表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/17

可哀相なジゼルージゼル視点ー


 私は16歳のあの日までただの平民ジゼルだった。


 私には貴族様の血が流れているのに、なぜこんな貧乏な生活なの?

 お母さんはただ毎日泣いて、仕事をしないから私が働くしかない。

 だって働かないと、お腹が減るから。


 お母さんの薬という名のお酒代も馬鹿にならない。

 お酒がないと、お母さんは暴れるの。


 なんて可哀相な私。


 でも、お金を稼ぐのは簡単。

 なぜかは分からないけど、私が相手の体に触れると、皆私の言うことを聞いてくれる。

 そして、可哀相な私にお金をくれるのよ。

 ただ、貰うだけじゃ悪いからお返しに、朝一番に私が摘んだ花を一輪あげるの。


 なんて優しい私。

 ちゃんと気遣いだってできるのよ。


 16歳になったばかりの頃、仕事から帰ると、この界隈(かいわい)では場違いなほどの豪華な馬車が、家の前に止まっていた。

 何かあったのかと思って、急いで家の中へ入る。

 そこに、一目で貴族だとわかる男性が、我が家の簡素な椅子に座っていた。

 お母さんはその男性の足にすがりついて泣いていた。


「ジョセフ様! やっと私を迎えに来てくださったのですね! ずっと……お待ちしておりました……」

「うるさい、無礼者! 私に触るな!」


 そう言って、男性はお母さんの腕を掴み立ち上がらせると、顔を殴りつけました。

 お母さんは床に倒れて、痛いのかうめき声をあげています。

 そして、男性はお母さんの鳩尾(みぞおち)辺りを思いっきり蹴り抜きました。


 お母さんの口から汚物が撒き散らされます。


 男性は眉をしかめ、何事もなかった様に椅子に座ります。

 男性が手を振ると、周りの人達がお母さんをその辺の部屋に運び込みます。


「ジョセフ様ー! なぜ、このような事を! 離せっ! 離しなさいっ!!」


 お母さんは何か叫んでいましたが、私は「床に散らばった汚物を片づけるのが面倒だなぁー」と考えていました。


「君が最近町で噂の聖女様かな?」


 男性は突然私に問いかけました。


 聖女様ってなんの事? 私はわからず首を傾げました。


「では、質問を変えよう。君は毎日噴水広場辺りで花を売っているね?」


 確かに毎日噴水広場辺りで、お金を貰っている。

 端から見たら、それは花を売っているように見えるだろう。


 私はこくりと頷く。


 その返事を聞いて、男性は手を私の前にだす。


「確かめたい事があるんだ。私の手を握ってみてはくれないか?」


 またこくりと頷き、私は男性の手を握る。

 すると、男性は驚いた顔をしていた。


「まさか、これ程とは……」


 男性はごくりと唾を飲み込み、ニヤリと笑います。

 その笑みに私は背中がゾクリとしました。


「名はジゼルと言ったか? お前は今日から私の娘。ジゼル・ミューラー伯爵令嬢だ。随分待たせてしまって悪かった。私と一緒に本来お前がいるべき場所に帰ろう」


 私、夢でもみているのかしら。


 いつも願っていた。

 貴族様のお父さんが私を迎えにきて、私は貴族様の令嬢になり、毎日働かなくても贅沢な暮らしができる事を。

 もう、お腹がすいて飢えに苦しむ事もない。

 寒さに震える夜もない。

 お酒がないと暴れて暴力を振るうお母さんに、怯える事もない。

 なんて、素敵な事でしょう。


 私はこれからの未来を思い描くと、嬉しくてしょうがない。

 いつぶりだろうか……。

 もう覚えていないけれど、私は満面の笑みを浮かべ男性の手を取った。




 ♢  ♢  ♢  ♢





 貴族で魔法が使える15歳~18歳の子供は皆、王立魔法学園という学校に入るらしい。

 平民でもたまに魔法を扱える者がいるらしいが、それは奇跡で、無いに等しい。

 魔法は貴族だけが扱えるもの。

 それが、この国の常識だと家庭教師に教わった。


 私は貴族になれば、毎日優雅で贅沢な日々が待っていると思っていた。

 それなのに、私は毎日ご飯の時以外は勉強ばかりさせられている。

 魔法学園に入るまでの1年で、貴族として最低限の知識を身につけなければならないらしい。


 確かに今の生活は、贅沢でお腹が減る事はない。

 でも、自由な時間が全くないのだ。

 これでは、前の生活の方がマシだ。


 私はやっぱり可哀相な子。


 今は、魔法について基礎を学んでいる所。

 私は『魔法の才能がある』とお父様に言われたけれど、魔法なんか使った事がないから、さっぱりわからない。


「聞いているのですか! ジゼル様!」


 また私の家庭教師は怒っているわ。

 毎日毎日よく飽きないものね。

 そんなに眉間にしわを寄せては、後がついてしまうわ。


 私は家庭教師の眉間をぐりぐりとほぐしてあげた。

 私は優しいから、気遣いができるのよ。


 家庭教師は私に触れられて驚いた顔をしていた。

 そうでしょう。

 私が優しすぎて、さぞ驚いたでしょう。


「ジゼル様はなんとお優しいのでしょう。私少し厳しくしすぎましたね。ジゼル様はそのままで充分だというのに」

「そんな事はないわ。私が不出来なのがいけないのよ」

「いいえ、そんな事はありません。私が愚かだったのです。もう今日の勉強はいいでしょう。ジゼル様の好きな事を致しましょう」

「いいの? お父様に怒られない?」

「そんな事にはなりません。私がしっかり『お嬢様は優秀でした』と伝えますから」

「ありがとう。では、庭でアフタヌーンティーはいかが?」

「もちろん。ジゼル様のやりたい事を誰が止められましょう」

「まぁ、おおげさな」


 フフフッと笑って、私は侍女に準備を言いつけてから、ゆっくりと庭へ向かいます。


 家庭教師も町の男達と同じ。

 触れてしまえば、私の良い様に動いてくれる。


 なんだ、私の幸せはこんな簡単な事で得られたのね。

 でも、私の幸せはもっと上にあるの。


 何故かはわからないけど、この不思議な力を使って、私きっと幸せになるわ。

 この力はきっと神様から、可哀相な私に送られたプレゼント。

 大事にするわ。




 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ