嵐を呼ぶ心臓移植
この村の蜂たちの種族は “ミツビー” です。
ざぁぁぁぁぁぁぁ……
雨が降っている。
淡いクリーム色のソファでは、ユイキリがジヒナの髪に触れている。
少し困った顔のユイキリ。短くて硬めの黒髪を根元からくるくる。
くるくる くるくる
匂いを嗅いで、再びくるくる。
ジヒナは気持ちよさそうに目を細めている。
「やっぱりダメね……」
胸に爪を突き立てようとして、くるくる。
お腹の下を抓ろうとして、すりすり。
「ジヒナ、昨日はごめんなさい。」
「えっ?」
「アオサの心臓を食べてから、あなたを見る度にときめいてしまうの。」
「はうっ!?」
アオサの心臓はとんでもない変化をもたらしてしまったのだった。
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(ユイキリ視点)
やっぱりアオサはすごいわ。こんなにも私を変えてしまうなんて。
昨日の嫉妬はどこへやら、ジヒナがキラキラしているわ!
独占欲はどこへやら、今は全てを愛しましょう!
「ジヒナ、私、あなたの事がもっと知りたいわ。」
「あうぁっ、私もです!」
「だから、あなたの世界を見せてほしいの。」
「はいっ、喜んで!」
ジヒナ、今はこのときめきに身を任せましょう。でも『ママ』は2人も要らないのよ。そこは譲れないわ。
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(アオサ視点)
ママがジヒナとお出かけしちゃった。
どうしよう、うーん………そうだ、蜂に心臓移植しよう! 分裂!
ずるずるずるずるずるっ!!!!!
--アオサは7人になった!
7人に分裂して、6ヶ所の蜂の巣に向かう。
残り1人? シェードちゃんと戯れるんだよっ!
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
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[ハッチの巣]
湖の側に広がる広大な縄張り。やはり雨は嫌なのか、みんな巣の中に引きこもっている。
中央の大きな巣にはハッチが座っている。久しぶりだね。
「ハッチ、久しぶり」
「久しぶりねアオサ」
上着を脱いで、抱きついて、心臓を移す。
ずずずずずぷんっ!
ハッチは黒髪のお姉さんになった。
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[フレアの巣]
森の洞窟の奥まで広がる蜂の巣。ストレスが溜まるのか、雨なのに狩りに行く働き蜂もいる。
「やっほーフレア」
「ふん、随分早かったじゃないの。」つーん
熱い中胸に抱きついて、心臓を突っ込む。
ずずずずずぷんっ!
フレアは赤髪の少女になった。
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[ミチルの巣]
山の麓の地下遺跡。いつものように引きこもって機械いじりをしている。
「………」
「………」
冷たい装甲に抱きついて、心臓を押し込む。
ずずずずずぷんっ!
ミチルは青髪のメガネ美女になった。
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[スカラの巣]
ガリア山の山頂付近の空洞、蜜蝋とプロポリスの柱が複雑に張り巡らされている。
「よっ、改めて来たよ」
「ご無沙汰でござる、アオサ殿」
細身の身体を抱いて、心臓を突っ込む。
ずずずずずぷんっ!
スカラは茶髪のクノイチ少女になった。
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[ザハトの巣]
リーブタウン北の草原地帯。蜂たちは雨でも修行を休まない。
「今日も頑張ってるね。ザハト。」
「うむ、アオサ殿が無事に帰って来て嬉しいぞ!」
引き締まった中胸を抱きついて、心臓を入れる。
ずずずずずぷんっ!
ザハトは金髪の女騎士になった。
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[ヒョウムの巣]
自宅の近く、凍りついた六角柱のタワー。
「昨日ぶりだねヒョウムちゃん」
「あっ、アオサ……」ぽっ
幼さが残る身体を心臓が侵食する。
ずずずずずぷんっ!
ヒョウムは白髪のアルビノ少女になった。
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さあ、心臓移植の後はナデナデだ。シェードちゃんも入れて7人同時に分裂ナデナデ。
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
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さて、やる事なくなった。
今は午後3時くらいかな? 空は暗くて太陽の位置は分からない。
うーん………そうだ!
働き蜂全員に心臓移植だ!!
分裂!!
シュバババババババ!!
100万匹ちょいに分裂しながらフェロモン撒いてみんな集める。
ぶーん ガシッ ズボッ
ぶーん ガシッ ズボッ
ぶーん ガシッ ズボッ
こんな感じで100万回の心臓移植が終わる。
美少女大量生産しちゃった。
ワキャワキャワキャワキャワキャ……
とりあえずみんなぎゅっとしてナデナデする。
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
みんな〜一旦蜂形態に戻って〜!
シャキン!!!!!
うん、大丈夫。村の人口の心配は要らないみたい。
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午後4時か。夕食までもう少し時間がある。
そうだ。リュックの中に蜂の巣999個あったんだ!!
ジヒナの世界から持って来たんだ。幻影だけど生きてるらしい。
……うわっ、1000万匹くらいいる!?
大丈夫、反転世界という便利なものがある。
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[反転世界]
ここなら大丈夫。
みんなに心臓移植しよう。
ぶーん ガシッ ズボッ
ぶーん ガシッ ズボッ
ぶーん ガシッ ズボッ
ワキャワキャワキャワキャワキャ……
ワキャワキャワキャワキャワキャ……
ワキャワキャワキャワキャワキャ……
ワキャワキャワキャワキャワキャ……
ワキャワキャワキャワキャワキャ……
ワキャワキャワキャワキャワキャ……
ワキャワキャワキャワキャワキャ……
ワキャワキャワキャワキャワキャ……
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
こんなたくさん飼えないなぁ……この娘たちにはリュックの中で暮らしてもらおう。
赤血球さんお願いします!
>リュックから『容量999』を回収、『容量ω_4』を付与
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[自宅]
ふぅ、今日は疲れた。シェードちゃんを抱き枕にして少しお昼寝。
すやすや
すやすや
すやすや
ガチャ!
「ただいまーアオサちゃん!」
「ただいま」
ガバッ!
「おかえりママー……とジヒナ」
「うーん、おかえりなの。」
「突然だけど、大事な事があるの」
「えへへへ」
おや、なんだろう?
「アオサちゃん」
「アオサ」
「「私たち、結婚します!」」
わー、おめでとう………どうしてこうなった!?
アオサのリュックの中は蜂だらけ。種族はバラバラです。