不思議な受付嬢
その少女が出てきた瞬間、俺は不思議な感慨を覚えた。まるで、世界の色が一気に増えたような、視界が華やいだようなそんな感覚。一人の少女が俺の前に現れた時、俺の五感は一瞬確かに支配された。
衝撃的な感覚に驚いて、ガタッと椅子から立ち上がる。すると、それと同時に受付に来た少女がビクッと身体を震わせた。
「あ、あの…」
俺に対して怯えるような眼差しを向ける少女に気付き、俺はやっと正気と呼べる状態を取り戻す。
「あ、すいません……」
俺は椅子に座りなおすと、なんでもありません、と未だ震えが止まらぬ少女に無駄かつ意味のない言い訳を投げかけた。
(この女の子を見た瞬間、何か不思議な感覚を感じた…これは…)
そして俺は改めて受付にやってきた少女を見た。そして俺は新鮮な驚きに目を丸くする。
彼女は、途轍もなく美しい少女だったのだ。高級な糸のような艶やかさを持つ、緩く波打つような長い金髪は後ろでゆるく束ねられていて、肌は雪みたいに真っ白だ。それでいて頬や小さな唇は、健康的に赤く色づいている。怯えで震わせる瞳は大きく、宝石みたいな青色で、長い睫毛によって縁取られていた。
勇者パーティーに属していた頃、王子の婚約者であるエリーザ嬢、カリオストロ、ヘレナ嬢など、美しい女性を目にしてきた。だが、彼女たちとは比べ物にならない魅力を、彼女は備えているように見えた。
(こんな綺麗な女の子、初めて見た…天使とか、妖精みたいだ)
しかし俺は努めて冷静に、ここに来た本来の目的である職探しについて問い合わせる。
「遠くから、ハーゼの街に来て…ハーゼで仕事を探したいんですけど」
「あ、はい…そ、それでしたら、今、求人のリストを持って来ますので…」
「よろしくお願いします」
少女(確かテレーゼと呼ばれていた)が一旦後ろの方へ去ると、やっと俺の緊張は解けた。
ふう、と息をつくと、いくらか気分は元に戻ってくる。
(さっきの感覚、なんだったんだ?)
俺が乱れる呼吸を整えていると、後ろからヒソヒソとした話し声が聞こえてきた。
「あのローブの坊主、完全にテレーゼちゃんに一目惚れしたな」
「くそっ!またライバルが増えちまったぜ…」
「心配しなくても、あんな子汚え男テレーゼちゃんが相手するわけないだろ」
(こ、小汚い…!?体は毎日浄化の魔術をかけているはずなのに…)
袖を鼻の近くに持ってきて俺は自分の匂いを確かめた。無臭だ。まさか周りの人から小汚い男だと思われていたことに衝撃を受けて、テレーゼに感じた感覚のことをすっかりどこかにやってしまっていた。
そうしているうちに、テレーゼが書類を抱えながら戻ってくる。俺は姿勢を直した。
「えっと、今のところうちにきている求人の数は十件です。内訳は庶務系が一件と、残りは肉体労働系です。日雇いと一定期間限定の契約雇用のみで、正規雇用の求人はいまところありません。正規雇用をお探しでしたら、紹介リストに登録するので、お名前と住処の情報を教えてください」
「ほとんどが肉体労働系か…えっと、どんなのがあります?」
山奥で自給自足をしてきたので、体力には自信がある。庶務系と比べると給料も良いので、其方にしようと考えた。
そこでリストを見ると、畑の収穫物の仕分け・運搬の仕事や、街の掃除、建築材の運搬などが並べられている。取り敢えずはお金を稼ぐことが最優先。王都での仕事探しの時のような選り好みをするのは危険だ。
俺は、リストの中から一番給料の高かった物を選ぶことにした。
恐らくヒロイン、テレーゼ登場です