勇者のくしゃみ
さっそく被害者が出ました
[アフン視点]
オレはアフン。魔王なんていない平和ボケした世界で勇者をやっている。
勇者のお仕事は世界のおまわりさんだ。
色んな国を巡って困っている人を助けるやりがいのあるお仕事だ。
特別な訓練を受け、厳しい試験を突破する事で【勇者】という職業について、そこから更に実績を積んで階級を上げていくのだ。
ちなみに俺はA級。最強クラスの勇者さ。
今は魔獣討伐のついでに新人育成に励んでいる。そして、アレが新人のポターだけど……
ポター「てぇぇ〜い」
てとてとてと
すてん
ポター「ぶへぇ」ぺちゃ
猪魔獣「ウボァァァァァ!!」
ドゴォ!
ポター「ぐはー」ひゅーん
アフン「おい新人いい加減にしろ! 何で剣もまともに振れないんだ!」
ポター「すみません」
アフン「謝る暇があったら剣を振れ!」
ポター「はいっ!」
ポターはD級勇者で見ての通りのポンコツだ。
猪魔獣のウボアは普通イノシシを一回り強くした程度なのにこの有様だ。
やれやれ、ほんと何でこんな奴が試験に合格したんだよ。
プルルル
アフン「はい、こちらA級勇者アフン」
???「アフンか、こちら勇者局長ダグヌ。突然だが、2時間前にデゲネラ南部に突如謎の孤島が出現。直ちに調査を命じる」
彼は勇者局長のダグヌさんだ。薄毛でこわい顔とこわい声のおじさんだ。と心の中で呟いてみる。
アフン「了解しました」
ダグヌ「詳しい情報はスマホに送ってある。君なら大丈夫と思うが、細心の注意を払うように。では、健闘を祈る」
ピッ
アフン「ふぅ……おい新人、急用だ。行くぞ!」ひゅーん
ポター「はいっ……? ああ〜待ってくださ〜い」
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[クラムシティ 〜潮風かおる港町〜]
ポター「翅が、生えてますね」
アフン「チッ、厄介な」
オレたちは上空から島を見渡している。
しかし、これは参った。一部の女性に触角と翅が生えている。しかも住民は何の違和感を持っていないみたいだ。
こういう事例はいくつか記録が残っている。
例えばゾンビ化、寄生、擬態なんかはただ倒せばいいから分かりやすい。
一方、こうして上手く社会に溶け込む例は数が少なく、そして厄介だ。
本部の即席の環境調査では異常は検出されなかったとの事だが、これは何かありそうだ!
アフン「とりあえず聞き込みだ。行くぞ!」
ポター「はい!」
ひゅーん
すちゃっ
……
アフン「すみません、ちょっとよろしいでしょうか」
男性「ああ、陸のモンか。ここはクラムシティ。なんもねぇ田舎だけどゆっくりして行きな」
……
アフン「すみません……」
男性「ん? 昆虫化? なに言ってんだ? そんな事起こるわけねえだよ」
……
少女M「ネスト♪」
少女N「パパどうしたの?」
少女M「何でもない♪」
少女N「もう〜」
アフン「あのー、すみません」
少女M「はい? なんですか?」イラッ
アフン「いえ、何でも……」
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アフン「どうだった?」
ポター「うーん、みなさん普通に生活してますねぇ」
アフン「ああ。とても平和に見えるが」
ポター「それとぉ……女の子どうしの仲がよろしいみたいです〜」
アフン「そんな事はどうでもいい!」
ポター「はい。すみません」
アフン「とりあえず次の町……んんっ」むずむず
ポター「?」
アフン「は、は、ハァックション!」
ぽふん♪
ぶーん?
ポター「はわわぁ〜アフンさーん?!?!?!」
カサカサ カサカサ
--アフン(蜂)は混乱している。
--ポターは驚き戸惑っている。
ポター「はわわわわ!? えっとえっと、確か本部に連絡を」あたふた
ぽふん
アフン「よっと。ふぅ、何とか戻れたぜ!」
ポター「ほっ、よかったで……って、えええぇーーー!!!!! 女の子になってるぅーーーーー!!!」
アフン「何言ってるんだ? オレは元から女だぞ?」
ポター「えっえっ???」
なんという事でしょう。そこにいたのはアフンのような口調をした少女ではありませんか。
元の服装には翅を出すための切れ目、大きな胸とおしり、くびれた腰。
そして、ぶっきらぼうだった声は高く透き通り耳にスッと入るようではありませんか。
アフン「ほら、さっさと行くぞ新人」
ポター「ええ〜!?」
何事も無かったかのように調査を進めようとするアフン(?)に戸惑うポター。
蜂娘「わぁ美人ですね」
蜂娘「かっこいいですー」
アフン「そうだろ? なんたってオレはA級勇者なんだ」ドヤァ
蜂娘「「きゃー勇者さまー」」
アフンは蜂にモテるようになってしまった。
おかげで情報をペラペラ喋ってもらえた。
アフン「よーし情報集まったぞ。島の奥の【リーブタウン】という所に原因があるそうだ」
ポター「さ、さすがアフンさん……?」
アフン「まずは【クリス間道】を通って【マメポタウン】に向かう。行くぞ新人♪」ぎゅっ
ポター「ええっ!? 手を繋ぐんですか? って近い、近いです!」
アフンは別人のように人懐っこくなって、ポターに擦り寄るようになった。
ポター「すごい、滝の下に車道があります」
アフン「おお、これはすごいな」
ポター「絶滅危惧種のヤマネコです!」
アフン「可愛いな。車には気をつけるんだぞ」
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[マメポタウン 〜牛とミルクが美味い村〜]
ポター「何でしょう、あの赤い屋根の建物は」
アフン「冒険センター? 聞いた事がないな。」
ガチャッ
ぎぎぎ……
田舎にしては大きめな木造建築。薄めの木の戸を開くと中は広々していた。
市役所のように、受付、売店、食堂があり、ベンチも置いてあるので意外と快適だ。
アフン「こんにちは、ここのオススメは何ですか?」
店員「あっ……素敵な方ですね」ぽっ
アフン「あのー」
店員「ハッ、すみません。本日のオススメは豆のコーンスープです!」
腐っても勇者。女の子にはモテるのだ。
むしろ蜂のフェロモンのおかげで余計にモテているのだ。
アフン「へぇ、これが豆のコーンスープかぁ」
ポター「すごいです。お肉も野菜もたくさんです!」
……
冒険センターの隣には民宿がある。小さいながらもしっかりとしたサービスの宿だ。
一通り周辺を探索してから一人部屋で横になる2人。
そしてその夜……
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プルルル プルルル
ダグヌ「こちらダグヌ、首尾はどうだ」
アフン「こちらアフン。報告を」
ダグヌ「ちょっと待てお前誰だァァァ!!!!!」
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一方その頃、アオサはデパートの裏で蜂と戯れていたのだった。
蜂型魔獣が全長30センチなのに対して、普通のミツバチは全長3センチ。
アオサにとっては新感覚かもしれませんね。