサよ。黙って聞きなさい」
シェード「……わかったの」しゅん
ママ、私の事をそこまで思って……
これを断るなんてとんでもない!
アオサ「いいよママ。結婚しよう」
ユイキリ「まあ嬉しいわ♪」
シェード「アオサァァァァァ!?」
ちゅぅ……
深く、熱く、激しく、それでいて優しさと幸せに満ちた柔らかなキス。
アオサ「(ごめんねシェード。やっぱりママが一番なんだ)」
シェード「ぐすっ」
シオサ「ママ、私が幸せにします」
シェード「……うん。」
ジヒナ「あー、うん。いつかこうなと思ってたよ」
ルルリエ「わたくしたちも負けてられません!」
ネルリリーリゼ「そうね」ちゅぅ
私たちの幸せが世界を包んでいくのが分かる。
ユイキリ「ほら、ジヒナもシェードもシオサも来るのよ!」
シェード「ふえっ!?」
シオサ「あらら」
ジヒナ「はうあっ!?!?」
家族5人で滅茶苦茶やって、その余波が時空を超えて宇宙全体に広がっていく。
生命の在り方そのものが変わってしまった気がする。
アマノウス「これで……良かったのだろうか?」
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アオサとユイキリの愛は伝播する。
花見の客は口づけを交わし合い、みんなが幸せな気持ちになる。
世界中の人もキスしたくなる衝動に任せて幸せになってしまう。
アオサたちの力が強すぎて、感情すらも他者を侵食するのだ。
この日、全世界は幸せになった。
自然と人類が調和し、愛と平和と自由を謳歌する理想の世界が体現したのだ。
桜は散った側から新しい花びらが生えてくる。
アオサの理想は滅びない。
幸せをより大きな幸せで塗り潰しながら、平和な日々が過ぎていくのだった。
TO BE CONTINUED …
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ブゥン……
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ようやく4面が終わりました。そしていよいよ……
5面はまだ20%くらいしか決まってないので、1週間くらい更新止まるかもしれない。でも失踪しないよ!