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その8 決戦!

夜明けのひかり


-22-



粘りに粘り続けて台風のころまで粘った。この間何をしていたというと温泉での掃除のバイトであった。湯船をごしごしとこすり時間を過ごす。この仕事なら時間を潰せる上にひーくんに見つかることもない。

台風が来たころに決戦を迎えるはず。少なくともふたりのこころが近づくのはこの頃だ。縄の手入れをして時計を細かく見る。記憶通りの時間に行こうと思うと難しい。多少はずれてもいいのだろうと思うけれど、どのくらいが許容範囲なのかはっきりしない。仮に失敗したら私はどうなるのだろうか。もしかしたら消えてしまうかもしれない。そして気がかりなことは他にもあった。実は私の県での高校野球の甲子園出場校が変わっていることだ。もちろん私は野球の結果に介入したりなんてしない。つまり、私がしらないところで運命が変わっているかもしれない。これは恐怖だった。そのせいで私の作戦が上手くいかないかもしれない。・・・・・・しかし決行するしかない、それは間違いないのだ。

台風の夜、私はひーくんを取り返す行動に出た。記憶通りに過去の私の前でひーくんを縄で縛り連れ去る。取り敢えず神社の倉に閉じ込めておく。ひーくんは一言「悪かった」と言った。それ以上何かを問い詰めるということはなかった。ひーくんのやろうとしていることがどのような結果を招くのかは知っている。でもそれでも私のことを考えた行動であることを知っていた以上強くは言えなかったのだった。

さて、あとやらなければいけないことは過去の私の死亡を確認すること。滑って転んで派手に頭を打って死んだのだけど、それは確率からいって本当にまぐれな死に方だと思う。しかし・・・・・・仮に死んでいなかったとしたら、私が直接手を下しても良いのだろうか。いや、そしたら私の認識が変わるから未来も変わる?

「ちょっと待ちな、そこの妖怪」

「・・・!」

「何を企んでいるのかしらないけれど、私の土地で横暴は許さないよ」

まずい。ここで吹浦さんに目をつけられるとは。神様対妖怪。九尾さんのような強い妖怪ならともかく私の腕で神様に勝てるとは思えない。でもここで邪魔される訳にはいかないのだ。

御札が猛スピードで飛んでくる。当たったら痛いとかじゃなくて除霊タイプのものだったら命に関わる。まわりは暗いので避けるので精一杯。雨で地面も滑りやすい。危ない。そして何より私は反撃できるような武器を持っていなかった。縄はさっき使ってしまったし持っているのは身分証と「かえり券」だけ。よっと。しかしここで負けたらすべてがおしまいなのだ!御札がチチチチとかすり、このままでは負けると思い捨て身で吹浦さんの懐に入る。

「なっ?!」

かえり券が発動した。吹浦さんの姿とかえり券が消滅する。二年後に送られたのだろう。私はその場にへたりこんでしまった。足がガクガクしてたてない。かえり券を使ってしまったということは私は自力では帰れないし、それに目的をすべて綺麗に果たすことが不可能となってしまったのだ。・・・・・・しばらくしてよこちゃんがやって来て手を貸してくれてやっと立てた。そして傘を手渡される。きょろきょろしていたよこちゃんは私に尋ねる。

「吹浦は」

「二年後に飛ばした」

「二年後に・・・・・・?」

絶句して私と同じように立ち尽くした。私もしばらくたっていたのだが本来の目的を思い出す。そして私は夜の道を海岸の方へ駆け出していた。雨も風もますます強くなり傘が邪魔になってきた。とにかく駆ける。そして目的地の手前の路地に入る。

「きゃっ!」

ちょうど自転車がそこから出てくる。私はかわしたけど自転車は派手に転ぶ。

「すみませんっ!」

そういってまた駆け出そうとしたけど、転んだ人の顔が目に入る。私だった。しかもその私は何も言わなかったのだ。

「・・・・・・」

その代わりに流れ出る赤い液体がすべてを語っていた。

このまま放置すれば私の夢は叶う。細部は違えど現在の私がそのまま生まれてくるだろう。そして私はその場から駆け出したのだった。


-23-



八月上旬。


「テレビカード買ってきたぞ」

「サンキューひーくん」

千円のテレビカードをテレビの下の機器に入れて電源をつける。高校野球が映し出された。あまり知らないところの都道府県代表同士が競っている。

「たもとさん」

「どうしたのさつきちゃん」

「私を助けてくれたのってたもとさんなんですよね?ありがとうございます」

ベッドの上の怪我人がじっと横たわったままそう言う。

「だって血がだらだら流れてんだもん、そりゃ救急車呼ぶしかないでしょ」

「でも本当に人が通りかからないような時間と場所に通ってくれたからなんです」

頭に包帯を巻いたさつきはそう感謝しているが元はと言えば私が誘拐してさつきに追いかけさせたのがいけない。で、私がさつきを追いかけさせるような行動に出たのは私がさつきだったから。マジややこしい。

「ひーくんお菓子買ってきて」

「わぁったよ」

「私はお菓子勝手に食べたらだめって言われてるので」

「あーそっか、じゃあ私の分だけよろしくね」

「一人でも食うのかよ」

そういって病院の中の売店まで買いに行った。大きい病院だといろいろ中にあり便利だ。私は買いにいかせるだけだけど。

「たもとさんって東海くんの彼女なんですか?」

「そうだよ、恋人らしいことはあまりしてないけど」

「そうなんですか」

「さつきちゃんはひーくんの事好きだからね、残念だったね」

「残念じゃないです」

むぅと膨れる。いや好きなのは解ってるし。残念かどうかはともかくとして。ひーくんがお菓子を持って戻ってきた。私はお菓子を持ってその病室を一旦出て、エレベーターで一回に降りる。お菓子にとってはまわりくどいだろうが売店の前を通って外に出る。

天気は良くてべらぼうに暑かった。良くも悪くも夏らしい天気。病院の脇の公園のベンチでお菓子を食べているともうひとり少女がやって来てベンチの反対側の端に座った。少女は空を見上げて何かを遠く見つめているようだった。

だめだ。ここは少し空気が重すぎる。さつきの病室ならただの頭の怪我だけどここにはどんな人が来るかわからない。気晴らしをするにはとても重すぎる場所だった。

病室に戻ってさつきとおしゃべりする。私そのものであるのだけど、どちらかというと妹がいたらこん感じなのかもしれないと考えたりした。午後からまた治療があるというのでお昼頃に明日も来るよ、と言って帰る。

「ひーくん、午後はどうする?」

「そうだなぁ」

城下町の町並みをゆっくりと歩いているとまた見覚えのある顔がやってきた。九尾の狐だった。

「これはどっちの勝ちなんだろうね?ひーくんかな」

「俺の勝ちか?微妙だな」

「やっぱり負けかぁ」

勝ち負けでいうとそうなのだけど、勝負というよりは戦争だった気がする。いろいろと大変だった。いや、大変とかそういうことではない。時空が私の生まれたところと大きく異なっているのだからわたしが消えるかも知れないのだ。

「たもとちゃんには話してないよね?この後のこと」

「このあと?」

「ひーくんと一緒に帰るんでしょ?」

「一緒に・・・・・・ええと、どうして」

「どうしてって」

「だってわたしが死なない歴史にかわったならそうしたら私が九尾さんやひーくんのところに居られないよ」

「やっぱりそう思ってたんだ。違うよ、戻ったらちゃんと元の世界だよ?」

九尾さんが説明するには、私が飛んだ過去つまりここは私が今まで過ごしてきた世界の過去とは違う世界なのだという。私がひーくんと出会わず、絶望して自ら消えていった世界。それが元々のここ。

つまりここは、今の私とは関係ない、本来なら私が観測できない世界だったのだ。そこをわたしの調節の過去と思い暴れていたというわけだった。

「そんな簡単に幸せなたもとを酷い目に遭わせるわけは無いだろ」

「ひーくん・・・・・・」

「最初は本当に今のあなたの歴史を改変させようとしてたけどね」

おいこら。ひーくんに一発食らわせる。九尾の狐はクスクス笑う。

「それで、私はそろそろ元の世界に帰ろうと思っているんだけど、二人はいい?」

「俺はいいぜ?」。

「私は・・・・・・あと一日欲しいな」

私はこの世界で、もう少しやりたいことがあったのだ。



-24-



病室の窓はとても大きくて暑い外の景色をとてもよく伝えていた。それでいて中は冷房がよく利いていてそとの暑さは伝わってこない、なんとも都合の良い空間だ。その部屋にいるのは「最上さつき」と「湯殿たもと」のふたり。同一人物だけど、まったくの別人。

「さつきちゃん」

「どうしたんですか、たもとさん」

「実はね、私とひーくんは今日で帰るんだよ」

「・・・・・・そうなんですか?!初耳ですよ!」

「ごめんね、もうちょっと長くいられたら良いんだけど帰らなきゃいけないんだよ」

「・・・・・・そうですよね」

時間移動で誤魔化しているとはいえ、もうかなり長い時間をこちらで過ごしている。普通の学生がこんなに長く無断で旅行していればみんな探しているだろう。

「ねぇさつきちゃん」

「なに、たもとさん」

「退院したら夏休みはどう過ごすつもりなの?友達とは出掛けたりするの?」

「友達・・・?」

「そう、友達」

「・・・・・・」

やはり、さつきちゃんは黙り込んでしまう。わかっていたことだけど私がそうだったように仲の良い友達は少ないようだった。

その時病室の扉が開かれて二人が入ってくる。よこちゃんと湯田川さん。ふたりはさつきちゃんの寝ているベッドのそばまでやってきた。大丈夫?痛くない?などと声をかける。さつきちゃんは大丈夫と笑う。

実はこの二人は私が呼んだのだ。ゼロから友達を作るのは大変そうだけど、よこちゃんとはそれなりに面識があるはずだし、湯田川さんは結構社交的でいて優しいし。

「退院したらどこか遊びに行こうよ」

「受験生なのに大丈夫?」

「う、いや大丈夫だよたぶん」

「勉強会」

「そうだね、勉強会もいいかもね、さつきちゃんも来なよ、一緒にやろうよ」

「ありがとう!」



病院の外は見た目通りの暑さだった。短い影の下を選んで歩く。待ち合わせの喫茶店につくと既にひーくんと九尾さんはやって来ていた。涼しい店内で話していた二人のところに行くとどっと疲れが出た。

「たもとちゃん、やりたいことは全部済ませた?」

「済ませたよ」

「じゃあ、もうそろそろ元の世界に帰ろうね」

喫茶店を出て、また町を歩き、お城の跡を通ってとある神社に出る。一人の女性が座って待っていた。九尾さんは彼女と話し出したので、私とひーくんは後ろで待っていた。三分ほどで話がつき、私たちは元の世界に帰ることになる。目をつむって意識が一瞬飛び、そしてまた目を覚ますと見覚えのある風景が広がる。

「はい、これでおしまい。二人とも気をつけて帰ってね、喧嘩しちゃだめよ」

挨拶をして家路につく。途中のコンビニで新聞の日付を見る。旅立った日付と同じだった。まだ夏休みまで何日かあるのを少しだけうれしく思いながら、夕焼けの中を歩いていった。



夜明けのひかり 完






夜明けのひかり 解説とあとがき



「夜明けのひかり」は今までにネットに投稿したもののなかで一番長くなっています。しかし後半は比較的たんたんと進んでいるのでわりと描写が薄いところもあります。4章とか実際の日付では(時間移動なしに)一週間とか平気でとんでますし。


この作品の大まかな流れは

一章 さつきがひのでと出会い、ひのでに恋するけど死んでいく

二章 死んだのだけど妖怪として生まれ変わる

三章 再びひのでと出会う

四章 ひのでの野望を阻止するため追いかけて過去に向かう

という感じです。ややこしいのは1章のひのでが時間移動して来た人なので、ひので目線でいうと3章が初対面になるということ。時間移動が絡むとやっかいですね。


この作品は2014・2015に書いた作品のリメイクですね。当時はペンネーム違ったんですけど、「ロボットの時代」を公開するときに「湯殿たもと」に変えたんですよ。その時はリメイクする気なかったからね。

では次回の作品とかTwitterでお会いしましょう。ばいちゃ。

----ここまでアルファポリス版完結のときの記述。


夜明けのひかり、は高校時代に書いてた「サンライズ」の一部のリメイクなのですが、全編リメイクとゲーム作りが始まりました。お楽しみに、ということです。では。



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