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ザマァされた悪役令嬢の、Re:Re:リスタート  作者: 遥彼方
第二章 :Re:リスタート

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62 試合開始

 開会式の後、すぐに一回戦。セスはあっさりと相手を下し、勝ち上がった。


 会場で一度に出来る試合は六試合。学園の剣術大会に参加するのは五十六名。四試合勝てば決勝戦だ。当然、次の試合まで時間が開くのでセスが観覧席に戻ってくる。

 特に一回戦の後は試合間隔が長く、セスと話す時間もあった。のだけれど。


「お疲れ様」

「ありがとうございます」


 ジェイダの用意した飲み物を渡すと、礼を言って受け取ったセスが隣に座る。ジェイダが用意したのは、溶かした砂糖と少しの塩、酸味のある果物の絞り汁を薄めた飲み物。スポーツドリンクのようなそれをセスが一口飲む。


「どうだった?」


 試合がどうだったか。そういうことよりも、ジェームスとの決勝戦をどうするつもりなのか。それが気になって仕方がないのに。聞けない。


「まだ一回戦ですから、なんとも。あまり強い相手でなくてラッキーでしたが」


 また一口飲んでセスが答える。


「相手の人が弱すぎたものね」


 一試合目は圧勝だった。始まりの合図である笛の音がしたと思ったらセスが踏み込んでいて、相手の胴に木剣がめり込み、悶絶して終了。


 ルールとしては体のどこかに剣を当てればポイントが入り、合計点を競う。頭、顔、喉、股間など急所への攻撃は禁止。試合時間は三十分。

 十ポイント先取するか、相手が参ったと棄権したり、ドクターストップがかかれば終わりだ。


 セスの一回戦は、相手が腹に強烈な木剣の打撃を食らって、その場にうずくまって立ち上がれず。そのまま参った宣言でセスの勝利だった。


 大げさに痛がっていたものだから、肋骨でも折れたのかと思ったが、医者の診断は軽い打撲。今もぴんぴんして、観覧席にいる。


「坊主の実力なら、次の相手も問題ない。問題あるとしたら」


 エヴァンの視線が次に当たる相手の試合から、別の試合に移る。そこではデイビッドとリアンがそれぞれ試合をしていた。


「殿下とあの二人くらいだな」


 わぁっと客席から歓声が上がる。デイビッドが相手の木剣を絡めとり、無防備になった相手に連続でポイントを入れたのだ。十ポイント先取で勝ったデイビッドが木剣を掲げ、得意げに観覧席に戻っていく。きゃあきゃあという声援と拍手が二階の観覧席からデイビッドに注いでいた。


 リアンの方は堅実に、しかし確実のポイントを重ねていっている。


「リアンはともかく。デイビッドはあんなに強くなかったはずだが」


 腕組みをしたエヴァンが軽く目を細める。もともとリアンは剣が得意で去年の大会も三位という成績を修めていた。


「でもでも、セス様なら大丈夫でございますよね」

「どうだかな」


 のほほんとしたエミリーの確認に、ニヤリとエヴァンが返す。それを尻目にイザベラはデイビッドとリアンに目を凝らした。


 やはり彼らに黒い影は見えない。


 あらためてイザベラは考える。黒い影とは何なのだろう、と。


 見えたのは、麗子に対して悪意を向けられた時。父親、同級生、先生。近所の人や通りすがりの人間ということもあった。黒い影が大きくて濃かったのは父親だったが、麗子を刺し殺した瞬間のあの男の黒い影は大きく広がり、底が見えなかった。

 そして前のイザベラが死ぬ前。奴隷に落ちたイザベラを買ったモリス伯爵の黒い影。


 カリカリ。


 意識の外で小さな音がするが、構わずイザベラは思考の海に沈む。


 マリエッタに見えた黒い影。セスに重なった黒い影。そしてジェームスを覆っていた黒い影。マリエッタとセスは嫉妬。ジェームスは邪魔者として。どれもがイザベラに悪意を向けた時だ。


 黒い影が見えた時、いつもノイズが聞こえる。ノイズだけじゃない。ノイズと一緒に声が聞こえる時もあった。それは確か。死の時。

 麗子としての死。そしてイザベラとしての死。死の時。どちらにもノイズ混じりの声が聞こえた。


 ――愛されてなどいるものか。祈りなど無意味。救いもなく、救えもせず、死ね――


 脳内を埋め尽くす砂嵐の音のようなノイズが、ゾッとする冷たい形を持って声と成した。


 ――魔……呪……断ち切……ば……――


 そういえば。ノイズが声になった時、いつも頭の中に声がした。あれが女神モイラの声なのだろうか。


「駄目ですよ。お嬢様」


 くいっと手を引っ張られた。唇から指が離れる。


「セス」


 イザベラはまばたきをした。見えているようで見えていなかった景色が目に入り、会場のざわめきが戻ってくる。


「何を考えていました? また爪を噛んでいましたよ」

「あ、えっと。黒い影のことを」


 強い光をたたえた青い目にたじろぎ、イザベラは意味もなく手を振った。


「そうですか。それは結構。それで。さぞかし分析が進んだのでしょうね」

「う……何も進んでないわよ」


 表情の変えないジェイダがはあ、とため息だけを大きく吐いた。


「非効率です。一人より二人。二人より三人ですよ」


 彼女らしくすぱりと両断され、イザベラは肩をすくめる。


 確かに、イザベラだけで考えるよりジェイダやエヴァンに相談した方が早い。

 特にジェイダは博識だ。

 黒い影の正体。それは普通に考えて魔王を含めモンスターたちの瘴気ではないか、というのがジェイダの見解だった。


 イザベラが聖女であるならば、聖女に悪意を向ける存在。それは対局にある魔王やモンスターだろうと。


 マイナーではあるが、魔王やモンスターについての古い文献に。瘴気が黒い影のように見えるという記述があるらしい。


「勝者、リアン!」


 リアンの試合の終わりを告げる、審判の声が響いた。


 大会は勝ち抜きトーナメント方式で行われる。幸か不幸か。いや、ジェームスが圧をかけたのか大会関係者が気を利かせたのか。セスとジェームスは決勝まで当たることがない。デイビッドもだ。しかしリアンとは一つ勝ち上がれば当たる。


 つまり、次の対戦相手はリアン。


 二回戦がもうすぐ始まる。

お読み下さりありがとうございます。


本作は、水曜日の更新。

あなたの心に響きましたら、幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよ試合が始まりましたね! こういう描写は遥さまお得意だと思います。  ――愛されてなどいるものか。祈りなど無意味。救いもなく、救えもせず、死ね―― このノイズ…イザベラでなくても…
[良い点] つぎの試合はリアンですね。 剣の腕が立つとのことですが、上手く勝って決勝に進んでもらいたいですね。 青年よ、頑張れ。です。
2020/08/27 14:57 退会済み
管理
[良い点] 溜め込んでいた間にもう試合が!Σ( ̄□ ̄;) そして秘密の共有化が!!Σ( ̄□ ̄;) 秘密の共有化…この難しいところを穏やかに過ごせて良かった… セス試合頑張れ!でも後々めんどうそうな…
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