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勇者パーティーの呪術師、辞職する  作者: あじつけのり
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ギルド館、総合受付



 俺は取り敢えず、このハーゼの街を暫く生活拠点として、この街で仕事を探そうと思った。

 魔術師としての職を探すのは取り敢えず資金を貯めるまで保留しておく。勇者パーティーなんて華々しい名前ながら実態が真っ黒な職業に就いてしまったのも、俺が魔法職へのこだわりを捨てられずに焦ったからだった。

 一般職に就いて、世間を学ぼう。

 俺はあまりにも世間知らず過ぎたのだ。

 大体「勇者パーティー」なんていうのが職業として成立しているのはよくよく考えると変ではないだろうか。

 暗黒大陸、魔王、救世のための遠征。やたらと浪漫を煽り立てるようなワードを聞いて、山の外には物語で読んだようなものごとが実在していたんだ!と色めき立ってしまったのが間違いの始まりだった。

 世界をよく見るように___。母の残した言葉の意味が、切実に理解できたように思えた。


 働くなら採用の募集を探すに限る。王都で仕事を探していた時に思ったが、商店などに従業員募集の看板が立っていたり、少し人が集まるところに行けば仕事の依頼のチラシなどが沢山貼られていた。

 以前の世界を舐めていた俺は自分の希望職種以外には目もくれず、畑の収穫の手伝いや書類にハンコを押すだけの仕事を見て「こんな簡単なことでも仕事になるのか…」などとどこか冷めた目で見ていた。

 だが、仕事は仕事。ハンコ押すだけでも、畑の野菜を取るだけでも、こなせば金が貰えるんだ。

 俺は求人のチラシを探しに、ハーゼの繁華通りへと足を運んだ。


 平たい石が並べられ歩きやすく舗装された道に沿うように、露店や商店が立ち並ぶ。王都ほどの活気はないが、人の通りは賑やかでお金のやりとりが飛び交っていた。

「そこのローブのお兄さん!新鮮な果物はどうだい!安くしておくよ!」

「ハーゼのご当地グルメ野菜の丸焼きはどうだ!?」

「昼間からでも酒を飲んだっていいじゃない!王都で話題の『ビアフロア』期間限定開催中!」

 …だが、商い人達の声の張りようは王都以上かもしれない。

 王都の繁華通りは一言で印象を表すなら『洗練』といった感じだったが、此方は『雑多』といった感じだ。通りの中心を歩いているような人たちは基本的に身なりがいいが、ふと道の外れに視線を向けて見ると、浮浪者っぽい見た目の人たちが地面に座って何やら話し込んでいたりする。

 なんか、一気にいろんな種類の人間を目の当たりにし、世界は広いんだなと再認識した。

 一応繁華通りの端と思われるところまで歩いてきたが、何故か求人の広告の類は見当たらなかった。アレは王都特有のものだったのだろうかと思いながら、俺は今度は人の集まるような屋内を目指した。


 戻った繁華通りの露店で野菜の丸焼きを出しているおじさんに、商品を一つ買うことを条件に有益な情報を教えてもらった。繁華通りの端の角を曲がったところに、様々な産業の同業組合『ギルド』の建物と、それら総合窓口となっているギルド館というものがあるらしく、そこには沢山の人が職を求めて集っているとのことだった。

 俺は、ギルドという概念を初めて知ったのもあって、ギルド館の目の前についてもうろうろしていた。

 だが、筋肉で着飾っているのかと思うほどの大男に注意され、俺は勢いでついにギルド館の中へと入っていった。

 扉を開けると同時に鳴った鈴の音は、すぐに喧騒に呑まれていった。

 様々な身なりをした人らが忙しなく行き交い、真面目な顔で意見を交わし、時には明るく談笑する。

 同時に、俺のようにどこかそわそわした様子の人や、崩した身なりの人などがカウンターテーブルの向こうにいる正装を着た人に何やら聞いたり、指示されたりしている。恐らくあそこが求職者を受け付けるところだと思った俺は、意を決してカウンターに向かった。

「すいません」

「はい、あー…職探しの方ですね?」

「はい。そうです」

「申し訳ありません。私はこれから交代です。貴方には、今から彼女が応対しますので、少しお待ちを___テレーゼ!交代だよ!」

 俺が受付に行くと丁度人員が交代するタイミングだったらしく、一言謝られてから女性のものと思われる名前を後方に向かって呼びかけた。

 すると、奇妙なことに。


「テレーゼ…!」

「もうテレーゼちゃんのシフトか!?」

「あの小僧…テレーゼちゃんの受付に一番乗りかよ…羨ましい」


 何やら俺の後ろの方で、男達がテレーゼの名前を連呼していた。なんだ、と思いながらも待っていると、奥の方から女性と交代で、若い少女のような人が姿を現した。




次回でヒロイン(?)登場です

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