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その3 嵐

夜明けのひかり


-8-


七月二十八日。土曜日。回覧板が回ってきた。普段からとなりのお爺さんが回すのがあまり早くないのだけれど、今日はいつもより早いような気がした。中身を見る。

【不審者情報】最近不審者が発生しているので注意してください。

・170センチ、10代、痩せ気味の男

・165センチくらい、10代、ショートヘアの女

ふたり?片方は東海くんだとわかるけれど。もう一人は?東海くんに尋ねてみると、その人は「湯殿たもと」だろうという。探している人・・・・・・?でも更に聞いてみるとそうではなかった。

「たもとが妨害しにきてるな」

「えっ、どういうこと?」

「俺が中三のたもとの自殺を止めれば既に死んでいる高二のたもとにとって良くないことになるのは間違いないからな」

つまり、死んで幽霊?になった「湯殿たもと」が自分の死を邪魔されないためにやって来ている。とてもややこしいけどこのようなところかな。


「今日は風が強いなぁ」

「前線が活発になってきてるんだって」

「今日はおとなしくしているか」

「探さなくても大丈夫なの?」

「天気悪い日に出歩いても見つからないだろうし、それに逆に追い込まれてる側としてはあまり目立ちたくないな」

「そうなんだ」

「別のことでもするか」

「別のこと?」

「室内サッカー」

「サッカーは二人じゃ出来ないよ」

「だよな、ていうか突っ込みどころは室内でなるところだ」

結局物真似大会をして過ごした。東海くんはいろいろな人の物真似がうまかったけど演劇かなにかをやっているのかな、と思った。


お昼を食べたあとはゆっくりと時間が流れる。扇風機の回る部屋で一緒にくつろぐ。

「こう暑いと夏ってかんじだよな、今度やってくる台風が通りすぎたら海に行きたいな」

「そうだねぇ、東海くんは水着持ってるの?」

「買わないとダメだな」

その会話のあと東海くんの目線を感じる。じーっと。

「どうしたの」

「何でもない」

そう言って目をそらす。

「何かあやしいよ」

「怪しくないぞ、たださつきがどんな水着着るかと思っただけだ」

「えっ、うぐぐ、見ないでよもう、恥ずかしいからぁ」


夜も話していた。結局一日中喋っていたことになる。寝る前に話してくれたのは高校生活のこと。随分楽しそう、そしていろいろな人がいるのだと思った。東海くんは文芸部に所属しているらしい。そんな感じはあまりないのだけれど。

「でも、俺が運命を変えてしまったら、そんな高校生活も幻に消えてしまうんだろうな」

「・・・・・・」

さらっと深刻なことを言う。それはそれでこちらの高校に通えばいいとかれは言うのだけれど。しかし、それじゃ元の学校は・・・・・・。

「そんなに深刻なことじゃない、俺は過去に飛んでいるからこちらにだって入れるだろう」

「元のいた世界はどうなるの?」

「俺が行方不明で見つからなくなるんだろう。そしてそっくりさんとして俺が存在する」

「でも、例えば東海くんがたもとさんの自殺を妨げたとしたら、たもとさんと東海くんが出会うことが無くなって、そしたらその世界の東海くんは自殺を止めなくなって・・・・・・?」

頭がこんがらがってきた。ややこしい。

「それはきっと大丈夫さ」

「どうして解るの?」

「ダメだったとしても、それが俺の知るところじゃないからな」

「・・・・・・そうなんだ」

東海くんの言った内容は理論では全然納得できないのだけれど、妙な説得力があった。

「でも、俺は仮に自分が望む世界に変えられるとしても、もうこんなことは二度としたくないんだよ、俺の心の中には一年一緒にいた湯殿たもとが住み着いているんだ」

「でも東海くんは、自殺を止めにやって来たんでしょ?」

「そうだよ、でも本当に俺がやっていることはただの自己満足なんだ。たもとが笑顔になれるかっていわれると、自信ない」

東海くんは淡々と語ったが本当に悩んでいるようでもあった。

「私は他の世界の私と比べて、幸せなのかな」

「それはわからないけど、もし他の世界のさつきがやってきたときに羨ましがるくらいになりたいな」

「うん」

決めた、私は、幸せになる。うんと皆が羨ましがるくらいに。


-9-


今日は雨。いよいよ台風が近づいてきたせいか風も強い。

「雨かー、雪のが良いんだけどな」

「それは天変地異だよ、それに冬になったら嫌というほど降るよ」

「そうなのか、俺はかまくらを一度でいいから作ってみたいんだ、かまくらは作れそうなのか」

「うーん、それはちょっと怪しいかも、雪だるまくらいなら余裕だけど」

「そうか、海沿いだしそんなもんか」

東海くんはなんとなく物憂げな様子で外を眺めている。かまくらのせいではないだろうから、きっとたもとさんの事かだろうか。風で気が音を立てる。台風が本格的に強くなる前に買い物に行ってしまおう。

「東海くん、買い物に行こうよ、雨が強くなる前に」

「ようし、そうするか」

二人で傘を差して買い物に出掛ける。二つの傘が町並みを進んでいく。そして古びたスーパーヘ。台風が通り過ぎるまで外に出たくないので多目に調達することにした。野菜、お肉、たくさん抱えて家路につく。抱えたのは東海くんだけど。

風はますます強くなるばかりだった。海が近いから余計に風が強い。そしてついに私の傘がひっくり返ってしまった。そこへすかさず東海くんが傘を差し出す。ほんの一瞬戸惑ってから私は傘に入れてもらう。相合い傘。何でもないと思えばそれまでだけど少しどきっとする。それからはあっという間に家についてしまう。東海くんはやっと大荷物から解放されるとソファーの上に溶けてしまった。


ガチャリ。


「何の音だ?鍵閉めたのか?」

「閉めたはずだけど」

「見てくる」

お豆腐をいれている後ろを東海くんが抜けていく。急いでしまってついていくとお母さんだった。ものすごく久しぶりのような気がする。

「誰よこの男は」

「東海ひのでと言います」

「その人は旅人さんだよ、家に泊めてるの」

「ちょっと来なさい」

お母さんはやっぱり怒っているようだった。見知らぬ人を泊めたりしたらそれはそうか。お母さんは奥の部屋にいってしまった。

「ねぇ東海くん、台風が来たから仕方なく泊めたってことにしてくれない?」

「わかった」

取り敢えず誤魔化すことにした。ほんとうの事を言ったら東海くんがヤバそう。二人でお母さんのところに行く。

「その男は」

「怒らないで、この人は台風が来て仕方なく泊まったの」

「そういうことなんです」

「そうは言っても見知らぬ男を止めるなんて論外!あんたなに考えてるの、親が居ないところで!」

「お母さんこそ今まで何してたの?全然帰って来ないで、娘を放り出して!」

「そんなのどうでもいいでしょ、今怒ってるのはさつきが勝手に人を泊めたことでしょ!」

東海くんは黙って縮こまっていた。東海くんが原因でもあるし、なにより立場がない。その時また玄関から音。今度はドアを開ける音ではない。そして悲鳴が聞こえる。お母さんが様子を見に部屋を出ていった。

「原因作っておいてなんだが、これはお母さんの言うことが正しいぞ・・・・・・」

「それは解るんだけど、どうしても納得いかなくて、ていうかお母さんはずっと帰ってこなかったけどいったい何してたんだろう」

「仕事かなんかじゃないのか」

「でも全然帰ってこないなんておかしいよ」

「それもそうだな、うーん、どうしたことだろう」

そして玄関から三度目の音。お母さんの悲鳴?急いで駆けつけるとお母さんと知らない男が倒れていた。そこに立っていたのは、セーラー服、黒いオーラ、謎の仮面をつけた、謎の人物。

「たもと・・・・・・」

後ろからやってきた東海くんがつぶやく。

「ひーくん?考えてることは理解できなくはないよ?でも私は受け入れられないよ、帰ろ?」

「駄目だ」

「そっちの私は良くてこの私は駄目?どうして?私が狂ってるから?渡したくないよ、ひーくんは今ここにいる、たった一人の私のもの」

そして仮面の少女は東海くんに駆け寄り押し倒し、マウントを取る。動けなくしたあと仮面を外し、私に話しかける。

「昔の私だね、頑張って?辛いこともあるけど、絶対乗り越えられるから。ひーくんにまた会えるように」

そして東海くんをぐるぐる巻きに縛り、連れ去って行ってしまう。

「待ってっ!」

急いで靴を履き追いかける。誰かわからないけど、東海くんは渡さない。私以外の女には渡さない!走って走って・・・・・・私は小さな段差に足を滑らせたのだった。



・・・・・・

・・・

雨音。ついさっき走っていた路地。さっきと変わらない風景だけど、ひとつだけ違うのは正面に小学生三年生くらいの男の子が立っていたこと。

少年には翼が生えていた。

頭の上に輪。

「あなたは死んだのです。だからはやく天国に行くのです」

「なんで」

「死んだからです」

「そうじゃなくて、なんで死んだの・・・・・・」

言いかけて、もしかして足を滑らせた時に、いや、まさか。

「そこの天使、邪魔」

もう一人の声。十分に聞き覚えのある声だった。

「荒海さん・・・?」

「最上さん」

「この人は天国に行くんですよ、ほらこの書状に書いてあるでしょう」

天使が抗議するように書状を見せつけると荒海さんはそれを取り上げビリビリに破いた。

「未練たっぷり大盛ましまし。そんな人が天国に行って楽しい?」

そして私を見て、

「まだ、やらなきゃいけないこと、あるよね?」

私に手を差し伸べる。私はつい昨日決めたのだ。「私は、幸せになる。うんと皆が羨ましがるくらいに」

だから私は荒海さんの手を強く握る。

「行くよ?」

私は荒海さんに手を引かれて、光の世界へ行ったのだった。




-10-特別編


一年後の夏。

「巫女さんかぁ」

私たちは海辺でふたり、座って話していた。

「そう、巫女」

「家が神社の家だからかー、そうだね、家を継ぐのは仕方ないよねー」

「しかたないっていうか、私は嫌じゃない」

「あっそうなんだ」

意外だと思ってしまった。そうか、確かにそうだよね。

「しぐれはどうするの?高校出たら」

「まだ全然考えてないけど・・・・・・もっと大きな町に住んでみたいな、ビルがズバーンって建ってて、商店街も人が溢れているような」

「仙台?いや東京?」

「そこまではわからないけど暮らしてみたいな、よこちゃんはずっとこの街で暮らすの?」

「家を継いだらそうなる、多分そうする」

「ふーん」

巫女装束は確かに可愛いけど、ずっと巫女として暮らすなんて考えられなかった。冷静に考えればよこちゃんは一人っ子だし、巫女を継ぐのは当然なのだけど、私には十分な衝撃であったのだ。

「そうしたら、仮に私が引っ越していったら離ればなれだね」

「うん」

記憶がある一番古いところからよこちゃんと一緒だったから、離ればなれになることは、少し前まではとても考えられなかった。それが現実になってきたのは、高校で離ればなれになったこと。同じ町に住んでいても別の学校だととてつもなく遠い距離に感じてしまう。平日だって会おうと思えば会えるのだけど、時間がほとんど余裕が無かった。だから休日はいつも二人で過ごしているのだった。

もし、別の町に住んだら・・・・・・と考えると辛い。何でだろう、別にお母さんやお父さんにはそこまで思わないのだけど、よこちゃんに対しては特別な感情がある。

「どうしたの?」

よこちゃんが私の顔を覗きこむ。

「よこちゃん?」

「少し変、ぼーっとしてる」

「なんでもないよ」

もの思いに耽ってるのは今じゃなくてもいい。よこちゃんと話せるのは、あと二年と少し。たったそれだけかもしれないのだ。



第一章、完。二章につづきます。

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