服について~植物繊維
先にあげた、天然の植物系繊維の加工について。
・天然物(植物性)
山地に生えている樹木あるいは草本から得る繊維。こちらの世界でいうと、クワ、クズ、ヘンプなどのような樹皮から取れる繊維。こちらの世界で素材から糸を作るには、叩いたり、水に晒したり、蒸したり、アルカリ蒸解したり、腐らせたりと様々な方法を取る。
これは要するに、取り出したい繊維は丈夫で邪魔な部分は弱いということから、弱い部分を取り除けば丈夫な部分は残る、みたいな使い方であるが、向こうの世界の場合は、もっと都合の良いものがある。
それは虫を利用する方法である。
弱い部分というのは、虫等にとっても消化しやすい部分であるので樹皮等の繊維の多い部分を取ってきて、軽く叩いたり水に晒して弱らせたあとに虫と一緒にツボなどに入れておくのが常法。便利でありがたいとは思われていても虫に対しての嫌悪感のようなものは向こうの世界にもあるので職業としては人気がない。
具体的には様々な下処理を施した材料と虫をツボに入れて(量にも依るが)3日ほどで繊維が残る。ツボに水を満たすと虫が逃げ出すので繊維を回収できる。その前に虫の排泄物の除去と虫のついた繊維の一部を別のツボに入れていわゆる種菌のように保管することが望ましい。
これで樹種にも依るが結構綺麗に繊維が残る。
この時の虫の排泄物は炙った樹皮と煙を混ぜたような匂いがして、水に溶くと媒染液としても利用できるらしい。この虫自体は一ミリほどのアリのような生き物だが負の走光性がかなり高いらしく、窓のない部屋と明るい廊下の組み合わせで外に出ることはおおよそ防げる。
本来はこの辺りの土地の生き物ではないが頑丈な生き物なので温度管理に失敗しなければ全滅することはほぼほぼない。この辺りの土地では脱走されても余り被害が拡大しない。この大陸は全域が生存に不向きであるが、もっと温かい国では『森喰い』と呼称される災害に発展する可能性もある。
綿花の栽培が余り流行しなかったのもこの虫を使った方法が結構効率が良いためである。
量も取れる方法なので街中で見る繊維というのはおおよそこの方法で作られたもの。
ただ、ざっくり木の皮から取られて虫を使ったもののために、高貴なお人からは人気が少なめ。
おまけ・高貴なお人の植物繊維
特別なお客様のために池に自生する蓮の繊維を使った織物がごく少量ながら作られている。手作業のために高価で発色もいいらしい。シルクとは別の意味で染師が緊張するタイプの繊維だそうだ。