蜂駆除会議
疲れたぁぁぁ。目がシュバシュバする〜
ひゅーん
シュタタタタ
ザッシュ「ただいま戻りました。【ゼロの結界】は無事に発動しました」
ヒート「通常の結界も大丈夫だぜ」
ダグヌ「よくぞ戻った勇者達よ、とりあえず当面の安全は確保されたと見て良いだろう」
無限を封じる【ゼロの結界】と普通に硬い【普通の結界】。この組み合わせを突破できる者はなかなかいない。
ヒート「で、奴らについて何か分かったのか?」
ダグヌ「実はお前達が留守の間、女王蜂が単騎で襲撃して来てだな」
ザッシュ「何だって!?」
ダーク「バカなのかソイツ?」
ダグヌ「案の定【ゼロの結界】に引っかかってだな。これが実際の映像だ」
うぃーーん
白い壁が急にテレビ画面のようになり、アオサのグロ画像が写し出される。
ザッシュ「うっ……」
ダーク「ほう?」
ザッシュは口を押さえ、他は興味深そうに画面を見る。
ダグヌ「これは女王蜂のような何かだ。クローンは破壊衝動に溢れ、フェロモンを吸えば精神を侵される。非常に危険な生物だ」
ザッシュ「もしそれが悪用されたら……」
ヒート「それを残すって事ぁ、奴らの弱点を調べてるって事か?」
ダグヌ「便宜上奴らの事は『蜂』と呼ぶ。現時点で分かった事といえば、通常のミツバチと同じ性質があるという推測だ」
クウジン「……殺虫剤を使うでござるな?」
ダグヌ「そうだ。クローンを用いた実験ではピレトロイド系が有効との結果が出た」
実際はアオサクローンは自爆するので実験は困難を極めている。
ダグヌ「1週間、調査をしながら殺虫剤と煙幕を大量生産する体制に入る。お前達、大丈夫とは思うが警戒は怠るなよ!」
一同「ハッ!」
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[リーブタウン地下]
リーブタウンの地下には巨大な都市が広がっている。
無機質な白い壁が六角形の格子状に入り組み、快適な生活空間が広がっている。
住宅街に売店や飲食店、娯楽施設も揃っている。
この贅沢空間に働き蜂全員が避難……もとい待機しているのだ。
1層だけでも広大な蜂の巣だが、それは8層にも連なり、一種の巨大都市の様相を示していた。
地下7層の会議室にて、いつもの女王蜂6人と、ソーネちゃん、ユイキリ、ジヒナが集まっている。
ジヒナ「よーしみんな集まったな、それでは今から会議を始めます」
ジヒナ「まずは敵勢力の情報を」
スカラ「敵勢力は勇者40万人、一般兵1000万人でござる。全員ガスマスクでフェロモンや花粉対策済みでござるよ」
ザハト「此方は働き蜂1000万人だ。内、剣士と忍者が100万人ずつ、火炎兵が100万人、氷兵が100万人だ」
フレア「問題はステータスだわ」
ミチル「勇者はレベル100〜999、一般兵で50程度。パワードスーツだけでは精々レベル100が限界」
ハッチ「あらら、困ったわね」
ヒョウム「フフン、みんな何を弱気になっているのですか? こんな時のためにアレがあるんですよ!」
ソーネ「そーね、そーね!」
ジヒナ「うん? アレって?」
ミチル「こんな事もあろうかと作っておいたアバター。レベル999相当。無限じゃないから結界の影響は受けない」
ザハト「確か、心臓移植すればいいんだっけ?」
ミチル「……そう。ニンゲンそっくりアバター。みんなで着れば怖くない。という事で、手術を始める」
ユイキリ「ところで私のもあるのかしら?」
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場面は地下8層の実験施設に移る。
暗くて静かな実験施設には、ニンゲンが入る大きさのカプセルがずらっと並んでいて、中にはニンゲンそっくりの少女の肉体が静かに目を閉じている。
ザハト「ほうほうこれが私のアバターか」
施設の奥には9人分のアバターが眠っている。
スカラ「心臓を移すだけでいいとは、便利なものですな」
ヒョウム「……」
ソーネ「ママー?」
ヒョウム「怖くないですから……」
ミチル「では手術を始める」
一人ずつ白いベッドに横になり、機械が勝手に心臓を取り出していく。
ウィィィィン
ずりゅっ
ウィィィィン
ずぼっ
ぷしゅー
ザハト「おっ、いい感じじゃないか。普通に動けるぞ!」
スカラ「無限ステップは不可能でござるが常識的な動きなら問題ないでござる」
ヒョウム「フフン、これならニンゲンを蹴散らすには十分ですね」
わーわー
ぶんぶん
ずしゃぁぁぁ
ユイキリ「はいはーい、みんな静かにー」
ジヒナ「とりあえず、会議を再開しようか」
ソーネ「そーねそーね」
ジヒナ「あと必要なのが、敵が攻めて来る日時だ」
ミチル「人工恒星からの情報によると、1週間かけてしっかり準備する模様」
スカラ「人工恒星すごいでござる」
ジヒナ「了解。では1週間は自由時間と……」
ミチル「その必要はない」
ポチっとな
ジヒナ「えっ?」
ミチル「遺伝子組み換えウイルス放射ミサイルを射出した。さっさと攻め込まないと人類は滅亡する」
ユイキリ「あらあら〜」
こうして人類への宣戦布告が始まった。
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[某東の島国]
某スクランブル交差点にて。
シュン
ぼすん
国民「なんだー」
国民「ぇぇー?」
ざわざわ
ざわざわ
男「うっ!? かはっ!?!? ぐおおおお!!!!!」
男「あ“あ”あ“あ”あ“」
男「ぎゃぁぁぁぁ!?!?」
女「きゃぁぁぁぁ……あれ?」
女「何ともない?」
見事なまでの女尊男卑ウイルス。
遥か上空から撒かれたウイルスは、瞬く間に全国に広がり、全国民に感染する。
男は自我が壊れるほどの苦しみの果てに、女は特に何も感じずに蜂娘になっていく。
10分後には、翅と触覚の生えた美少女達が普通に生活を続けていたのだった。
大臣「みんなぁ〜、タロちゃんだよぉ〜♪」
国民「「「「「キャー♪」」」」」
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ダグヌ「何だと!?」
B級勇者「先程東の某国にミサイルが発射されたようで」
ダグヌ「まずいぞこれは、一刻の猶予も許されない」
ダグヌは拡声機らしきマイクを手に撮りツバが飛ぶのも気にせず叫ぶ。
ダグヌ「全国の勇者よ、緊急事態宣言だ。C級以上は直ちにリグラシティの勇者局本部に来い! 繰り返す、C級以上は直ちに勇者局本部へ来るように」
ぶつっ
ダグヌ「お前らもだ。さっさと蜂駆除の準備をしろ!」
勇者達「ハッ!」
スタタタ
タタタタ
ダグヌ「おのれ蜂どもぉ! 好き放題しやがってぇぇぇ。世界の平和は絶対に守ってやるぞ!!」
ダグヌは拳を握る。
彼の拳は青筋が浮き、小刻みに震え汗ばんでいる。
人類の未来を賭けた戦いが今始まろうとしている!
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アオサ宅、ユイキリは一人で台所に立つ。
ユイキリ「うふふ、平静を保つのは疲れるわ〜」
ユイキリの内には怒りと焦りがマグマのように煮えたぎっている。
アオサが誘拐されたのだ。母親がブチ切れないわけがない。
バリッ バリバリッ
ユイキリは台所の床を乱暴に破く。
すると、古い木製の階段が姿を見せる。
トントントン
早足で降りる。
そこには和風の祭壇が広がっていた。
赤い鳥居、御柱、石畳の参道、そしてしめ縄の巻かれた祠。
祠の前で榊の枝を振り、ユイキリは神に祈る。
ユイキリ「女神さま、娘の危機です。今一度お力をお貸しください」
すると、どこからともなく不思議な声がする。
『心臓に穴を開けるのです。そうすれば道は開けるでしょう』
まさか人類の敵になるとは……最初はこんな予定はなかったのですよ。