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ザマァされた悪役令嬢の、Re:Re:リスタート  作者: 遥彼方
第一章:リスタート

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29/95

28 私はヒロイン

 出た。出た出た出た、モンスター。

 神様。イベントを早めてくれてありがとう。


 アメリアは心の中だけで両手を組み、自分を転生させた神様に感謝した。


 目の前には迫力満点のモンスター。

 アニメや漫画、ゲーム。それら二次元にはない圧倒的なリアリティと存在感ビシビシだが、全く怖くない。

 だって自分はヒロイン。神様と攻略対象たちに愛され、ハッピーエンドを迎えることが約束された、無敵の存在なのだ。

 だからどんなことがあっても大丈夫。


 ――どういたしまして。私の聖女よ――


 中性的な神様の声は心地よく響く。その度にアメリアは、黒髪赤目で妖しい美貌の青年のスチルを脳内再生させて、うっとりと聞きほれた。


 アメリアの前世である、二十代後半のしがないOLだった夢香ゆめかは、きっといつか自分の王子様が現れると根拠なく信じていた。

 顔も性格も、スラリとスタイルも良い、そんな王子様。とはいえ望みが高すぎるのはよくない。収入はそれなりでいい。一般的な男性の収入よりちょっぴり上程度で妥協しよう。


 夢香を好きだと言ってくれる男性だって何人かはいた。しかしいずれの男性も王子様とは程遠く、好みじゃなかった。

 やっぱり最低限、顔は良くないと。生活力も欲しいよね。あと、優しくないと駄目。論外。夢香の眼鏡にかなう男性は中々現れてくれなかった。


 そこのところ、乙女ゲームの攻略対象たちは理想だ。ああ、いつかこんな王子様が現れたらなぁ。うっとりとゲームに浸っては、現実にため息の日々だった。


 そんな夢香に転機を与えてくれたのが、『ローズコネクト』という新作乙女ゲームである。

 休日何気なくスマホをいじっていた夢香の目に飛び込んだ、新作アプリの広告。

 特に予定もなく時間も有り余っていた夢香は、軽い気持ちでクリックして始めた。それがつい、ドはまり。気が付けばメインヒーローのジェームス王子とのハッピーエンドまでやり続けた。

 その後表示されたのは、こちらに向かって手を伸ばす謎のイケメン。


 黒髪に鮮やかな赤い瞳、妖しささえ醸し出す美貌の男が夢香に微笑んでいる。その下には、簡素な文字列と二つの選択肢。


 目の色と同じ艶やかな赤い唇が開き、男性にしては高く、女性にしては低い声が文字列をなぞる。


 ――ゲームのヒロインになるか?――

 『はい いいえ』


 このタイミングで出てくるとは、きっと一度クリアしてから現れる隠しキャラだろう。迷わず『はい』を選択したのが、夢香としての記憶の最後だった。



 スマホ配信の乙女ゲーム『ローズコネクト』は、ヒロインのアメリアとイケメンたちの恋愛アプリだ。

 このゲームは普通の平民だったアメリアが、お忍びできていたメインヒーローのジェームス王子と出会うところから始まる。


 ゲームの『ヒロインになる』ことを選択した、夢香の意識が復活したのも、そこだった。


「何かお困りですか?」


 護衛を巻いて一人きり。お忍びのため平民の恰好をして、きょろきょろとしていたジェームス王子に、声をかけた。その時のアメリアは夢香の記憶もなく、彼がこの国の王子などとは思わなかった。道に迷ったか何かで、困っている人だと思ったのだ。


「あ、いや、僕は」


 振り向いた彼と目が合った、その瞬間。


 ……ああ、私はこの人と結婚する。


 アメリアの脳内でリンゴーン、と鐘の音が鳴り響き、花が咲き乱れた。


 ――その通り。これは運命なのだから――


 ついでに前世の記憶と神様の声も流れ。

 アメリア(ゆめか)は全てを理解した。


 自分はあの乙女ゲーム『ローズコネクト』のヒロインだ! と。

 そして彼は自分を幸せにしてくれる白馬の王子様、ジェームス王子その人なのだ、と。



 それからアメリアは心を落ち着け、素知らぬ顔で彼を自分の実家であるパン屋に連れて行き、焼き立てのパンをご馳走した。


 熱々のパンを掴んで驚いた彼。こんなに美味しいパンは初めてだと屈託なく笑う彼。

 とても整った容姿の彼が子供みたいにころころと表情を変えて、可愛らしかった。


 純粋無垢で、世間知らずで。ひそかに憧れていた近所のカフェ店員のお兄さんもかすむ、キラキラしい美貌。丁寧な話し言葉と、あふれ出る品の良さ。


 三次元のジェームス王子は、『ローズコネクト』のスチルなんかよりも、余程破壊力があった。


 帰り際に「ありがとう」と手を握られ、熱っぽい目で「また来る」と告げられ。

 その後何度かジェームス王子がアメリアの元へお忍びで通い、いきなりクラーク学園の入学の案内が届いたのも。

 クラーク学園でジェームス王子本人が出迎えて身分を明かしてくれたことも。他の攻略対象のヒーローたちがいたことも。

 全て『ローズコネクト』のシナリオと、神様の言う通り。


 ところがイザベラ・サンチェス公爵令嬢。彼女の態度が急に変わった。ちくちくとした嫌味がなくなり、平民を馬鹿にしなくなった。


 どうして急に嫌味を言ってこなくなったの? 悪役令嬢でしょう?

 ま、いいか。出来れば意地悪なんてされたくないし。


 アメリアは不思議に思ったものの、前世と今世に共通するお気楽さを発揮して、気にしなかった。


 ――本当にいいのか?――


 そこへ待ったをかけたのが、神様の声だった。


 ――相手は公爵令嬢で王子の正式な婚約者だ。美しく聡明で家柄も申し分ない。この上性格も良くなってしまえば困るのではないか、聖女よ――


 困る? アメリア(主人公)が?


 首を傾げるアメリアに、神様が続ける。


 ――これからのシナリオ、イザベラが婚約破棄をされる理由を思い出してみよ。アメリアへの嫌がらせと、持ち前の性格の悪さが原因であろうが――


 あっ、とアメリアは理解した。そうだ、イザベラがこのままアメリアに嫌がらせをしなければ、婚約破棄イベントは発生しない。


 ――このままイザベラが婚約者のままならば、平民でしかないアメリアでは、いくら王子に見初められたとはいえ勝ち目などない。よくて側室であろうよ――


 側室。ヒロインなのに、側室。

 ぐらりと視界が歪んだような気がした。


 それって愛人扱いじゃない。一夫一婦制が当たり前だった夢香の感覚で、それは有り得ない。逆ハーはいいけど、攻略対象のハーレム要員になるのはごめんである。

 だからといって他の四人の攻略対象とのエンドも、気が進まない。チヤホヤされるのは悪くないけれど、ジェームス王子がメインヒーローでアメリアの本命なのだ。


「どうしよう、側室は嫌。だけど他のヒーローより、殿下とエンディングを迎えたいの」


 ――案ずるな、アメリア。私の聖女よ。お前が聖女として覚醒してしまえば立場はひっくり返る――


 こうして、アメリア《ヒロイン》のために、神様が新しいシナリオを提案してくれたのだった。

お読み下さりありがとうございます。


本作は、水曜日と土曜日の更新。

あなたの心に響きましたら、幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほお、こうきましたか。 微妙な斜め上展開がいいですね(^^)b 先が楽しみです!
[一言] アメリア暴走しそう……
[良い点] キタキタキタ!!! やっぱりこういう伏線があったんですね>▽<!! いや、想像まではしていませんでしたが、何かある!と思っていました。 イザベラVSアメリア?!? 今後を楽しみにしています…
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