商人の街 メルカトール
「ここがメルカトールか。随分と賑わっているね」
「そうですね。私も来たのは初めてですが、この街のことは村を出る前に話を旅の行商人から聞いて知ってました」
しかし、人が多いな。それに商売人も多い気がする。
「この街は、別名【商人の街】と呼ばれてまして、商人達が創ったと街と云われているらしいんです」
「商人の街? それにしては、魔物の襲来に対して対策が出来てない気がするけどな」
魔物に襲われたら、ひとたまりもない。城壁みたいなものは見当たらないし。
「サトルさん、私達はこの街に入るときに、橋を渡りましたよね?」
そういえば、渡ったな。橋なんて。
「それと橋を渡った後に大きな塔もありましたよね?」
塔? ああ、あったな。あれは一体何だって……。
「あの塔には、衛兵がいて魔物が来ないか見張る為で、橋が架けられているのは、魔物の襲撃を限定的にする目的があります。ちなみに、橋と監視塔は西の方にもあるんですよ」
「へぇ、随分と詳しいな」
「あっ、いえ。昔、村に来た行商人の人が話していたので」
ああ、なるほど。旅の行商人から聞いて、この街のことを知ったのか。
「もしかして、この街で合流するのを決めた理由は、その行商人から話を聞いたからか?」
「そうですね。私とヴォーデは、つい最近まで村から出たことが無かったので行商人の人から聞いた街しか知らなくて」
そうか、それなら納得だ。
「それで、そのヴォーデっていう幼なじみはこの街にいるんだな」
「移動してなければ、恐らく」
移動してなければ。って、合流地点なのに移動する必要あるのか? 俺が元いた世界のように携帯などの通信端末で連絡を取れるなら分からんでもない。だが、この世界にそんな物があるようには思えない。まあ、絶対とは言えないが。
まあ、有る無しはともかく、そんな連絡が取れるか分からないこの世界で歩き回るなんて、どういう神経している奴なのか。一度で良いから見てみたい。
「そもそも、そのヴォーデくんは、この街までどうやって来たんだ? 俺達だってアルクスを出た時は、レベルが互いに一桁だったのに。本当に来ているのかも怪しい所だが」
「いえ、確実に来てます。恐らく、旅の冒険者達に付いて来たのでしょう。サトルさんと出会わなければ私もそうするつもりでしたので」
なるほど。レベルの高い旅の冒険者達と一緒に行けば、安心だな。仮にレベルがそこまで高くなくとも集団で行けば、一人で砂漠を越えるより比較的危険性も低くなる。
「それでシャロン達は何故、村を出て旅をしてるんだ?」
「あっ、その……行商人の人から聞く話にヴォーデが触発されてしまって……」
村を出た……と。ふむ、そういう熱くなるものはいつからか失っていたな。いつからだろう?久しく感じていない。元いた世界でも二十歳越えているが、世間一般では若い方に入るけどな。
「一人じゃ危険だから私も付いて来ましたけど……」
なんて健気な子なんだ。猪突猛進タイプの幼なじみを支えるために付いてくるなんて真似、なかなか出来ない。ちょっと嫉妬する。あくまでもちょっとだからね。
「どうしました? サトルさん。どこか痛いんですか、険しい顔していますが」
はっ! 顔に出ていたか。落ち着け、俺。社会人として思ってることを顔に出すなんて、もっての外だろう。
「あ、ああ。大丈夫だ。問題ない」
「はぁ……それなら、良いですが」
この世界で社会人とか関係ないが、大人としてみっともない対応は宜しくない。あのクソ上司が言っていたこと、あながち間違いじゃない事に今気付くとは……情けない。
「シャロンには、いつも迷惑を掛けているな。すまない」
「あっ、いえ。そんなことありません。私も人のこと言えませんし」
シャロンは優しいな……さて、こんな事でくよくよ悩んでる暇も無いか。さて、今後の予定を聞くとしよう。
「シャロン、街に着いたが君の幼なじみとは何処で合流する手筈となっているのかな?」
「ヴォーデとは、この街のギルドで待ち合わせと別れる前に決めましたから、ギルドに行けば会えると思います」
次の目的はギルドか。
「よし、ギルドへ向かおう」
「はい!」
俺達は一路、メルカトールにある冒険者ギルドへと向かった。