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勇者パーティーの呪術師、辞職する  作者: あじつけのり
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最初の就職先は失敗だった

さらっと読める、を目指したいと思います。



 実家から持参してきた麻袋の中身は、もう随分と軽くなっていた。

 パーティーの目を避けて、俺は麻袋の中から親指程度の大きさしかない小さな瓶を取り出した。蓋を外して、瓶の中の液体をあおると、たちまち喉から胃へと続く管をすうっとした感触が滑り落ちていくのを感じた。

 同時に、先程の戦いですっかり消耗した体力そして魔力が回復したのをはっきりと自覚した。


(エリクサーも後3、4回分しかないな…これが途切れたら、戦いはどうやって乗り切ろうか…)


 俺が麻袋の中身を覗き込みながらそう唸っていると、後ろから高慢な印象の少年の声が聞こえた。


「おいグズ!さっさとモンスターから素材を剥ぎ取れ!早くこの臭い血を落とし、宿で休みたい」


 麻袋の中身を見られないようにさっとローブの中に隠し、忌々しそうに俺を呼ぶ少年の元へと向かう。

 白銀の鎧と、真っ青なマントを見に纏い、目の前に横たわる息絶えた巨大なモンスターを汚物を見るような目で見る少年。パーティーリーダーにして、国から勇者の称号を与えられた王子。


「シュバイン殿下、お言葉ですが…」

「おい!グズグズするな!」


 人が折角言葉を紡ごうとしているのを、最後まで聞かずに遮る王子様にいつも通りと内心で溜め息をつきながら、スケープゴートとして身を捧げるべくはっきりとした声で進言する。


「このモンスターから取れる素材、このモンスターの場合それは心臓になりますが、これほど完膚なきまでに叩きのめされては、恐らく無事ではないでしょう。素材として回収するのは、はっきり言って不可能です」

「何!?では僕はただ無用の屍肉を一つ生産するためだけに、王家に伝わる宝剣を三本もふるったと!?一体何のためにお前がいると思っている!」

「殿下の勇者街道を、より華々しく、快適なものにする。そして、パーティーを無事、忌まわしき魔王の存在する暗黒大陸へと導くためです」

「このモンスターの心臓は!我が宝剣に新たなる強化魔術を付与するために必要な素材だったのだぞ!それがなけらば暗黒大陸での魔王討伐を、他国のパーティーに先を越されかねない!やっとの思いで見つけ出したモンスターだったのに、みすみす使い物にならなくするとは!なんと足手まといの呪術師だ!!」


 …一応、王子様が宝剣で素材となる心臓を傷つけてしまわないように、戦闘中モンスターにかけていた魔術を調節していたんだが。

 たかが森に出るモンスター一匹に対して、一本でも十分な破壊力を誇る宝剣を三本もの大盤振る舞いをした王子の手加減の出来なささが直接の原因のように思われた。

 まさか耐久力アップの魔術を、味方ではなくモンスターにかけることになるとは思わなかった。しかしそれもあの宝剣の破壊力の前に為すすべもなく…。全く王子様の無駄な強さには困ったものだ。

 とはいえ、手加減できなかった貴方が悪いです、などという自爆するような発言は決して口にはできないため、俺はただ王子様の八つ当たりをひたすらに受け続けていた。


「貴様には罰を与えてやる。今夜貴様はこの森の中で寝泊まりしろ!いいな!明朝、一番近くの街の広場に来い。次の街へと出発する」

「はい…」


 ここは一番近くにある街からは歩いて半日はかかる森のど真ん中である。明日の日が登る頃にに街の広場に来いということは、逆算してみても、今から歩き出さなければ到着できないだろう。


「飛行車の準備はできたか?」

「はい。シュバイン様」


 シュバインが後ろの方へと声をかけると、鈴のなるような少女の声がそれに答えた。

 勇者パーティーに同行する、シュバイン王子の婚約者の治癒魔術師エリーザ嬢。そして彼女の傍らには、馬が存在しない馬車のような乗り物と、御者の席に座る二人の少女がいた。疲れたような顔をした青髪の少女は、パーティーメンバーの一人であり錬金術師のカリオストロ。もう一人はローブを着込んだ桃色の髪の美少女で、刻印魔術と呼ばれる珍しい魔術を扱う、宮廷魔術師の子女のヘレナ嬢。

 シュバイン王子が車体にエリーザ嬢と共に乗り込むと、ふと俺の方を一瞥し


「遅れるなよ」


 と吐き捨てるように言って扉を閉める。


「それじゃ、頑張ってねー呪術師さん」

「精々モンスターに襲われないようにな…」


 小馬鹿にしたように声をかけてきたヘレナと、興味なさげに呟いたカリオストロ。

 二人が杖をひょいと振るうと、車輪の部分から翼が生え、地面から浮き上がる。

 そして、俺を嘲笑うかのように空高く浮かび上がると、馬が鞭打たれ疾駆するような速さで、俺の元から遠ざかって言った。飛行車は、王子以外の魔法職が運転する高速の乗り物。俺は基本的には後方車輪のところにくくりつけられた絨毯の上にしか乗せてもらえないものだ。

 その絨毯は、車輪に繋ぎとめられていたロープがぶちりとちぎれ、俺の目の前でひらりひらりと落ちていき、森のどこかへと落下していった。


「……………」


 一人、残された森の中で俺は考えた。

 無事に森の中から抜け、王子たちが向かうであろう街の方へと向かう方法?いや、違う。


「………転職しよ」


 劣悪な労働環境から抜け出す決心をし、次に生計を立てる方法について俺は考えていた。







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