ママ、私が8歳の時の話をするね。
「ママ、私が8歳の時の話をするね。」
午後6時、黄昏時。空と湖の境界が曖昧になる時。湖の畔の一軒家に夕日が静かに差し込む。
淡いクリーム色のソファーに並ぶ二人の親子。
少女の名はアオサ。昏い海色の髪と全てを射殺す漆黒の鋭い瞳を持つ15歳の少女。今は優しく目を閉じている。
「あらあらアオサちゃん、急にどうしたの?」
母親の名はユイキリ。優しいハチミツ色の髪にコーヒー色の瞳が娘を映す。
「うん、ちょっと昔の事を思い出したんだ……」
青髪の少女は目を閉じたまま、ぽつりぽつりと言葉を並べていく……
○○○○○○○○
[7年前]
ここはリーブタウン、湖に面した山奥の集落。
広がる草原、生命豊かな森、高くそびえる山、そんな中に民家が点在している。そんな場所で私は育った。
ウチは『養蜂』で生計を立てている。蜂型魔獣ミツビーを飼育してハチミツを提供してもらう訳だ。
\ブゥゥゥゥゥゥン/
朝6時に起床、6か所あるミツビー達の巣を巡り挨拶をする。健康チェックや蜂の巣の掃除を手伝い、午後はお花の手入れをする。おいしいハチミツには立派なお花が必須なのだ。
時には花型魔獣に出くわす事もあるが、みんななかよし。
そう。この世界のニンゲンは魔獣と仲良く暮らしているのだ。
キクラ「お姉ちゃんこっちこっち~!」
この子はキクラ。私の妹だ。肩にかかる程度の深紅の髪がゆれて、私と同じ漆黒の瞳がキラキラと輝く。
まだ私が普通の女の子だった頃の話だ。
▼▼▼▼▼▼▼▼
二つのティーカップにはハチミツ入りの紅茶がゆらゆらと光る。
私はスプーンでかき混ぜる。母は水魔法でくるくると渦を作る。
「そうね、あの頃は素直で可愛かったわね。」
「うん……」
静かに紅茶をすする。甘い香りが脳まで広がっていく。
○○○○○○○○
これからだ。二人の関係性がこじれる事件が起こる。……と言っても別に魔獣や悪党に襲われたという訳ではない。
夏の晴れた日、青く透き通った空に軽く巻雲がかかっている。
「お姉ちゃん早くぅ~」
「はあはあ待ってよキクラ~」
今日も私とキクラは山の中を走り回っていた。
キクラは文武両道の天才児、体も強いし魔法もできる。
対して私は何をやってもドンくさい。強いて言うなら蜂に好かれることが最大の長所だった。
「ああっ、あれは、えっと……スターの果実!!」
妹に追いついて見上げると、ガケの中腹に緑色の果実がゆれている。
「すごーい!さすがキクラよく知ってたね」
「へへん」どやぁ
いつもの微笑ましいやりとりだ。
「よーし私が取って来るよ!」
「えぇっ、キクラ危ないよぉ」
「大丈夫大丈夫、えぇっと磁場操作か~ら~の~上昇気流!」
キクラは天才だ。雷と風の2タイプの魔法を同時に操って空を飛ぶ。
「よし採れた~うわっ!?」ぐらり
「危ないッ!」
魔法の制御に失敗したの!? キクラを受け止めるべ走り出す。間に合って!
ドクンッ!!!!!
「ウッ!?」
突然、心臓から衝撃が走り、頭の中に何かが流れ込んで来る。
気持ち悪い、吐きそう、でも今はそれどころではない。
ドサッ!!
見事受け止める事に成功。お互い無傷だった。よかったよかった。
(……ん?妹ってこんないいにおいしたっけ)むにむにぐりぐり
「ッ!!??! どこ触ってんの変態!!!!!」ドガァ
ぐはっ、私は今何をした!?!?
殴られた衝撃で我に返るとキクラはもう300m先まで行っていた。
ブゥン!!
「待って、キクラ……ぇ!?」
言葉が口から出る前、既に私はキクラの腕をつかんでいた。
その時の妹の凍り付いた表情は今も覚えている。
キクラは腕を振り解こうとぱたぱたした後、その場にぺたりと座り込んで無表情で涙を流し、家に帰ると部屋に駆け込み3時間もわあわあ泣いた。
……その後の事はあまり思い出したくない。2年間、キクラとは話していない。
▼▼▼▼▼▼▼▼
「まあ……大変だったわね。」
「うん……」
「アオサ……」
「……ママ、いままでありがとね。」
「ふふっ、どういたしまして。」
ママの膝枕はハチミツより甘いかおりがする。
○○○○○○○○
それから私とキクラは正反対の道を歩んだ。
私は引きこもって蜂と戯れる、キクラは近所の村で人助けをするようになった。
私はママに依存して、キクラは親離れをしていく。
キクラは9歳で家を出て都会の学校に行ってしまったらしい。特待生で入学して学費は免除になったという。
妹の焦ったような張り詰めた表情が忘れられない……
対して私はここでミツビー達の世話を続けている。何事もない平和な日々が過ぎていく。
6匹の女王蜂に名前を付けてもみた。ハッチ、フレア、ミチル、スカラ、ザハト、シェード。
ハッチは頼れるお姉さん、フレアは元気っ娘、ミチルは不思議系で、スカラはクール系。ザハトは男勝りで、シェードは闇をかかえてそう……ヤンデレ?
なぜか蜂の気持ちは分かるんだよね。それからそれから……
▼▼▼▼▼▼▼▼
黄昏時は終わり、満点の星空に祝福されるようにアオサは眠りについく。
「もう、しょうがない子ね。」
母は娘の蒼い髪を繰り返しなでる。質感を確かめるようにゆっくりと。
やがて娘を寝室に運び優しく毛布をかける。
「おやすみなさい、アオサ」
そして静寂に包まれる。蜂も湖も星々も眠りについていった。
あるぇ~ほのぼのコメディを書く予定はいったい……
小説を書くってめちゃくちゃ大変ですね。2000文字にも満たないのにこんなにも時間と労力がかるなんて。