海辺の民家は地獄門
アオサは空を見上げて息を吸い込む。
すぅぅぅぅぅぅぅ…………
星々が楽しそうにキラキラしている。夜風がひんやりと肌に当たる。
マリリンちゃんは家族と上手くやっていけそうだね。よかったよかった。
さぁて野宿しますか……
町外れの森で蜂の巣を作ろうとすると、遠くのほうに、立派な建物が目に入る。
海辺の高台にぽつんと建っている。
近づいてみよう。
ざっ ざっ ざっ
赤茶色の屋根と薄い青壁の地味な一軒家。
ざっ ざっ ざっ
二階建てのようだ。
ざっ。
扉の前に立つ。ちょっと面白そう。ニヤニヤ。
トントン
「すみませーん、誰かいますか~」
返事がない。
「いませんね入りまーす」がちゃっ
ごく普通の民家だ。2LDKって言うんだっけ?
1階には広い部屋、2階には寝室が4つある。
蜘蛛の巣が貼っていて、ネズミやコウモリの魔獣が生息している。
だが、私の心音センサーは誤魔化せないッ!
ドクンッ!
キッチンの下だ。
床を外すと……地下室への隠し通路だ!
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[謎の地下施設 B1]
金属の壁の無機質な通路が続く。一気に雰囲気が変わったな。
カコン…… カコン……
カコン…… カコン……
カコン…… カコン……
私の足音しか聞こえない。
無人の秘密基地。昔は悪の組織が使ってたりしたのだろうか。ちょっとワクワクしてきた。
カコン…… カコン……
カコン…… カコン……
カコン…… カコン……
しばらく歩くと大きな扉が見えて来る……?
これはエレベーターだ! サビついていて動きそうにない。
「修復しろ血小板」
白血球に乗って血小板がエレベーターへ向かう。
1000兆個ほど集まって1メートルほどのアメーバ球になる。
べちゃっ!
べちょっ!
べちゃっ!
エレベーターと融合してその機能を戻していく。
フゥィィィィィィン!
さぁ、下の階には何があるだろう。
▼▼▼▼▼▼▼▼
フゥィィィィィィン……
▼▼▼▼▼▼▼▼
フゥィィィィィィン……
▼▼▼▼▼▼▼▼
フゥィィィィィィン……
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[謎の地下施設 B32]
けっこう降りたな。……うわっ!
『ォォォォォォ……』
『ァ"……ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"』
パシャッ
スマホで撮影する。
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ゴースターLv35(闇)
HP :8525
こうげき:1674
ぼうぎょ:2262
まりょく:1933
せいしん:2612
すばやさ:1415
主な能力
・闇魔法
・憑依
・うめき声
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幽霊型魔獣ゴースターだ! 100体くらいいるよ。
……よく見ると、人と魔獣が合成されてる!
ははーん、読めたよ。これはケモミミ研究施設だね。
尊い犠牲者さん達には蜂になってもらおう。
「いけっ、赤血球!」
>『種族:幽霊』を回収、『種族:ミツビー』を付与。
ぶーん??
--ゴースターはミツビーになってしまった。
まーずーはー
「ナデナデフェロモン!!」ふわり
蜂になったばかりの幽霊さん達がフラフラと寄ってくる。
スーパーナデナデタイムだ!!
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
「よしよし、辛かったね~、大変だったね~、もう大丈夫だからね。」
蜂を引き連れて先へ歩いていく。ナデナデしながら……
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奥には大きな扉がある。分かりやすいな、ここが最奥部のようだ。
「おじゃましまァ~す!」バァン
ゴォォォォォォォ!!
「おおっ、死者の怨念的なパワーで空間が歪んでる!」ワクワク
身長4mほどのデカい幽霊がいる!
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デカゴースLv68(闇)
HP :23508
こうげき:11345
ぼうぎょ:11345
まりょく:13249
せいしん:13249
すばやさ:9441
主な能力
・闇魔法
・殺人ガス
・憑依
・うめき声
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スマホによるとBランク(超大規模災害級)らしい。
--デカゴースは殺人ガスを使った
--アオサに効果はないようだ……
幽霊さんは置いておいて、奥の黒い穴が気になるね。
--デカゴースはアオサに憑依しようとした
--しかし何も起こらなかった……
穴の奥からすごいパワーを感じる。
--デカゴースは闇のパワーを乗せてうめき声を上げた!!
--アオサにダメージはない。
「とりあえず、みんな蜂になっちゃえ!(赤血球)」
>『幽霊』を回収、『蜂』を付与。
--デカゴースはミツビーになってしまった。
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
……あー待って待って! 死者の怨念がなくなって黒い穴が小さくなってる!
「修復しろ血小板」
シュゥゥゥゥ……
よーし、ナデナデする時間ができた。
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
ナデナデ、ナデナデ
よしよし、満足した。
「私はそろそろ行くね。あなたが女王蜂だから、後は頑張ってね。」
5mのデカゴースだった蜂に丸投げして、黒い穴を見つめる。
ゴォォォォォォォ……
奥に向かって風が吹いている。
この先どんな出会いがあるだろう……
▲▲▲▲▲▲▲▲
???
私は…… 逆さに立っている?
海の上……いや、海の下に立っているのか?
近くには……天井からクラムシティが生えている……無人の港町だ。
どうやらこの空間では『上下が反転』しているようだ。
重力はちゃんと上向きなのに、得体の知れない違和感がある。
くるり
うん、しっくり来る。
地面から見て逆立ち空中浮遊の姿勢が楽だなんて、不思議な空間だなぁ。
上には海が広がっているので、嫌でも潮風を感じる。
……ッ!! 何か来る!?
「ギシャァァァァァァ!!!」
「ドラゴン……?」
龍だ。ただひたすらに長い胴体。黒鉄の皮膚に白銀の鱗が反り返っている。
「誰だ、我が領域に踏み入る者は!」
「私はアオサ。ただの村娘だよ。」
「我は、反称龍ギスラヴァール。この反転世界の化身なり。」
「……………」ふぅ……
圧倒的な威圧感に言葉を失う。頭が冷えた。できれば戦いたくないなぁ……
「我が領域に踏み込む者は何人たりとも生かして返さん!」
「私がここへ来たのは事故のようなものだ。このまま何もせずに帰るつもりだが、それでもダメなのか?」
「ダメだ。いつの世もニンゲンは我を騙し、力を奪い取ろうとしてきた。その度に返り討ちにしてきたがな!」
「そっか。つまり私も信用できないと」
「そういうわけだ。潔く消え去るがいい。」
「交渉決裂だね。仕方ない、殺し合いを始めましょう。」キッ
天井の海が割れて、雨が上に落ちていく。
竜巻が下へ吹き付け、雷が昇る。
2人は時間すら置き去りにする超越者。頂上の戦いが今、幕を開ける!
次回はいよいよ最初のボス戦です。