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その1出会い

夜明けのひかり

-0-


夏の日差し。地面はゆらりゆらりと揺れていた。そんな中を体育の授業で走らなければいけない。暑い、しんどい。でもこの授業が終われば今日はおしまい。明日は終業式。そして・・・・・・夏休み。


一時間後、帰りのホームルーム。そして下校の時間。置き勉の音楽の教科書などの分普段より重いけれど、いよいよ夏休みと思えばどうという重さではない。

夏休みにしたいことはたくさんある。海水浴、花火、宿題・・・・・・は別にいいかな。しかし私には、花火や海水浴に一緒に行くような友達はいない。だからといって行かない訳じゃないけれど、寂しい。

(並走や2人乗りはいけないのだけれど)自転車で一人で下校する。家に帰るまでは海沿いの国道をたどっていく。海岸まで迫る山、波の打ち付ける岩場。高速で駆けていくトラック。赤信号で止まる。

「ねぇ、明日どこ行く?」

「明日は家の用事があるから・・・・・・」

「そうか、残念」

後ろで(たぶん)同じ中学校の生徒の会話が聞こえる。なんだろう、少し羨ましい気がする。私だって友達がいたら、お祭り、海水浴、花火・・・・・・何だって一緒に楽しくいられる。

「それじゃ君は暇?」

ポンポンと肩を叩かれる。びっくりしてひにゃって変な声を出してしまう。

「私ですか!?」

「えっ、いや、そのごめんね、突然話しかけられたら迷惑だよね、ごめんね」

そして二人は信号が変わって自転車で走っていった。私も遅れて漕ぎだす。少しよろけながら加速していく。前の二人には追い付けそうになかった。


一番まぶしい季節。

夜明けのひかり、はじまります。




夜明けのひかり -1-


七月二十日。終業式。憂鬱な学校から一ヶ月の別れの期間。私の所属している部活動も三年生の夏は強要されないし、もともとそこまで熱心な部活でもなかった。だからゆっくり過ごせる。・・・・・・でも、時間があってもどうするのかな。本当に勉強するしかやることはないのかも。高校受験に向けて先生は勉強しろとはいうけれど、大学受験はともかく高校受験でそこまでみっちりやるっていうのもあまり気に入らないし(やらなきゃいけないのだけど)、そもそも勉強も好きではないし。

結局、終業式の日もとぼとぼ帰る。せっかくだから寄り道でもしていこうか。最近はお母さんがどこにいるのか、全然帰ってこないし家にいても寂しいだけ。

お母さんと連絡はたまにしているから元気なのは間違いないけどどこにいったのだろうか。親を疑うのはよくないとは思うけど何か危ない仕事をしているのではないか、とまで思ってしまう。それほど帰ってきていない。


今日は荷物が重いから、寄り道じゃなくて荷物を置いてから出掛けよう、と思い一度家に帰る。すぐ家を出て自転車に乗ると気分が少し軽くなる。今まで気分が悪いとは思ってなかったけど今軽くなったということは少し悪かったのかもしれない。

人があまり歩いていない町を駆け抜ける。一人高校生くらいの若い女性とすれ違ったくらいで海岸の入り口に着く。平日だからか閑散とした浜辺の駐車場に自転車を置く。そこへ一人の男性がよろよろと歩いてきた。顔を見るとげっそりとやつれている。普通の疲れかたではないと思わず声をかける。

「大丈夫ですかっ」

「う、ああ・・・・・・」

大丈夫じゃなさそうなので話を聞くと三日も何も食べていないという。家につれてかえってとりあえずインスタントラーメンを食べさせる。

「ふーっ!生き返ったぜぇ」

「大丈夫なんですか?」

「ああ、でもちょっと休ませてくれ・・・・・・」

また倒れてしまった。というより眠っているのかもしれない。寝息をたてている。とりあえずタオルを被せておいた。適当に被せたら顔にかかってしまった。


夜。

「そういえば自己紹介がまだだったな、俺は東海ひので」

「私は最上さつきといいます」

「さてと・・・世話になったな、飯まで食わしてもらって。それじゃ」

東海さんは荷物を持って玄関へ。

「東海さんこれからどこに行くんですか」

「どこかに宿を見つけて泊まる」

「お金、持ってるんですか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

そして彼はうちに泊まっていくことになった。

使っていないお父さんの部屋を掃除して、そこに布団を敷く。お父さんは遠くで働いてるからお盆までは帰ってこないだろう。あまりお父さんのものに触らないでね、と言って、そしておやすみと挨拶をする。不思議な事に、すごく、久しぶりのような気がした。



-2-

「俺は人を探しているんだ」


夏休みの一番はじめの朝。学校は無いのに普段と同じ時間に起きてしまう。穏やかな朝だった。お客さんのいるお父さんの部屋の扉を開けてみる。彼は熟睡していた。

台所に立つ。普段はそこまで難しいものは作らないけれど、お客さんのためにしっかりと料理を作ろうと思う。

「・・・・・・」

冷蔵庫の中は荒涼とした風景だった。やっぱり簡単なものしか作れなそうだった。それでも朝ごはんを誰かと一緒に食べるだけで美味しく感じられるかもしれない。


「何ていう人を探してるの?」

朝ごはんの後、東海くんに聞いてみた。人を探しているというのだから、少しでも協力出来れば、と思う。

「湯殿たもと」

「・・・・・・ごめんね、わからない」

「いや、すぐ見つかるとは思っていないからな。このあたりに住んでいることは間違いないと思うんだけどさ」

「どんな感じの人なの?」

「今十五歳で、この前見たときはショートヘアだった。性格は明るい感じだな」

「会ったことないと思うけど私も探すよ」

「何から何まで申し訳ないな」

まず私はこの町を案内することにした。探すのに役に立つだろうし、もしかしたら住んでいる家が分かるかもしれない。それにしても東海くんは私より年上に見えたがいくつなのか。高校生っぽいけどなんでこんなに自由気ままに人探しをしているのだろう。何か事情があるのかもしれない。

「こっちはスーパー、あそこは温泉旅館。あの向こうには郵便局と神社があるよ」

「郵便局、神社・・・・・・その神社に案内してくれないか?」

「いいよ」


温泉街を見渡す一段高いところにある神社。崖にへばりつくようなところで、普段は静か。お祭りの時くらいしかほとんど来ないけれど。階段を上がると予想に反して一人の巫女さんが立っていた。見覚えのある顔、別のクラスの荒海さんだった。せっせと竹箒で落ち葉などを掃いている。とりあえずお願い事をする。

東海くんは荒海さんにいろいろ話しかけていた。会話の内容はよく解らないけれど、ふたりは知り合いのようだった。口調がそれっぽい。

結構細かく案内しているうちにもう夕方。二人で浜辺で夕暮れを見つめていた。夕日が海に沈んでいき、夏の穏やかな海がそれを映す。

「東海くん」

「どうした?」

「探している人とはどんな関係なの?」

「そうだなぁ、命を助けてもらった恩人ってところだな」

「そうなんだ」

「なんか胡散臭いだろ」

「胡散臭いってわけじゃないけど・・・・・・私は直接人に命を助けてもらったってことは無いから」

「そうだよな」

東海くんの探している時の目は真剣だった。だからきっと本当に大事な人なんだろう。

夕御飯は野菜炒め。いつもより気合いが入って野菜の量も多い。そこまで料理は上手じゃないけど美味しくできたと思う。東海くんの食べっぷりがそれを証明してくれた。嬉しい。




-3-


日曜日、温泉街からお客を乗せたバスが駅へ走っていく。そのバスに追い抜かされながら私は自転車を漕いでいた。中学校に行って「湯殿たもと」の手がかりを得るのだ。住所くらい教えてくれるはず。自転車は一台しかないので東海くんとは一回別れる。別のところを探すという。

しかし、中学校について先生がたに訊いてみるとそのような生徒はいないという。ショックというより心配になってきた。東海くんは全く別のところで人探しをしているのではないか。早く知らせなきゃ。急いで戻るけど家にはいない。温泉街の方に出ると誰かと話している東海くんを見つけた。・・・・・・学校の中でちょっと苦手な嵯峨と花園だった。少し遠くからちらちら見ていることにする。

「最上さん」

わわわわっ後ろにいたの?!、ビックリしたよもう。そこにいたのは荒海さん。

「人探し?」

「そうだよ、湯殿たもとさんっていう人を探しているの」

「私も手伝う」

「本当?」

「協力する」

「ありがとう」


夜。

「なかなか見つからないもんだな、一回人に尋ねたら通報されたし」

「ははは、まあ怖いって思うひともいるかもね」

「最上はよく泊めてくれたよ、助かったけどちょっと不用心かもな。もし俺が変態誘拐魔だったらどうするんだよ」

「もしかして変態誘拐魔?」

「断じてちがう。もしかしたりしない」

「そうだよね、でも私は一人よりは誰かいてくれた方が楽しいから」

「・・・・・・」


翌日。七月二十三日。今日は平日だけど夏休み。今日も人探しを手伝う。私の住んでいる町には中学校が二つあり、昨日訪ねた学校とは別の学校がある。そこにもしかしたら通っているかもしれない。

家の近くの駅で列車を待つ。

「結構遠いのか」

「歩いて行ける距離じゃないよ、それに歩道が狭くて危ないし」

「なるほどね」

列車に乗り込む。トンネルの間からちらりと海が見えるのだけど、東海くんは車窓のその海に釘付けだった。五分くらいで目的の駅に着く。一駅だけど結構遠い。ホームに降りた途端に夏の空気が支配する。屋根もないので蒸し暑いけれど、そこからは爽やかな海が見えていた。

駅の近くの中学校に入る。自分の通ったことのない学校に入るというのは不思議だ。東海くんと出会ったことのが十倍は不思議なのだけど。

しかしそこでは湯殿たもとという生徒は見つからなかったのだった。

・・・・・・

校舎を背にしてとぼとぼ歩く。夏の照りつける日差しと海風。

「手伝ってくれてるお礼に何か奢ってやりたいところだが金が無いからな・・・・・・」

「いいよいいよ、人探しを優先させた方がいいよ、それに東海くんはお客さんだし」

「悪いな、そのかわりしてほしいことは何でも言ってくれ、何でも手伝うぞ」

ちょうどその時、前からお巡りさんが歩いてくる。最近不審者が出たらしいので注意してください、と言われる。たぶん東海くんの事だろう。怪しい人がいたら通報しますよと東海くんは言う。お巡りさんが通りすぎて見えなくなると東海くんは、

「生きづらい世の中になってしまったな」

などと言う。その発言不審者だよ。やっぱり変態誘拐魔。


家に帰ってもお母さんがいる気配はなかった。最近全然帰ってこない。どこにいるんだろう。昨日電話したら元気そうだったのだけど。

「お父さんとお母さんは何の仕事をしてるんだ?忙しそうだけど」

「お母さんはよく知らないんだけど・・・・・・お父さんはね、南米の国の日本大使館で働いてるんだよ」

「大使館だと、そりゃすげーな」

「南米だから日本と昼と夜が真逆なんだ、だから電話しづらいね」

「そうだなぁ、難しいなそれは」


続きます。



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