思い悩む若者
俺は借りた部屋に入ると、真っ先に部屋の隅に置かれた質素な寝台へと向かい、固い感触のそこにゆっくりと寝転がった。
「疲れた……本当に、あのパーティーをやめたんだな」
こうして安心して横になれたのは、本当に久しぶりだった。
勇者パーティーは旅の一行であるため、基本行き先で寝泊まりする場所を探すことになる。拠点というものを持つことは少なく、旅先で宿を探すのも仕事のうちだった。
この国から「魔王がいるという」暗黒大陸へ行く道の途中にはいくつかの街があり、そこには「勇者パーティー優遇制度」という制度が存在していた。
勇者パーティー優遇制度というのは、その名称の通り、街に勇者パーティーがやってきたらその一行を迎え入れ、宿や食事などを格安、もしくは無償で提供してくれるという破格のまさに「優遇」される制度だった。初めは、そのように街から優遇されることに感動し、勇者パーティーというのはそれほど国にとって重要な存在なのかと思ったものだ。
しかし、俺がその優遇制度の恩恵を受けさせてもらったことは一度もなかった。
優遇制度で泊まれる宿は、貴族や大商人が利用するような高級な宿であり、そこには一定以上の身分を証明できる者じゃないと入ることを拒まれるという、不文律が存在して居たのだ。
そんなことをしなくても泊まれるような優遇制度をとっている宿は勿論あったのだが、王子は俺に合わせて宿を変えたり、逆に俺が優遇制度を使って宿を泊まれるように便宜を図ったりすることは一切なく、俺は旅先で自腹で宿を探すことを強いられた。身分が違うのなら、この扱いは当然なのだろうと大人しく従って居た。が、俺は正式に王国の勇者パーティーの公募に合格し、認められたメンバーの一員であったのに明らかに不当な扱いを受けていると、とある街の宿の主人に言われて気がついた。
俺の世間知らずさに付け込まれたのだ。
かといって、俺はあの身分は高貴である他のメンバーに直訴する勇ましさは持ち合わせておらず、戦いで活躍すれば、いつかきっと認めてくれると信じて、俺は彼らに同行し続けたのだ。
しかし、結局はモンスター討伐などの戦いでは王子の独壇場でデバフをばら撒くくらいしかさせてもらえず、さらに俺の貢献は地味すぎて終わったあとに「あんたぼーっとしてないで少しは働いたら?」とヘレナ嬢に文句を言われる始末……。
俺の自尊心は毎秒すり減らされていった。偉大なる魔女であった母から教わった魔術も、王国の宮廷魔術師からしたら大したことなかったのかと肩を落とした。
「これから、どうするかな…」
母から学んだ魔術を活かせる仕事に就きたいと思ったが、魔術はどうやら一般的に普及しているものでもないらしく、貴族が行う教養としての側面が強いらしかった。勿論、戦いを行ったり、何らかの問題解決を担う魔術師は存在するが、基本宮仕えの高給取り、それ以外は自称魔術師の怪しい占い師や詐欺師というのが山の外の世界の人々の認識らしかった。
この国で、俺が学んだ魔術を活かしていくのは難しい。魔術に拘るのをやめるか、それとも魔術がもっと一般的な国を探しにこの国を出るか。俺には、後者を実現できるような気力は残って居ない。
ただ、山の中で母と一緒に暮らした世界ではないここで、どのような人間になりたいのか、わからなくなっていた。
あけましておめでとうございます。今年も趣味を楽しんでいこうと思います。