捜し人を求めて
[冒険者ギルド メルカトール支部]
メルカトール支部の屋内は、アルクスのと比べると内装は質素で狭く、ギルド員や冒険者の姿もあまり見られなかった。
大きな街に対し、ギルドの建物は小さいのが原因だろうが、小さいから冒険者が集まりにくいのだろう。建物が小さいのは何か深い理由が有るのだろうか?
「冒険者ギルド メルカトール支部へようこそ。冒険者様方、本日はどのような御用件でしょうか?」
「私はシャロン・ハーミンバードです。用件は、冒険者の所在確認。名前はヴォーデ・アンビシオン。職業は冒険者です」
早速、行動を起こしたか。早いな。
「アンビシオン様ですね。少々お待ち下さい」
受付の女性は頭を下げて、奥のバックヤードへ入っていったな。しかし、奥はどうなっているのだろう? 気になるな。
それに少しお待ち下さい。と言われ少しだった試しはない。まあ、″少し″という定義は人によって違うから、1、2分を少しと捉える人もいれば、数分を少しと捉える人、10分くらいまでなら少しと捉える人も色々だろう。とにかくイライラしても無意味だし、言われたとおり待つしかない。願わくば、あまり時間を掛けずに戻ってきて欲しいが、この世界にデジタル機器がないからな。時間は掛かるだろけども。
「お待たせ致しました。アンビシオン様の所在情報ですが」
えっ? もう分かったの!? つい数分前にバックヤードへ入ったばかりだぞ?
「申し訳ございません。他のギルド員にも尋ねてみましたが、アンビシオン様の所在を知る者はおりませんでした」
「そうですか……」
そりゃあ、数分程度で分かるわけがないか。俺が暮らしていた元の世界なら、携帯のGPS機能などで捜索出来ると思うが、この世界にはそんな物ないだろうしな。結局、人海戦術になって時間も大幅に取られるだろう。
「ですが、街からは出ていないことは分かっております。ですので、街の門兵や他のギルド員にはアンビシオン様を見掛け次第、ハーミンバード様が捜している事を伝えるよう話は通しておきます」
「ありがとうございます!」
これで捜す手間は省けるな。
「良かったな、シャロン」
「ありがとうございます。これもサトルさんのおかげです」
喜んでくれるのは良いが、俺のおかげと言われると首を傾げてしまう。俺、何もしてないし。まあ、村を一緒に出て旅をしていた幼なじみとの再会だ。嬉しくないわけが無い。こうなったら、俺の役目も終わりかな。悔しいけど、邪魔者は退散しよう。
「俺は街の中を見てくるから、シャロンは幼なじみの彼が見つかるまで待っているといい」
「いえ、私も付いて行きます」
いや、君の為を思って離れようとしているのに何故、付いてくるのか。まあ、だからといって断るのも気が引ける。こんな時は、どうすれば……。
「ちなみにサトルさんは、何処に行きたいとかは決まっていますか?」
「お、俺? そうだな……いや、特には。ただ、ぶらりと街中を歩き回ろうとしているだけだし。ここに来たのも、シャロンの同行が目的だし」
何したいかなんて決まってない。今までが根詰めていた環境だったんだし、今くらい自由に生きても良いよね? とりあえず何するか……。
「なら、武器屋なんてどうですか? サトルさんの剣も、そろそろ替え時でしょうし」
「武器? ……ああ、確かにガタがきているな」
俺の剣を見ると、刃こぼれが……。もう限界のようだ。俺が目が覚めた時に一緒だった相棒。とうとうお別れの時がきたんだな。
「さあ、行きましょう!」
「お、おい。待ってくれ!?」
先を行くのは良いが、置いて行かれると困るぞ?
「──キャッ!」
「シャロン!!」
前を見ないからだぞ、シャロン。あっ、なんか怖そうな男にぶつかったけど、大丈夫か?!
「ってえな。何処見てんだよ! 前見とけよなぁ!!」
こ、怖ぇ!! シャロンも腰抜かして泡食ってる。助けないといけない。……怖いけど。薄い金色で短めの髪。目つきは鋭く、敵意剥き出しという感じ。こういう輩には関わりたくない。
「ヴィラル、落ち着け。お前が睨むだけで皆怖がる」
「なんだよ、シオン。手ぇ、離せよ。分かってんよ……宿に戻ってりゃいいんだろ?」
また違う男が登場してきた。今度は、黒髪ショートで優しそうな男……。名はシオンという名らしいが。あの怖そうな男が素直に従うとは、あのシオンという男はどれほど怖いのか。嫌だな。
「あ、ありがとうございます……」
「いや、礼は結構。で、君がシャロンか」
「は、はい……」
なんだ、シャロンの知り合いか? にしてはシャロンが歯切れ悪い返答だし。もしかしたら、新手のナンパか?!
「良かった。君を捜していたんだ。俺達の泊まっている宿に来ないか?」
「えっ? で、でも……」
シャロンが助けを求めている。ここで動かないのは、男じゃ無いな。
「悪いが、あんた何者だ? 彼女に何の用かな?」
「ん? ああ、そうか。悪かった、いきなり宿に連れて行こうとしては、警戒するのも無理は無いか。私はシオン・カムナ。君達と同じ冒険者だ」
良かった。理解が早くて助かる。願わくば、そのまま退散して欲しい。あの怖そうな男を引かせた男だし、これ以上関わりたくない。
「シャロン、君は幼なじみを捜しているんだろう。名はヴォーデ・アンビシオン」
「「──っ!」」
何故、この男がその名を? やはり怪しい……。
「……なんで、ヴォーデの名を?」
「簡単な話だ。彼が俺達のパーティーに入ってるからだ」
なるほど。それなら納得できる理由だ。その話が本当なら。
「では、ヴォーデは貴方達と一緒に……」
「ああ、急ごうか。彼も堪えられそうにないだろうし」
どんだけ我慢弱いんだよ。
俺達は、シャロンの幼なじみであるヴォーデという少年に会う為、シオンという男の後を付いて行った。