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その5 2年目の7月

夜明けのひかり


-12.5-

「ねぇよこちゃん」

「どうしたのですか」

「あなた最近、巫女としての仕事ちゃんとしてる?」

「してますよ、ちゃんと神社の管理と妖怪の監視も」

「監視がいまいちな気がするんだよね」

「そうですか?」

神社の境内で会話をする二人の前を何かが飛んでいく。ラジコン飛行機か。

「あれだって妖気がこもってるし下で勝手しすぎだよ」

「やめるよう言っておく」

巫女にとっては、正直この神様とは方針があわないと思っていた。神様にしてみれば人間に随分なめられたものだと思っていた。



-13-


九尾の狐。大昔に京で大暴れし、最終的に封印された妖怪。

それが本当は封印などされていなくて、普通に暮らしている、と聞いたのは私が死んだ翌年の夏のこと。というか九尾の狐というものをその時初めて知った。まあそれはいい、その九尾の狐がやってくるということをよこちゃんが教えてくれた。珍しいことだとかありがたいことだから教えてくれたのかと思ったらどうやらそうではないらしい。

「お供のかたが人間なんだけど、その人の名前が気になった」

「なんていう人なの」

「東海ひので」

「・・・・・・ひので?」

「そう」

もちろん思い当たる人がいる。去年の夏にやって来て、そして姿を消してしまったその青年。去年の夏のことがよみがえる。二度と会えると思っていなかったから、すごく嬉しい。

「でもこれは奇跡じゃない。むしろ必然」

「どういうこと?」

「去年の夏にやって来た東海は昨年の夏、つまり私たちからすると今年の夏に出会ったって言っていた。だからへまをしなければ確実に会える」

「本当?」

「本当」

いくら必然だとか、確実と言われなくても私には奇跡のように思える。

「大事なのはここから」

舞い上がる私を押さえるようによこちゃんが言った。真剣な目付き。

「大事なのは第一印象。彼はタイムスリップしてまであなたのことを思ってやってきたのだから、すぐ忘れ去られるような第一印象は駄目」

「うぐぐっ、でもどうすればいいんだろう」

「出会いの詳細は聞いていないからわからない」

どうしたらいいんだろう。二人で考えて悩んでいると、しばらくしてよこちゃんが一つの意見を出した。それはちょっと・・・・・・というような意見だったが私もそれに代わるような案を出せなかった。

「来る日までにもっといい案が出ればそれでいいから、そしたら私に伝えて」

「わかった」

そう言うとよこちゃんはでかける支度をし始めた。巫女装束を脱いで、友達と出かけるような服に着替える。そして「よこちゃーん!」と外から声が聞こえる。湯田川しぐれ、という人でクラスメイトだという。

「どこに行くの?」

「鶴岡までお買い物」

そう言ってよこちゃんは扉を開けて出掛けていった。戸締まりはどうしようか。と、そこに梨香姉さん。梨香姉さんは何故か鍵を持っていたのでかけてしまった。

「私は出入りすること多いから鍵持ってるんだよ、だからこれで大丈夫、さあ帰ろ」

ふもとから荷物を抱え山まで戻ってきたがこれと言う名案は思い付かない。梨香姉さんにも事情を話して考えてもらう。うんうん、と話を聞いていたが笑ってこう言った。

「同じたもとが出来たことだろ?心配すんな、きっと出来る」

根拠はなかったが励まされるような気がした。

「もっとも印象に残るっていっても変人として残るけど可愛い女の子として残るかっていうと・・・・・・」

「姉さん!」

せっかくついた自信が無くなってきた。

「私みたいながさつなのと一緒にいるからだよ、もっとおしとやかなお姉さんと付き合ったらいいんじゃないの」

自嘲ぎみに笑う姉さん。それはやめてという。

「慰めてくれるの?」

「姉さんのおかげて私は変われたの、だからあまりそう悪い風に言わないで」

「ありがと」

梨香姉さんは今度は普通に笑った。



-14-


夏の日差しから隠れるように木陰にじっと待っていた。本当はこんなところにいる必要も無いのだけど、私は少しでも早く見たかったからそこに隠れていた。

「そんなに早く見たかったら駅で待ってればいいのにー」

「それは、ちょっと困るよ」

「会うのが恥ずかしいんだね、ずーっと待ってた好きな人。しかも片思い。そんな気持ちわかるよ」

「片想いじゃないよ」

「でも今度来る彼氏はあなたのこと知らないんでしょ」

「うん、まあそうだけど」

蚊取り線香を炊いて一緒に隠れているのは湯田川しぐれさん。もともと同じ学校だったのだけど私がいなくなってしまったから今はクラスメイトでもなんでもない関係。同じ学校だった頃は話したこと無かったし、今話しているのは本当にたまたま。よこちゃんを介して仲良くなった。

「タイムスリップ私もしてみたいな」

湯田川さんが笑顔で言う。タイムスリップして何がしたいのか聞いてみる。

「まず一つ目は自分の産んだ子供の顔を見てみたいな、きっと感動するね」

「もし子供いなかったら?」

「・・・・・・それはー、うん、そうだね、その時考えるよ」

「あ、ごめん」

ちょっと冗談だったとしても傷つけたかもしれないと思い謝るとけろっと笑う。

「大丈夫だよ、今まで男の人好きになったことがなかったからさ、あんまり結婚する未来とか見えないんだよ。だから余計に気になってさ」

「そうなんだー」

私だってひのでくんと出逢うまではそんなことを思ったこともあった。少し遠い想い出。

「あれ、何してるの」

この神社の巫女、荒海陽子がこちらを覗く。よこちゃんはこんな変なところで待っている二人を不思議に思っただろう。そして社務所に入れてくれた。

「今から待ってもあと六時間もあるのに」

扇風機のスイッチを強に押して汗が吹き飛ぶ。台所から西瓜を持ってきてテーブルへ。

「それで何を話していたの」

「タイムスリップの話だよ」

「タイムスリップ?」

「よこちゃんはタイムスリップしたらどこに行きたいの?」

「私は昔に行ってみたいね」

「昔?」

「いろいろな伝承がこの町に伝わってるけど、それを生で見てみたい」

「伝承?例えば?」

私も湯田川さんもこの町の伝承と言われてパッと思い付かなかった。

「例えば竜神伝説とかー・・・・・・」

伝わっている不思議なこと。実際に見たら不思議でもなんでもないかもしれないけど興味が湧いてきた。

午後も三人でおしゃべりしていた。夏休みの始めの方は宿題に追われていることもないし、とにかく平凡な日々。私以外は。

「で、未来の彼氏が来るんでしょ、どうやってアピールするの?」

「それはね」

興味津々といった目つきで湯田川さんは質問する。私は今の計画をすべて話した。

「それは大胆だね、好かれるか嫌われるかの両極端だよ」

「それが難しいんだよね」

三人で計画を少し練り直す。細かいところに湯田川さんの意見が入って少しよくなった。

「私もこれに代わる意見は思い付かないけど、少しでも応援するよ」

「ありがとう」

午後四時、バスが着いた。そこには二人の影。子供のような姿、でもどこか風格漂う女性と・・・・・・私が求めてきた男性、東海ひので。

私は姿をちらりと見たら一度退散した。計画の実行は明日。よく休んでおこう。



-15-


翌日午前、神社に向かう。作戦決行の最終準備を行うため。九尾さんに用があるので、うまく話しかけられる状況になるまで待つ。よこちゃんとひので君が買い物に出掛けていって、吹浦さんもまた別の方向に出掛けていった。今がチャンス。

「誰かいるんでしょ、出ておいで」

「は、はいっ!」

まさか先に声をかけられるとは、九尾さんはものすごく鋭かったっぽい。

「君は吹浦のとこの妖怪だね」

「はい。湯殿たもとといいます」

「私に用があるんでしょ」

「実はかくかくしかじかというわけで・・・・・・」

私は今までの出来事、そして考えてることをすべて説明した。客観的に見ればとんでもない話ではあるけど、うんうんと聞いてくれた。

「先のタイムスリップの話とかは解らないけど、ひーくんが欲しいんでしょ、それは協力してあげるよ」

「ありがとうございます!」

「いいっていいって」

九尾さんはかなり寛容な方だった。もっと厳しいかたを想像してたけど、そんなことは無かった・・・・・・名が残るような強い妖怪だから余裕があるのだろう。


夕方。山の上の町で私は出かける支度をして待っていた。いや、支度はお昼には終わったのだけど、そのままそわそわして部屋のなかを歩き回っている。しかも作戦まであと四時間もあった。落ち着いていられない、という感じ。夜ご飯もあまり喉を通らずおかわり出来なかった。え?普段から食べ過ぎ?知らないよ。

そろそろ丁度良い時間だと思い山を下る。今日は満月、そして快晴。月明かりが森を照らす。

思ったより早く神社に着いてしまった。早くどころかまだ九時にもなっていない。そわそわして早く出てきてしまった。その辺りを歩きまわって時間を潰そうとするが一時間たったところで限界を迎えた。こっそり裏口から社務所に入る。社務所とよこちゃんの実家は別なのだがこちらに住んでいる。明かりが部屋からこぼれているのでそこを避けるようによこちゃんの部屋に侵入する。よこちゃんは本を読んでいた。

「きっと待ちきれないだろうと思ってた」

と少しだけ笑みを浮かべた。ここにいてもいいと言うのでその言葉に甘える。後でお返ししないといけないね。

一階での宴会は十一時には終わりすっかり静かになった。ひので君も寝る準備をしているに違いない。完全に眠ってしまう都合が悪い。今だ。一回外に出てひので君のいる部屋の窓を叩く。するりと窓が開く。

「こんばんは」

「誰?」

「夜風が涼しいですよ、遊びましょ」

違和感のあるセリフを口に出す。これは湯田川さんの案で不思議っぽさを全面に出した方が良いという。

「東海ひので君」

「なんで名前知ってるのさ」

「知ってるものは知ってるからね」

ひので君は黙ってしまった。少ししてから私はことばを繋ぐ。

「遊びに行こう」

「今から?夜中だよ」

「行こうよ、ほら」

ひので君はジャージて寝ていたのでそのまま連れ出した。手を引いて山を登る。念入りに草刈りをしたり石を取り除いたから暗くても歩きやすい。

「大丈夫?ついてこれる?」

「ちょっと休ませてくれ」

いったん休憩。山の中、静か環境で静かに休む。前にひので君と会ったときは大荒れだったけれど今日は本当に穏やかだった。こうこうと森を照らす満月、涼しい夜風。

休憩を終えいよいよ妖怪の町へ。ひので君はこの真っ暗な町を見てどのように思うだろうか。顔を覗くと寂しそうな顔をしていた。寂しいというか不安なのかもしれない。知らない人に真夜中の山道を歩き回らされたうえに変なところにつれてこられたらそうだよね。敵意を持っていないことを証明したいのだけど。

「さっそく何かしましょ、縄跳び?竹馬?」

このアホの子みたいな発言は湯田川さんから提案されたもの。気持ちをほぐすのにこういう発言をしたらいいと言われたのだけど。

「みんな寝ているじゃないか、それに俺も眠い」

「それじゃ私の家に泊まっていきなよ」

「そうするか」

やっぱり気が立っているようだった。私の部屋にはあらかじめ布団を二人分用意しておいたのでとなりに寝る。

ひので君と少し話したけど、すぐ眠ってしまった。


続きます。


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